ジョー・バイデン米政権は、「脱炭素」のためとして、世界最大の生産量を誇る自国の石油・ガス産業を妨害してきた。民主党内で存在感を高めてきた左派を満足させるためだ。
バイデン大統領は就任した当日に、ガスパイプラインの許可を取り消し、石油・ガス生産のための連邦政府の土地の新規リースを停止した。
ところが、コロナ禍後の世界経済回復に伴って原油価格が上昇すると、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非加盟産油国で構成する「OPECプラス」に対して、価格を下げるために石油を増産するよう口説いてきた。
自国での石油生産を妨害しておいて、いざ価格が高くなると、他国に増産を求めるという迷走ぶりだ。
あきれたことに、これは気候変動に関する交渉と並行して行われた。「脱炭素」を説教した人物が、その数時間後には「石油を増産してほしい」と懇願していた。まるで麻薬患者が「今日だけ吸わせてくれたら明日から止める」と言っているようだ。
しかし、これまでのところ、OPECプラスは、世界市場への原油放出の要請をあっさりと拒否し、バイデン政権は屈辱を味わっている。
OPECプラスにしてみれば、いまの高い価格を維持することで大いに儲かる。バイデン政権下では、もっとも手ごわいライバルである米国が大幅増産に転じる見込みは低いから、今がチャンスだ。
米国では、インフレ懸念が高まりつつある。野党共和党は「バイデンフレーション」と名付けて攻撃している。
インフレの材料の1つは、ガソリン価格である。米国では今、2014年以来の高価格を記録している。ガソリンの高騰は、庶民の目に最も公然と分かるだけに、厄介な問題だ。
そして、バイデン政権は政策の目玉として、コロナ禍からの「よりよい回復」をもたらす「ビルド・バック・ベター」と呼ぶ、グリーンや福祉に投資する巨額のバラマキ法案を議会にかけている。
だが、これもインフレをもたらし、増税も意味するもので、のみならずグリーン投資は化石燃料産業を弱体化させるとして、野党の共和党はもちろん、与党の民主党議員からも反対され、成立の見込みが立っていない。
バイデン大統領は「2050年にCO2をゼロにする」と宣言したが、そのような規制には、さらに強固に議会が反対する。CO2をゼロにするどころか、ほとんど減らせないだろう。
日本では菅義偉政権が、バイデン政権に合わせて「脱炭素」を国際公約し、「再エネ最優先」を掲げることになったが、これで電気料金も大幅に上昇する。米国にはしごを外されたまま、日本経済はますます没落してゆく。