メディア掲載  エネルギー・環境  2022.01.25

全原発停止で日本は極寒に

産経新聞社 月刊「正論」2022年2月号に掲載

エネルギー・環境

20221月、日本の原子力発電が全て運転停止に追い込まれる――。こう想定して、考えられる悪夢のシナリオと、その背景を書いてみよう。運転停止の理由は様々ありうる。例えば…。

反原発政治家の暴走

何者かによって安全規制に関する非公開文書とメールのやり取りが大量にリークされ、そこから複数の不祥事疑惑が起きる。原子力規制委員会、電力会社、政治家を巻き込んだ一大スキャンダルになる。全国でデモが起こるなか、原子力発電所に突入を試みた過激派と警察で衝突が発生、死傷者が出る。大手メディアがこれを連日大きく取り上げて政局となり、反原発を持論とする政治家が支持を集め、安全性が担保されない惧れありとして、疑惑の解明まで全ての原子力発電所が停止される。

一連の事件の影には敵対的な外国の関与が濃厚であるが、はっきりとはしない――

【背景】情報のリークはサイバー戦争の常套手段となっている。2021年には、イランとイスラエルの緊張が高まる中、イスラエルのLGBTQの個人情報が大量に流出した。これはイランによるサイバー攻撃と見られている。この情報の中には特定の個人の社会的人生を破滅させるものもあるかもしれない。

クライブ・ハミルトンが著書『見えない手』『目に見えぬ侵略』で書いたように、いま敵対的な外国が、民主主義国家の国内の分断を煽り、弱体化を図っている。トランプ落選の直後、暴徒が米国連邦議会の壁をよじ登り、逮捕されたことは記憶に新しい。民主党系メディアはトランプが扇動したとするが、トランプは否定している。暴動には、敵対的な外国の関与があった、と山口敬之氏は『中国に侵略されたアメリカ』で述べている。

全国各地で計画停電

原子力発電所が全て停止すると、日本の電力需給はいよいよ逼迫する。

夏にも冬にも、東日本大震災直後のような電力の逼迫が起き、国から節電要請が出された。企業は輪番休業を余儀なくされた。

全国の至る所で計画停電が起きる。今後のエネルギー供給の見通しが悪化したことを受けて、国内の工場を閉鎖するという企業発表が相次ぐ。経済活動は大きく落ち込む――。当然ながら、2021年を超える勢いで家庭用の電気料金の値上げも加速していった。

【背景】ただでさえ、ここのところ、夏や冬が来る度に電力需給は綱渡り状態になっていた。これは、脱炭素政策によって再生可能エネルギーを優遇した結果、採算が合わなくなった火力発電所が次々と閉鎖された結果だ。

また日本の製造業は長らく不況やエネルギー価格の上昇に苦しんできた。エネルギーの安定・安価な供給がますます覚束なくなれば、それが最後の一押しとなって工場を閉鎖する企業が増えてくるだろう。

メガソーラーの崩壊

日本を強力な台風が襲い、「第二伊勢湾台風」と命名される。全国30カ所のメガソーラー(大型太陽光発電所)で土石流や風害による事故が発生、50人の死者が出る。また無数のメガソーラーが損傷を受け使用不能になり、火災も発生。全国の過半の自治体の首長が、メガソーラーの新設禁止を宣言する。与党内では鋭い意見の分裂が生じるが、政権はなおも再エネ最優先を掲げる。

送電網も各地で寸断され、一週間以上にわたる停電が継続。経済活動は打撃を受け、十分な医療を受けられずに死者が出る事態に。

【背景】2021年の熱海の土石流事故では、メガソーラーとの因果関係はいまなお調査中であるが、それとは別に、施工の悪い危険なメガソーラーは全国至るところにある。

そして、上陸時に930ヘクトパスカル以下の中心気圧を保っているような、伊勢湾台風のように本当に強い台風はここ数十年、日本に来ていない。観測史上最も強かった台風は、第一・第二室戸台風、枕崎台風、伊勢湾台風であるが、全て1961年以前である。

