英国は「脱炭素」政策を強力に推進し、風力発電所を大量に建設してきた。その一方で、石炭火力発電は大幅に縮小してきた。原子力は規制コストの上昇に直面し、遅々として進まなかった。
そこにきて、この夏は風が弱く、風力発電の発電量は低迷した。このため、天然ガス火力発電はフル稼働、ガスは乏しくなって、価格は高騰した。
発電燃料であるガス代が上がったことで採算が取れず、すでに47社の電力会社のうち22社が破綻した。ガスを原料とする肥料工場も採算割れで操業停止に追い込まれた。副生物の二酸化炭素を食品保存目的や添加物として利用する食品工場も操業が滞った。
保育園では、ガス価格が高騰したために暖房を節約する。ついては「子供たちに厚着をさせてください」と保護者に連絡があった。これでは子供の健康を損なうとして苦情が相次いでいる。
英国では貧しくて暖房をつけられず、厚着をして過ごす「エナジー・ポバティ(エネルギー貧乏)」が以前から社会問題になってきた。今年の冬も数百万世帯が暖房を節約して過ごすことになりそうだ。
この11月に、英国は国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を主催したが、たまたま風が吹かず、風力発電は5%しか稼働しなかった。そのため、ガス火力発電所をフル稼働し、フランスなど周辺国からも電気を買い集めたが、それでも足りない。
結局、穴埋めをしたのは、さんざん悪者扱いして最近では稼働出来なくされていた石炭火力発電だった。
英国は2024年夏には、この石炭火力を廃止するとしているが、本当にこのまま突き進むのだろうか。電気代の高騰や停電の頻発が起きるのではないか。英国では与党保守党内でも異論が噴出している。
実は、英国にはシェールガス資源が地下に存在するという朗報があった。シェールガスの採掘技術は米国で発達したもので、これを使えば英国はガスを大幅に増産できたはずだ。だが、これは環境破壊であるとして、事実上禁止されてしまった。
この禁止にはロシアが関与していた。ロシア政府はシェールガスに反対するNGO(非政府組織)に莫大(ばくだい)な寄付をした。ロシアの海外向けテレビ番組「RT」は、反シェールガスの番組をくり返し流した。ロシアの最重要財源である天然ガス輸出のライバルを減らすためだった。
強引な「脱炭素」はエネルギー供給体制を脆弱(ぜいじゃく)にする。光熱費は高騰し、停電の危機が起きる。海外勢力はそれを扇動する。日本は大丈夫だろうか。政治家ももう目を覚ましてほしい。