メディア掲載  エネルギー・環境  2021.12.01

【エネルギー危機】「脱炭素」で日本は中国の属国へ “グリーンテクノロジー”の危険な鉱物資源依存、新疆ウイグル自治区のジェノサイドに加担も

夕刊フジ(2021年11月25日)に掲載

エネルギー・環境

・「脱炭素」で日本は中国の属国へ 

・“グリーンテクノロジー”の危険な鉱物資源依存

・新疆ウイグル自治区のジェノサイドに加担も


米国の石油備蓄の協調放出方針を受け、日本は国家備蓄のうち「とりあえず数日分を放出して」(岸田文雄首相周辺)売却する案を24日に発表する。ただ、石油製品の大幅な値下がりにつながるかどうかは未知数だ。現在、家計や企業収益を直撃しているエネルギー価格の高騰は、欧米と日本が「脱炭素」にうつつを抜かし、「エネルギーの安定・安価な供給を確保する」という原点を忘れたことへの強烈なしっぺ返しといえる。しばらくの間、庶民を苦しめることになりそうだ。このまま、「脱炭素」を推進すれば、日本経済を没落させる一方、レアアースや太陽光発電などの生産を握る、中国を利する結果になりかねない。岸田政権は、この国家的危機にどう対処するのか。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏の緊急連載第2弾。


いまの世界的なエネルギー価格高騰の原因の1つは中国だ。

中国は伝統的に電力価格を低く規制してきた。共産主義思想に基づいて、人民と産業に「安価な電力」を届けることを重視してきたからだ。

ところが、コロナ禍から経済が回復すると、石炭の生産が追い付かず価格が急騰した。電力価格は低いままだから、発電所は発電するほど赤字が出てしまうため稼働を止めた。それで電力供給が不足し、中国全土で電力不足が生じている。

停電が起きては、中国共産党の面目丸つぶれだ。それで「温暖化対策」を名目に電力多消費の工場などに輪番停電を命令する一方、石炭の大増産に号令がかかった。電力価格も1割ほど引き上げることになった。

中国が世界から石炭を買い集めて石炭価格は上がった。輪番停電になった企業はディーゼル発電などで急場をしのいだ。これで石油価格も上がった。

中国のエネルギー危機は、世界中の経済に影響した。中国でのマグネシウムの生産が停滞し、それを利用する自動車用のアルミニウム生産が滞って、欧州の一部で自動車生産が止まった。中国のディーゼルエンジン添加用の尿素水生産が停滞し、それに依存する韓国では、物流崩壊の危機になった。

中国依存は問題だらけだが、いま日本が進める「脱炭素」は、これを一層深刻にする。

「脱炭素」は「脱物質」ではなく、むしろその逆だ。太陽光、風力発電、電気自動車は、いずれも大量の材料投入を必要とする。その材料の多くは、環境規制が緩い中国で生産される。先進国では、土壌、排水、大気汚染などの規制が厳しく、レアアースなどの鉱物の生産・精錬が経済性を失った。いま世界のレアアース生産の6割は中国、精錬の9割は中国だ。

中国依存は人権問題も内包する。世界の太陽光発電の8割は中国製であり、半分は新疆ウイグル自治区で生産されていて、強制労働に関与しているとされる。残念ながら、太陽光発電の現状は、「屋根の上のジェノサイド(民族大量虐殺)」と呼ぶべきおぞましい状況にある。

「風力発電」「EV」「AI・IoT」による省エネなどの「グリーン」テクノロジーも、中国に大きく依存している。特に、モーター用の磁石に使われるネオジムなどのレアアースは、モンゴル語の使用禁止やその抗議活動への弾圧などの文化的ジェノサイドが起きている内モンゴル自治区が主要な生産地になっている。

いま日本をエネルギー価格高騰が襲っているが、「脱炭素」を性急に進めれば、もっと深刻な危機が訪れる。環境に良いつもりが人権抑圧への加担になりかねない。中国は鉱物資源依存を利用して、日本を属国化するかもしれない。