台風が地球温暖化で激甚化しているというのは大嘘で、本当に強い台風はむしろ近年は来ていないのだ。だが自然現象であるゆえ、昔あったことは何時でもまたありうる。我々がここ数十年来、経験してこなかった台風が、また何時来るかもしれない。

特に近年、建設ラッシュであったメガソーラーは、施工が悪く、十分な備えが出来ていないものも多い。

また原発が停止していると、電力供給が脆弱になる。2018年に起きた北海道の胆振東部地震では泊原発が停止していたため、苫東厚真火力発電所が地震の直撃を受けて停止すると、北海道全土で停電が発生した。基幹発電所が停止し、電力需給が逼迫しているとそれだけ送電網の寸断によって停電が起きやすくなる。

第三次石油危機が発生

米国の油田・ガス田で火災や事故が多発する。燃え上がる紅蓮の炎と、真っ黒い煤による大気汚染の映像が連日報道される。敵対的な外国の関与が疑われるが、はっきりしない。

石油の流出によって水質汚染、土壌汚染が起きて、油まみれで飛べなくなった野鳥の姿がその象徴となって報道される。これを受けてバイデン政権は、シェールガス・シェールオイルの開発の規制強化を宣言。国際石油会社は、新規の資源開発を停止、権益の売却を加速させる。

石油価格は高騰するが、OPEC(石油輸出国機構)にロシアなどの大産油国を加えたOPECプラスは市場支配力を強めており、石油の増産に応じない。

他方、イランの原爆保有が明確になったとして、イスラエルがイランの核施設を爆撃。イランもミサイルで報復し紛争となる。ペルシャ湾からの石油供給が断続的となり、石油需給が逼迫、価格は急上昇する。

日本を含め先進国は備蓄の放出で急場を凌ぐが、やがて備蓄も残り少なくなり、政府は石油利用の自粛を要請。ガソリンスタンドには長蛇の列ができた。工場は輪番操業を余儀なくされた。発電用の石油も不足し、電力不足は一層深刻になる。

天然ガスも世界中で〝争奪戦〟が繰り広げられることになり、価格は急騰。全原発停止で苦しい日本は、ガス生産国から足元を見られ、さらに価格を釣り上げられ、十分な量の確保も難しい。電気料金はますます上がり、格別に寒い冬がやってくる。

【背景】エネルギーインフラを狙ったテロはいまやシャドー・ウォー(ないしグレーゾーン戦争、超限戦)の常套手段となった。ロシアはクリミア併合後の2015年、ウクライナの電力網に対してサイバーテロを行い停電させた。

先進国で脱炭素政策を進めてきた結果、多国籍企業は石油・ガスの利権を急速に手放しつつある。公的な金融は化石燃料離れを加速させている。大株主としての政府・金融機関も脱炭素するよう企業に圧力をかけている。

これによって、石油・ガスの世界市場は、先進国の多国籍企業の手からOPECプラスへとバランスを変えている。このOPECプラスの世界市場における最大のライバルは、世界一の産油国・産ガス国であり、世界一の採掘技術を持っている米国である。

この米国の供給能力が奪われるならば、OPECプラスの世界市場支配力はますます決定的になり、高い石油・ガス価格を維持できるようになる。

米国ではシェールガス・シェールオイルの採掘が大成功したが、イギリスやドイツでは事実上禁止されている。採掘に伴って水質汚染などの環境問題が発生するリスクがある、という理由である。

この禁止にはロシアも暗躍していた、とされている。ロシアの海外放送RTはシェールガスの環境問題について頻繁に取り上げていた。またロシアはシェールガスに反対する環境NGOに莫大な寄付を行っていた、と欧州政策研究所は報告している。

レアアース危機の発生

米国最大のレアアース鉱山・マウンテンパスで大規模な抗議活動が起きる。先住民の少女が運動家として登場し「先祖伝来の土地を汚染された。深刻な環境問題がある」と訴えて、メディアの寵児となった。また鉱毒によって深刻な障害者になったとされる住民の姿が報道される。海外の敵対勢力が反対運動を扇動しているとされるが、はっきりしない。

