メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.02.21

オフショアリングに見舞われる番となった中国

Le Mondeに掲載(2021年12月10日)

キヤノングローバル戦略研究所 英文サイトに掲載(2022年1月27日)

中国

セバスチャン・ルシュヴァリエ:フランス・社会科学高等研究院(EHESS)教授、日仏会館・フランス国立日本研究所(UMIFRE 19)研究員、キヤノングローバル戦略研究所インターナショナルシニアフェロー

この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2021年12月10日付けの仏ル・モンド紙に当初掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平)
https://www.lemonde.fr/idees/article/2021/12/10/la-chine-frappee-a-son-tour-par-les-delocalisations_6105442_3232.html


セバスチャン・ルシュヴァリエはル・モンド紙のこの記事のなかで、韓国企業がかつては中国で行っていた生産のいくつかのリショアリング戦略に関する研究結果について伝えている。



新型コロナウイルスのパンデミックにより、韓国では生産の国内回帰(リショアリング)が新たに広がっている。特に電子機器、自動車、繊維といった部門に影響を及ぼしているこの流れの大部分はこれまで中国に置かれていた工場の生産に関わっており、今後さらに加速するであろう。(« Changing GVC in Post-Pandemic Asia : Korea, China, and Southeast Asia », Keun Lee and Taeyoung Park, ソウル大学校経済研究所のワーキングペーパー, 2021年10月)

20年以上前から、生産移転(オフショアリング)は経済協力開発機構(OECD)諸国ではグローバル・バリューチェーンの形成の最も目に見える表れだった。労働の国際分業のこの深化は世界全体の生産ネットワークの発展だけでなく、一部の国々、特に中国への生産能力の集中もまたもたらした。このプロセスによって生じた利益はもはや明示する必要はないが、構造的リスクも現実に存在する。

韓国のような国——韓国の多国籍企業はグローバル・バリューチェーンにおいて主要な役割を果たしている——にとって、生産の国内回帰は真の転換を成している。この転換は三つの要因が結びついた結果だ。一つ目は、2010年代初めからの生産のデジタル化がオフショアリングによる比較優位を変化させ、本国に有利となったこと。二つ目は、アメリカと中国の貿易対立によって一部の多国籍企業が中国での生産をアジアのほかの国に移転させるようになったこと。三つ目は、外的ショックを受けた場合にこれらのバリューチェーンが脆弱になることをこのパンデミック危機が明らかにしたことだ。



デジタル化と自動機械化

この調査の実施者たちは、詳細なケーススタディーに基づいて韓国の多国籍企業の三つのリショアリング戦略を区別している。一つ目は、中国での賃金上昇を理由として労働力集中型の生産を国内回帰させるというものだ。しかし、中国と韓国のあいだの賃金差は大きいままなので、この戦略は依然として数が少ない。二つ目は、バリューチェーンを「短縮する」ために、外国で行われている中間段階を省くことを狙った戦略だ。これは、それまで下請けに出していた何らかの部品を生産する能力を獲得した中小企業の典型的な戦略だ。三つ目は、韓国に「インダストリー4.0」の工場を建設しようと大規模な投資を決めた企業に関連している。デジタル化と自動機械化により、生産プロセスに根本的な変化がもたらされる。

公共政策の観点でこの研究から引き出される主な教訓は次の通りだ——たとえ補助金が一つ目の戦略に結びついた国内回帰を短期的に促進し得るとしても、二つ目と三つ目の戦略ではそのような補助金ではまったく足りない。重要なのはむしろ、政府の側であれ、協働する大企業の側であれ、何らかの技術に特化したより小規模な企業の側であれ、生産プロセスを刷新するために、技術面および資金面で開発研究を支援することだろう。

この調査の実施者たちは、近隣国への生産移転(ニアショアリング)プロセスについても指摘している。ニアショアリングは東南アジアの国々に利益をもたらし、なかでもベトナムが中国からの生産能力の流出によって多大な利益を得ている。だが、事業地の選択において賃金差の重要性が小さくなっている現状において、OECDの国々への大規模な生産回帰は結局のところ、それらの国に「インダストリー4.0」に投資する能力があるかにかかっているだろう。しかし、それは大規模な雇用創出を保証することはない。というのも、「スマート」工場は人的資源をあまり要さないからだ。