メディア掲載  エネルギー・環境  2021.11.25

COP26の問題児中国を環境運動家が批判しない理由

Daily WiLL Online HPに掲載(2021年11月17日)

エネルギー・環境

国連気候変動枠組条約第26回締約国会合(COP26)が閉幕した。以前の記事で伝えた通り、中国は世界最大のCO2排出大国であるにもかかわらず、ほぼ譲歩無しの「完全勝利」という結果となった。各国政府が中国に対して弱腰なのであれば、「地球環境を心から危惧する」メディアや環境運動家は今こそ声を大にして中国を非難すべきであろう。ところが彼らは中国については沈黙している。なぜだろうか?

目次

  • 環境運動家は「使える愚か者」
  • 中国を褒め称える研究者たち
  • 硬軟取り混ぜる中国

環境運動家は「使える愚か者」

今回の国連気候会議COP26の構図は先進国VS途上国、もっといえば英米欧VS中印となっていたが、結果は中国(とインド)の完全勝利に終わったことを以前書いた

中国(とインド)は排出削減目標の深堀りにも前倒しにも一切応じること無く、石炭火力発電の廃止にも全く同意せず、何一つ新しい約束をしなかった。(なお、インドを中国と強固に結びつけてしまったのも先進国の愚かな脱炭素外交であることも以前書いた。)

英米欧から見れば自分たちが聖なる騎士(スターウォーズ風に言えばジェダイの騎士か)であり、それが悪魔の帝国(スターウォーズ風に言えばダースベーダーか)と戦っていた構図だから、当然、悪役は「中国」のはずだ。

ところが、海外でも国内でも、中国を批判する意見が全く無いのはどうしたことか? 

特に沈黙しているのが、環境運動家だ。

中国が、環境運動家を「使える愚か者(useful idiots: レーニンの言葉)」として使えるだけ使っていることも以前にも書いた
が、今般、ジャーナリストであるデビット・ローズが、新たな証拠を集めたので、以下に、紹介しよう。

中国を褒め称える研究者たち

〇中国の世界的工作を暴いた「見えない手」「目に見えぬ侵略」の著者クライブ・ハミルトンは、「欧米の代表的な環境保護主義者が、中国共産党を世界の救世主のように語っていること失望している」と語っている。

〇温暖化対策の強化を提言した「スターン・レポート」の著者として有名なロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのスターン教授は、1998年から中国で教鞭をとってきた。
 
〇彼は、2009年に中国の雑誌で中国共産党の幹部と「親密な関係」にあると語った。

2014年には世界経済フォーラムに論文を寄稿し、中国が「気候政策におけるグローバルリーダーとして台頭している」と主張した。

2016年には、中国の排出量は「すでにピークに達しているかもしれない」と主張した。(注:しかし、実際はそうではなかった。)

2017年には、中国の石炭使用量がピークに達したことを示す「有力な証拠」があると主張した。

〇さらにスターンは、習近平国家主席の「気候変動対策を推進するという個人的なコミットメント」を称賛し、世界は気候変動対策の擁護者(champion)を求めており、中国がそれだ」と結論づけた。

〇しかし、今年3月には、中国が2025年までに石炭火力発電所の新設を中止し、排出量の増加を止めることが「極めて重要」であると述べ、楽観的ではなくなった。いささか、欺瞞に気づいたようだ。(注:しかしなお、スターン氏のスポークスマンであるボブ・ウォード氏は、中国は「重要な行動」をとっており、排出量の増加率は非常に遅くなっていると語った。)

〇スターンは、9月に北京で開催された中国環境開発国際協力会議の年次総会に出席し、習近平氏の「生態文明思想」を称賛した。この会議には、ロンドンの法律家団体ClientEarth(クライアントアース)やWWF(世界自然保護基金)の代表者をはじめとする、英国、欧州、米国の環境保護活動家が多数出席していた。

〇この会議には、急進的な環境運動団体Extinction Rebellionなどの環境保護団体に年間数千万ドルの寄付を行っているChildren's Investment Fund FoundationCIFF)の最高責任者であるケイト・ハンプトン氏も参加していた。彼女は会議で、「世界の道を切り開く中国のリーダーシップを支持する」と述べた。

〇ハンプトンは、5月には、北京の投資フォーラムで講演し、中国の「石炭を廃止(phase out)する決意」を称賛した。(だがこの文言は、まさにCOP26の最終局面で中国代表が拒絶した言葉だった。)

〇さらにハンプトンは、中国の環境省が運営する「一帯一路グリーン開発連合Belt and Road International Green Development Coalition」の理事会の共同議長を務めている。これは、中国の指導者たちが「中国がアメリカに取って代わる手段」としている一帯一路構想の一部である。

硬軟取り混ぜる中国

このように、環境運動家は、こぞって中国を庇い、賞賛し、批判を控えている。中国はこれを巧みにコントロールしているのだ:

CIFFWWFClientEarthは中国に支部を置いている。中国の法律では、外国の組織は、反体制派の鎮圧を担当する公安省の「厳重な監視」を受けなければならないとされている。国益を害する」団体は、スタッフが投獄される危険性がある。

〇この危険性は現実のものだ。カナダ人のパトリシア・アダムスによれば、2015年、彼女が一緒に仕事をしていた中国の専門家2人が、反体制派に使われる「喧嘩をしてトラブルを誘発した」という理由で投獄された。

このようなあからさまな圧力だけが理由ではなく、単に資本主義社会が嫌いで共産主義が好きだとか、中国を批判すると寄付を貰えないとか、ほかにも理由はいくつかありそうだが、とにかく、環境保護団体は、中国にやたらと好意的で、中国との「交流」が地球のためになると主張している。

CIFFのスポークスマンは、「中国は世界最大の排出国であり、ネット・ゼロ経済への移行が最も重要である。CIFFの中国での活動は、この移行を加速させることを目的としている」と述べている。

ClientEarthは、中国は、国内および海外投資先での汚染削減と排出量の低減に注力している、と述べている。

〇急進的な環境運動NGOのインシュレート・ブリテンのスポークスマンは、「中国をスケープゴートにしてはいけない」と発言した。

WWFは、「すべての国が排出量削減に向けて貢献する必要がある」が、中国は「もっとできるし、もっとすべきだ」と述べている。

〇最後のWWFは付け足し程度に中国にも矛先を向けているが、クライブ・ハミルトンは全く納得しない。

中国政府は、本当は皮肉屋で冷酷だ。しかし、西洋の環境保護主義者たちは、中国は「全ての人類のために調和のとれた美しい世界を築いている」と言って回っている。知らなければまさかと思うが、本当の話なのだ

最後にもう1つ、COP26で最近よく見た中国代表の人物についての情報があった。

〇中国の気候変動に関する首席特使である解振華は2012年まで、国家の正統性を強制する中央規律検査委員会の委員を務めていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、同委員会は違法な拘束、拷問、自白の強要などを行っていた。

にこやかな笑顔でCOP26期間中に米中共同声明を発表していた
が(じっさい中国の思うツボだったので笑顔になるのは分かるが)、中国はこういう経歴の人物に気候変動の外交を任せているということだ。