メディア掲載  グローバルエコノミー  2021.12.21

中国の民主主義化促進の役に立たない民主主義サミット

民主主義の方式めぐる無益な対立は国際社会の分断化招く

JBPressに掲載(2021年12月20日付)

中国

1.米国主導の反中姿勢に追随しない各国

米中対立は依然として厳しい状況が続いている。

米国政府は北京五輪の外交的ボイコット、民主主義サミット開催などにより、中国との対決姿勢を強めている。

最近では有名な女子テニス選手のスキャンダルが話題になっているが、基本的な対立の火種は、新疆ウイグル自治区と香港の人権問題や台湾問題を巡る批判がベースにある。

これらの人権問題などについては欧州諸国も米国と同様に中国に対して批判的な立場にある。

しかし、北京五輪の外交的ボイコットに同調した国は英国、カナダ、豪州3国にとどまっている。

ニュージーランドも閣僚を派遣しないと発表したが、これは外交的ボイコットではなく、コロナ対策が理由であると説明した。

これまで西側諸国が中国の人権問題を批判する際には、米欧の歩調が揃うことが多かったが、今回は様子が異なる。

民主主義サミットについても、参加国として選ばれた国と選ばれなかった国を分けた基準に対する不透明性が指摘されているほか、議事は非公開、共同声明も発表しないなど、民主主義を世界に向かって訴える場としてはその運営の仕方が不適切であると指摘されている。

こうした米国の対中強硬姿勢を示すためのパフォーマンスに追随しない各国の動きが目立ち始めている。それにはいくつかの要因が考えられる。

1に、EU、日本、韓国、ASEAN(東南アジア諸国連合)など多くの国にとって中国は経済面で米国と並ぶ重要なパートナーであり、現実問題としてどちらか片方を選ぶことができないこと。

2に、北京五輪の外交的ボイコットにせよ、民主主義サミット開催にせよ、米国バイデン政権の最大の目的は中国国内の人権問題改善への働きかけではなく、2022年秋の中間選挙に向けた米国民向け反中パフォーマンスであると見られていること。

3に、本年夏場に相次いで生じたアフガニスタン撤退作戦と豪州への原子力潜水艦技術供与をめぐり米国とEUの間に溝ができ、欧州諸国が米国と一定の距離をとろうとしていることなどが考えられる。

民主主義サミットを開催するのであれば、本来地球上のどのような国からでも民主主義を求める人々がいればその参加を認めるべきである。

しかし、今回の米国のやり方は、民主主義という言葉を借りて中国を排斥する動きのように見える。

これは米国内の民主党VS共和党の党派分裂をグローバル社会に持ち込むようなものであり、本来相互協力を強めるべきグローバル社会を逆に分裂に向かわせるものである。

ジョー・バイデン大統領は大統領選挙での自身の公約で米国内の党派対立の融和を訴えたが、グローバル社会ではそれと逆の方向に向いている。

コロナ対策や地球環境問題を考えれば明らかなように、国内でも国際社会でも党派分裂は人々にとって大きな損失をもたらす。

2.中国社会の民主主義的変化

中国の政治経済社会は中国共産党による全面的な指導体制を前提としており、西側の民主主義国家とは大きく異なる。

しかし、民主主義的な考え方や自由を尊重する姿勢は中国でも着実に高まっている。

1949年から1980年頃までの約30年間はほぼ鎖国状態で、中国の一般庶民と外国との交流は厳しく制限されていた。

しかし、197812月の第11期三中全会において、改革開放政策重視へと国家の基本方針が転換されて以降、外国人との交流が徐々に拡大し、中国人が海外の政治思想や文化に直接触れる機会が広がった。

特に2001年のWTO(世界貿易機関)加盟後、中国経済が急成長を実現した結果、2010年頃から海外旅行、海外留学が急増し、外国人との直接交流は一段と拡大した。

グローバル化の進展とIT技術の発達がそれをさらに加速している。

そうした交流を通じて多くの中国人は民主主義、自由尊重、人権重視などの思想が定着した西側諸国の社会の長所を理解し、徐々に中国社会にもその一部を取り込んできた。

とりわけ環境問題に関する意識の高まりは顕著である。

都市部では住民の強い反対運動を背景に、環境破壊を招く多くの工場が郊外への移転を余儀なくされた。

PM2.5の数値が高いことへの反発も強く、従来石炭に依存していたエネルギー源を環境にやさしいLNGや自然エネルギーへの転換を進めている。これも住民の圧力によるものだ。

