◆戦時下にも起きた失敗/技術の重要性評価誤る
米中対立が政治経済を超えて科学技術分野にまで波及し、従来の協力関係から警戒・対立・競争という関係に変わりつつある。
こうした中、先月7日、ハーバード行政大学院は「技術的大競争」と題して、大国間競争に関する報告書を発表したが、興味深い事に日本もその中に登場する。約40年前、米国は日本の台頭に脅威を感じたが、日本は自らの“ガラパゴス症候群”故に競争から脱落したと記されている。
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この“ガラパゴス症候群”に関し、海外の友人達からの意見に筆者が応えたネット上の討論について読者諸兄姉に紹介したい。
英国の友人は皮肉を込めて「世界の最先端から遠ざかる日本を、日本自身が気づいていない」と語った。悔しくてムッとしたが、確かに一理ある。別の友人は「最先端にいた時代が昔あったからいいじゃないか」と慰めてくれた。
筆者はこの症候群が人類共通のものだとして次のように語った。宇宙を眺めていると人間誰もが2つの対立する考えを抱く。じっとしていると「自分は動いていない」と実感するが、地球は自転・公転している。従って実際には誰もが超高速で動いているのだ。
我々が日本で静止していても、地球が秒速約400メートルで自転する上に秒速30キロメートルで公転している。しかも太陽自体が銀河の中を秒速230キロメートルで動き、天の川銀河も宇宙の中を超高速で動いているのだ。
またこの症候群はいつでも発生する事象として、日本の過去の失敗(レーダー開発)に関して語った。
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レーダーは1930年代から英独を中心に開発が活発化。35年、英国は科学調査委員会を発足させ、ドイツは軍首脳の前で実験を成功させた。翌36年、日本は海軍技術研究所で開発が提案されたが却下され、翌年、電波研究会議で逓信省や大学研究者がこの技術に否定的な結論を下した。
37年、英国王ジョージ6世の戴冠記念観艦式に参列した重巡「足柄」乗艦の将校が英国戦艦上のレーダーを報告するが、日華事変のために耳を貸す人がなく、また39年、駐仏海軍武官から情報が届くが、注目する専門家は極めて限られた。
翻って日本国外では目覚ましい速度で実用化が進んた。40年、英国の技術者が渡米して、英米共同開発が始まり、MITに研究施設が設置された。
翌41年、日本も山下奉文将軍率いる使節団が訪独するが、親中派の独陸空軍は技術移転を断った。
太平洋戦争勃発後、日本がシンガポールを占領した時に初めて、ヒトラーがレーダー技術の移転を許可した。驚いた事に現地の英軍が設置していたレーダーには日本発の技術(八木アンテナ)が使われていた。皮肉な事に直前の41年、この技術は重要でないとして商工省が特許延長を許可しなかったものだった。
折角ドイツから技術移転されたレーダーだったが、開発予算計上の際、主計官が「高射砲の方が重要」と語り、予算が十分割かれずに終わった。かくしてバトル・オブ・ブリテンで威力を発揮した技術を日本は正確に評価・活用せず、敗戦を迎えてしまったのだ。
このように“ガラパゴス症候群”は、特定の個人・国・時代に限られたものでなく、誰もが常に警戒すべき症状だと語った次第だ。