米国民主党政権は閉山を決定。レアアース価格は高騰する。

日本ではこれを受け、部品メーカーがサプライチェーンの見直しを迫られる。原料不足で生産が停止、窮地に陥る。自動車などの最終製品の生産も落ち込む。

レアアース供給確保のため、部品メーカーが中国に進出し、工場を建設する計画、ないしは資本参加する計画が次々に発表される。

【背景】レアアースはハイテク電子部品には欠かせないものだ。また、電気自動車用のモーター、風力発電用の発電機にも用いられる。現代的な省エネルギー技術を実現するための電子部品にもレアアースは欠かせない。つまり、いわゆるグリーンなテクノロジーである再生可能エネルギー、電気自動車、省エネ技術などは、いずれもレアアースに依存している。

日本はレアアースを使用した材料・部品製造については世界最高水準である。しかし、その原料については輸入に頼っている。その多くは中国からだ。

世界のレアアースのサプライチェーンは中国に支配されている。世界の採掘量の6割が中国であり、精錬量に至っては9割が中国である。中国は、レアアース供給を国内に優先的に割り当て、輸出を制限することで、海外企業を事実上強制的に誘致してきた。

レアアース自体は、世界の至る所に存在する。とくに米国には多く、資源量としては十分にある。米国のマウンテンパス鉱山も、環境問題でいったん2002年に閉鎖されたものが、2020年になって再開されたものだ。

生産や精錬が中国に集中している理由は、土壌汚染や水質汚染への懸念があるためだ。なお、中国によるレアアース生産には、さらなる問題がある――。

民族弾圧とグリーン技術

新疆ウイグル自治区で、残虐行為が行われてきたことを示す百時間にわたる映像が、豪州のジャーナリストによって大々的にスクープされ、ネットに公開される。

中国は全て捏造であると否定するが、豪州は直ちに新疆ウイグル自治区からのあらゆる製品の輸入停止を宣言する。G7(先進7カ国)各国もこれに同調した。太陽光パネルの価格は暴騰し、G7各国における普及は急停止、多くの太陽光発電事業者が破綻した。

次いで、内モンゴル自治区において、2020年にモンゴル語の使用禁止に抵抗して当局に拘束された人々の解放を求めて、大規模な反政府デモが発生する。これが暴徒化したとして当局が弾圧、30名の死傷者が出る。この模様を現地で撮影した映像が豪州のテレビで大々的に報道される。

豪州は直ちに内モンゴル自治区からの製品の輸入停止についての検討を開始したが、レアアース供給の大半を中国が握っている現状においては、輸入停止は現実的ではないとされ、代替案として、段階的な中国からの輸入縮小と、豪州内のレアアース生産強化に取り組むこととなった。

ところが豪州のレアアース生産増強計画には、ただちに先住民の反対運動が起きた。

これに、スウェーデンの環境運動家グレタ・トゥンベリが参加。現地入りをして演説をする。「脱炭素のために新たな問題を生み出すのでは何の意味もない。経済成長や技術開発で問題が解決するという考えが間違いだ」

【背景】世界において、太陽光発電パネルに用いられる結晶シリコンの8割は中国製であり、うち6割は新疆ウイグル自治区製であるとされる。米国では人権問題を理由に、これを事実上の輸入禁止にしているが、日本をはじめ、他の諸国はこれに同調していない。

レアアースの一大産地である内モンゴル自治区も人権問題を抱える。2020年に学校でのモンゴル語使用禁止が布告されると、大規模なデモが起きて、当局によって複数の人々が拘束された。

環境運動家グレタ・トゥンベリは、かつては国連気候会議のアイドルで議場で演説していたが、2021年に英国で開催されたCOP26には呼ばれなかった。

グレタはCOP26は明白な失敗だとして、スイス・ダボスでの世界経済フォーラムに集う資本家がグリーンなフリをして金儲けをしようとしている、と批判している。そして経済成長は悪であり技術では問題は解決しない、根本的な経済社会の変革が必要だといった、原始的な共産主義のレトリックを使うようになった。