最近の独禁法の運用強化、塾や宿題を制限する教育改革なども一般庶民の所得格差や教育機会格差などに対する不満の高まりという圧力を受けて政府が動いたものである。

このように中国でも生活水準の向上とともに一般庶民の安全や平等を求める意識が高まり、海外との直接交流を通じて中国社会の見劣りする部分が明確に認識され、庶民の不満が表面化しやすくなっている。

これが実際の政策を動かすようになっており、中国でも政策運営の民主主義的な色彩が強まっていると考えられる。

以前の中国であれば、住民の圧力で政府が政策方針の変更を余儀なくされるケースは極めて少なかった。

今もなお例外的な分野が残ってはいるが、現在の中国政府は国民の声に丁寧に耳を傾ける姿勢に転じている。

そうした状況を考慮すれば、程度の差こそあれ、中国社会も民主主義化の方向に向かってきているのは明らかである。

先行きを展望すれば、IT技術の急速な発展や所得水準の上昇が続くと予想されるため、中国人の海外との直接交流の機会は増大し続ける。

特に1990年代以降に生まれた新世代の若い中国人は、海外の同世代=Z世代との交流が日常化しており、国境の意識はますます希薄化している。

彼らにとって、中国と西側諸国の政治経済社会を比較するのはごく当たり前であり、その世代で海外のいい部分を取り入れたいと考える人が増えれば、中国の変化を求める流れが自然に生まれるはずである。

中国人社会は中国自身の歴史、社会思想、伝統精神文化の上に成り立っており、西側諸国と同じ政治体制に移行するのは難しいように見える。

しかし、若い世代を中心に海外との交流が緊密化している以上、海外の影響を食い止めることは不可能である。

もし政府が強権を発動して海外との交流を制限すれば、中国の発展は制約され、国力が低下するのみならず、中国国民の不満が危険なレベルにまで高まるリスクがある。

以上を考慮すれば、中国でも引き続き民主主義が根付いていくと考えられる。

その中国を民主主義サミットから排除するのは、せっかくの民主主義の流れを阻害することになる。

3.生命と地球を大切にする原点への回帰

米国主導の民主主義サミット開催の動きに対して、中国政府は、中国には中国式民主主義があるという言い方で対抗している。

これもまた米国同様、グローバル社会を分裂させるものである。

中国政府は最近発表した歴史決議の中で、中国の優れた伝統文化を重視する姿勢を示している。一部を引用すれば次のとおりである。

「中華の優れた伝統文化は、中華民族の際立った強みであり、我々が世界文化の激動の中で安定した足場を築く基礎である。新たな時代の条件と結びつけて伝承し、発揚しなければならない」

中国の伝統文化の真髄は中国古典に集約されているが、その重要な特長の一つは異文化に対する寛容である。

一神教の国では異教を排除し、異教徒を殺戮することも肯定した。それに対し、中国では、儒教・仏教・道教・禅といった東洋思想に加え、キリスト教などの異教も共存が許された。

唐代の都長安は典型例であり、世界中の様々な人々が共に暮らす国際都市として繁栄した。

そうした中国古来の伝統文化の発想から言えば、米国が主張する西側の民主主義との対抗姿勢を強めるのではなく、その長所を受け入れる形で共存を目指すのが本来の中国の伝統文化に基づく姿勢である。

バイデン政権は民主主義対権威主義、資本主義対社会主義といった対立図式の中で中国を批判的にとらえている。

しかし、実際の経済社会では純粋な資本主義も純粋な社会主義もほとんど存在しない。

資本主義の米国も社会保障制度の充実など、社会主義的な政策を導入している。

一方、以前は社会主義的な統制経済を重視していた中国も、1990年代以降は市場メカニズムや自由貿易を重視している。

企業経営については、日本企業よりむしろ中国の民間企業の方が資本主義的な傾向が強いという認識が広く共有されている。

このように異なるイデオロギーは敵対する関係ばかりではなく、実際の政策運営においては相互に長所を取り入れて補い合っている面も多い。

これは中国の伝統文化である儒教の仁義礼智信や仏教の慈悲心といった人間性重視の理念に合致していると見ることができる。

そうした視点に立てば、米国式民主主義とか中国式民主主義といった対立軸を強調するのは無益である。

現在は米中双方ともそれぞれのイデオロギーに固執し、パワーポリティックスの発想にとらわれ、グローバル社会が目指すべき相互理解、相互尊重、相互協力の方向から乖離している。

国を超えた共通目標として、万物の生命を大切にし、地球を大切にするという原点に立ち返って党派対立を抑え、それぞれの長所を取り入れ合う方向に向かうべきである。