メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.02.22

中国における反腐敗キャンペーンの経済的効率性

Le Mondeに掲載(2022年1月14日)

キヤノングローバル戦略研究所 英文サイトに掲載(2022年1月28日)

中国

セバスチャン・ルシュヴァリエ:フランス・社会科学高等研究院(EHESS)教授、日仏会館・フランス国立日本研究所(UMIFRE 19)研究員、キヤノングローバル戦略研究所インターナショナルシニアフェロー

この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2022年1月14日付けの仏ル・モンド紙に当初掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる: (翻訳:村松恭平)https://www.lemonde.fr/idees/article/2022/01/14/l-efficacite-de-la-lutte-anticorruption-en-chine_6109525_3232.html


セバスチャン・ルシュヴァリエはこの記事のなかで、習近平国家主席が中国国有企業に対して実施した反腐敗キャンペーンの不確かな結果に関する研究(中韓研究者による共同研究)について伝えている。


習近平が2013年に開始した反腐敗キャンペーンは、中国国有企業の財務パフォーマンスを大幅に向上させた。二人の経済学者(韓国人と中国人)による研究がそのことを明らかにしたが、彼らの研究目的は習近平政策の有効性を認めるか否かではなく、権威主義体制を背景とした腐敗と成長の関係の分析に貢献することである(« The Effect of the Xi Jinping Administrations Anticorruption Campaign on the Performance of State-Owned Enterprises », Kwangho Jung and Long Piao, Asian Survey, septembre-octobre 2021

中国で(1978年から2003年の間に)実施された経済改革の最初の二つの段階は民営化を徐々に推し進めたが、そのことが腐敗を明らかに増加させた。その対応策として、2004年からは国有企業数の絶対的および相対的な増加が見られた。この第三段階によって腐敗を大幅に減らすことができなかったため、2013年から反腐敗キャンペーンが実施された。

アジアの複数国での先行研究によって高水準の腐敗と良好なマクロ経済パフォーマンスの間のつながりはすでに明らかにされており、そこから「アジアのパラドックス」というテーマが生まれた。それは、一部の権威主義国家では腐敗が存在しても経済成長は可能であり、それどころか、腐敗が効率性の源にすらなり得るというものだ。

2013年以降の新たなアプローチ

鄭光浩(Kwangho Jung)氏と朴龙(Long Piao)氏はこのパラドックスを説明するために、私利のみを追う腐敗と「効果的な」腐敗を区別しようとはせず、腐敗とマクロ経済パフォーマンスの関係を研究した。彼らは中国の国有および民間企業約2,500社に関するデータベース(2003年〜2017年)を利用することで、この二つの企業タイプのパフォーマンスを2013年より前と後で比較することができた。

国有企業の財務パフォーマンスは向上しただけでなく、国家によるコントロールがより小さい民間企業のパフォーマンスを平均して上回った。

この二人の研究者が取り上げなかった重要な問題が残っている。習近平の本当の目的は、国有企業のパフォーマンスを向上させることだったのか? あるいは、彼の狙いはそれよりずっと政治的なもの——反対者やライバルを排除しながら、何らかの形の正当性を得ることで権力を握り続ける——だったのか? 確かなのは、この反腐敗キャンペーンが財務パフォーマンスを問題の発見およびその解決の二重基準として採用したことで、それまでのキャンペーンとは一線を画したということだ。

成長のための効果的な手段

だが、成長政策の点でいくつかの教訓をこの研究から引き出すことができる。主な教訓として、中国の場合、2013年から実施された反腐敗政策が経済的観点では有効だったとしても、本政策が長期的に持続可能かは分からない。というのも、この政策は透明性を向上させるための体制的メカニズムではなく、腐敗が疑われた幹部たちの抑圧に基づいているからだ。

この反腐敗政策は国有企業の活動へのより大きな国家介入をもたらし、国有企業にとって、そして地域的な経済発展に関して、より大きな不安を生じさせた。しかし、中国のケース以外では、権威主義体制にあっても腐敗は避けられないものではないということをこの研究は示している。

腐敗という問題において、民営化や自由化は解決策にならないどころか、事態を深刻化させ得る。逆に、反腐敗政策は企業のパフォーマンスを向上させ、効果的な体制的変化を促すことで国家の力を強化し得る。反腐敗キャンペーンはまさに発展のための有効な手段なのだ。