メディア掲載 エネルギー・環境 2021.11.24
Daily WiLL Online HPに掲載(2021年11月15日)
COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)が閉幕。大手メディアの報道では、「気温上昇を1.5度に抑える努力追求」のところばかりは強調されるが、肝心のCO2排出大国、中国に対してはどうだったのか。結論から言うと、「先進国が率先して脱炭素に取り組んで、中国に圧力をかければ、中国も先進国同様の目標の深堀りをする」という説は、やはり「おとぎ話」に過ぎなかった。COP26で中国は一歩も譲らず、先進国の経済的自滅だけが確定したのだ。
目次
今年4月のバイデン政権主催の気候サミットでG7諸国は軒並み「2030年までにCO2等の温室効果ガスを半減、2050年までにゼロ(脱炭素)」を宣言した。日本も菅首相が、昨年末に2050年までにゼロを宣言したのに続いて、2030年に温室効果ガスを46%削減すると宣言した。
これに対して、中国は2030年までCO2等を増やし続けるという計画を変えなかった。ゼロにする時期も2060年としていて、2050年に前倒しをすることはしなかった。
今回のCOP26で、この構図は全く崩せず、これまで各国が宣言していただけだったものが格上げされて、パリ協定という国際条約の中で確定してしまった。
これによって先進国は一方的に脱炭素を進め自滅に向かうが、中国はそうしないことになった。
2030年の目標は無謀なのでどうせ先進国は守れない。中国はそれを大いに非難して外交上優位に立つだろう。また先進国は大幅に太陽光発電や電気自動車を導入するであろうが、それらは中国からの輸入品が大半を占め、大いに中国を利するだろう。先進国経済は重い負担を抱える。中国は敵の自滅をみて笑いが止まらないだろう。
COP26の最後に採択されたグラスゴー気候合意について、NHKは『COP26閉幕 気温上昇1.5℃に抑制「努力追求」成果文書採択』(2021年11月14日 15時14分)とまとめており、いかにもCOP26の成果として1.5度目標に合意したかのように書いている。
だが中国は一歩も譲っていない。2050年も目標については「今世紀の半ばまでまたはその頃に(by or around)」脱炭素をする戦略を諸国が提出するとなっているが、or aroundとなっているのは、これは中国の2060年という脱炭素の目標年は変えなくてよいための配慮だ。
ちなみにインドは2070年の目標になっていてこの目標年も変えなくてよい。インドにもor aroundという文言で配慮した格好だ。
1.5℃抑制への「努力追及」というのはもともとパリ協定にある文言に過ぎない上、結局、この合意文書はこれまで先進国、中国(やインド)が宣言してきたことを追認するにすぎず、脱炭素の目標年の前倒しを要求するものには何らなっていない。
グラスゴー気候合意には、具体的にどのように排出削減をするかは殆ど書いていない。
唯一、石炭火力発電について言及されており、石炭火力発電の「削減(phase-down)に向かっての努力を加速する」ことをCOPが諸国に呼びかける、となった。
これは英国がCOP26前にしきりにメディアに訴えていた「石炭の終焉」というイメージからは程遠い。もちろん、中国の2030年までの計画に何ら変更を迫る訳でも無い。
じつはこのphase down(削減)という文言は、COP26会期中に発表された米中グラスゴー共同宣言で用いられたものだ。
中国は現行の第14次五か年計画の下で、2025年までの5年で1割のCO2排出を増やすことになっている。中国は日本の10倍のCO2を排出しているから、この増分だけで日本の年間排出量に匹敵する量だ。
だがその後の第15次五か年計画においては、発電用の石炭消費量は(国全体の石炭消費量自体も)低下すると見られている(参考 九州大学堀井準教授と筆者の対談動画)。ガス火力や再生可能エネルギーなどが導入されるからだ。現在の中国は石炭火力の割合が高すぎるから、そのほうが電源構成としてのバランスが良くなるのだ。
つまり、このphase down(削減)という合意も、中国の現行の考えを追認しているものに過ぎず、中国に譲歩を迫ったというようなものではない。
ちなみにこれと引き換えに米国はとんでもない約束をしている。該当箇所を抜粋しよう。
電力の2035年ゼロ排出など、米国に出来る訳がない。中国はこの文言を持ち出して米国を非難し、外交上優位に立つだろう。もちろん、これを達成しようとすれば経済的な自滅になることも間違いない。
ちなみにこの米中合意、短いので簡単に読めるが、ひたすらxxに協力します、といったことばかり書き連ねてあるが、中国は上述の石炭の「削減」以外、何一つ約束していない。
ではこの合意はいったい何だったのか?
記者会見では、中国の気候変動交渉担当者の解振華は、気候変動に関しては「中国と米国の間には相違点よりも合意点の方が多い」と述べた。
米国の気候変動担当特使であるジョン・ケリーも、「米中両国は相違点には事欠かないが、気候変動に関しては協力こそがこの仕事を成し遂げるための唯一の方法である」と述べた。
つまり両方とも気候変動については「協力が重要だ」というメッセージを出したかったのだ。バイデン政権の対中融和的な姿勢がよく見える。気候変動を理由に、経済関係を作りたいのだろう。中国としても、近年になって冷え込んでいる外交関係を改善し対中包囲網を壊す格好の機会になっている。
両者の利害が一致した訳だ。
それにしても、出来もしない約束を中国相手にしてしまうあたり、米国民主党政権の売国的な国際交渉ぶりは相変わらずだ。米国内で相当な反発を招くことは必定だ。