いま世界の環境運動家は分裂している。グリーンマネーのうま味に覚醒したダボスに集う資本家たちと、グレタを偶像とし資本主義を嫌う原理的な環境運動家だ。

両者の蜜月はいまや終了した。グレタらは、これから、いわゆるグリーンテクノロジーに矛先を向けるかもしれない。経済成長や技術進歩を敵視する彼らにとっては、グリーン成長という概念自体が欺瞞なのだ。

再生可能エネルギーや電気自動車などのいわゆるグリーンテクノロジーは、材料投入を多く必要とする。ということは、鉱物資源の採掘や精錬などのダーティな工程が多いということだ。

いま先進国でもてはやされているグリーンテクノロジーとは、これらの工程を中国に任せ、公害を輸出することで成り立っているというのが偽らざる実態である。

グリーンバブルの崩壊

ドイツの新政権では「緑の党」が入閣し、2050年となっていたCO2ゼロの目標年を2045年に前倒しして、G7の議長国として他国に同調を求めた。支持率低迷にあえぐボリス・ジョンソン英首相とバイデン米大統領がこれに合わせて、一層野心的な目標を発表した。日本もこれに前後してCO2ゼロの目標年を2045年に前倒しをする。これに合わせて2030年のCO2削減目標も46%から54%へといっそうの深掘りをした。

他方、米国議会において「国のより良い再建」を意味するビルド・バック・ベター法案が民主党のマンチン議員らの造反によってグリーンな政策は骨抜きになり、バイデン政権のもとではCO2削減は進まないことが明らかになる。一方で、コロナ後の景気刺激策、放漫な財政、エネルギー・資源価格高騰などによるインフレが進み、米国各地で暴動に発展。食料品店などが略奪に遭う。

米国政府はインフレ対策として急遽、金融引き締めに入り、株価は大幅に下がる。株安は世界に波及。政策的な支援を得る見込みがなくなった電気自動車や再生可能エネルギー産業の株はとりわけ大きく値を下げ、グリーンバブル崩壊となった。

早くもレームダックとなったバイデン政権は、11月の中間選挙でも大敗。米国の「2030CO2半減、2045CO2ゼロ」という目標は全く達成される見込みが立たなくなった。

次期大統領への返り咲きを狙うトランプは連日、バイデン批判を繰り広げる。「インフレを招き国を破壊したのはバイデンのグリーン政策だ。2024年にはパリ協定から脱退し、脱炭素政策は全てキャンセルする」と吠えた。

【背景】2021年に新しくドイツで成立した社民党・緑の党・自民党の三党連立政権では、新設の経済・環境省と外務省の大臣を緑の党が占めた。

連立協議によって、ドイツは石炭火力の廃止を2038年から2030年まで前倒しすることになった。また2030年には再生可能エネルギーの比率を80%まで上げることとした。たまたま2022年にG7の議長国を務めるドイツはG7諸国に同様な目標の深掘り・前倒しを求めるだろう。

いま先進国は無謀な脱炭素目標を競い、世界中でエネルギー価格が高騰し、インフレも高じている。そうした中で日本が本来、動かせる原発を動かさないのは、無謀だとしか言いようがない。

そして国民の懐も寒くなる

原子力発電が全て停止すれば、エネルギー供給はますます脆弱になり、日本経済は危機に瀕する。一年後には日本の冬も日本人の懐もますます寒くなるだろう。

それでも、政治とカネで勢いのついた「脱炭素政策」の暴走はすぐには止まりそうにない。

すると再エネや電気自動車ブームになるが、これには人権問題を抱える中国へのサプライチェーン依存という致命的な問題点がある。これを変えようとしても、環境運動が盛んな先進国は自前で鉱物資源を開発できない。

民主主義国の抱える以上のような問題を、さらに悪化させるように、敵対的な外国勢力は虎視眈々と狙い、絶えず関与してくる。

グリーンバブルが崩壊し米国に梯子を外されたとき、日本人はようやく我に返るのだろうか。それとも、それでもなお、原子力をおろそかにしたまま再エネ最優先の脱炭素教を妄信して、地獄への道を突き進むのだろうか。