メディア掲載 グローバルエコノミー 2022.02.22
共同通信より配信
2019年末に初めて認知された新型コロナウィルスは、世界で猛威を振るい、昨年末までに感染者数の累計が2億7000万人以上、死者の累計が500万人以上に達した。世界での死者が500万人を超える感染症のパンデミックは1918~1920年のインフルエンザ大流行、いわゆる「スペイン風邪」以来である。
細菌の機能を抑える抗生物質が発明された20世紀以降、今回の新型コロナを含め、パンデミックを引き起こすのはもっぱらウィルス性の感染症となったが、19世紀までは細菌性の感染症、特にペストが主要なパンデミックの原因であった。ペストのパンデミックとしては、ヨーロッパの人口の約1/3が失われたといわれる14世紀の「黒死病」がよく知られているが、ペストは決して遠い昔の感染症ではなく、最後のパンデミックは19世紀末に発生し、アジアを中心に約1000万人が死亡した。1896年4月3日付の『読売新聞』は、「黒死病遂に横浜に来たる」という見出しで香港から横浜に来航した船の客の1人がペストで死亡したことを報じている。
この時のパンデミックは特にインドに深刻なマイナスの影響を与えたが、流行を免れた日本には経済的にむしろプラスの影響があった。当時、日本とインドはアジアにおける綿紡績業の拠点であり、中国市場をめぐって競争関係にあったが、後発の日本製綿糸は中国市場における評価でインド製綿糸に一歩譲っていた。しかし、ペストのためにインドから中国への綿糸輸出が激減したため、日本からの輸出が増加した。そしていったん日本製綿糸を使用した中国の織物業者は、その品質の高さを認識し、以後継続して日本製綿糸を輸入するようになった。実際、1896-97年を転機として日本から中国への綿糸輸出が急増している。
パンデミックは人類にとっての危機であり、世界はその克服に全力を挙げなければならない。一方で、この危機が各国の経済にとってプラスにもマイナスにもなり得ることに注意する必要がある。