メディア掲載  エネルギー・環境  2021.11.18

英国:ブレクジットの次は "脱炭素EXIT" が実現するか

Daily WiLL Online HPに掲載(2021年11月10日)

エネルギー・環境

2050CO2実質ゼロ目標に邁進する英国で、「ネットゼロ(CO2実質ゼロ)」の是非を問う"国民投票"の実施を求める声が挙がっている。また、多くの議員も庶民に負担を強いる脱炭素政策に疑義を呈し始めた。はたして、BREXITに続き、英国の"脱炭素EXIT"はあり得るのか?

目次

  • 「ネットゼロ」の是非を問う国民投票
  • なぜ「国民投票」なのか

「ネットゼロ」の是非を問う国民投票

ボリス・ジョンソン首相率いる英国政府が2050CO2実質ゼロ目標に邁進している。実質というのはCO2の排出から植林などによる吸収を差し引いて正味でゼロにするという意味である。英国ではこの「実質ゼロ」のことを「ネットゼロ」と呼んでいる。

だが、ガソリン車やディーゼル車の禁止、ガス暖房から電気式ヒートポンプへの切り替え等といった政策が打ち出され、その経済負担が明るみに出るにつれ、異論が噴出している。

それを受けて、ネットゼロの是非を問う国民投票の嘆願が政府のホームページにアップされ、署名を集めている。1万人集まれば政府は公式に回答する義務があり、10万人集まれば議会での議論対象になる、とされている1110日現在、すでに18,000人を超える署名が集まっている。

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ネットゼロの是非を問う「嘆願」ウェブサイト(画像は11.7日時点のもの)

via petition.parliament.uk

脱炭素の経済負担の深刻さについては、この国民投票の話題を含めて、このところ保守系の英国メディアが連日報道している。The Daily Telegraph, The Sun, The Spectatorなどだ。例えば以下のような記事がある。


Welcome to Net Zero: Green shift will lead to 'permanently' higher energy bills, Bank of England warns
※The Daily Telegraph, 5 November 2021

A Net Zero referendum? Bring it on
※The Spectator, 6 November 2021

このコラムでも以前に書いたが、与党保守党内でも、かつてブレクジットで急先鋒だった議員らが、公然と脱炭素の経済負担に異を唱えている。スティーブ・ベイカー、イアン・ダンカンスミス、ナイジェル・ローソン、クリス・スキッドモアなどだ。

もし10万人の署名が集まり議会で取り上げるとなれば、保守党を二つに割る大論争になるのは間違いないであろう。


なぜ「国民投票」なのか

ところで今回、「国民投票」と言う手段が選択された理由は何だろうか。

それは、英国も日本と同様、ネットゼロについては全政党が相乗りの政策になってしまっていて、選挙という形では「否定」の選択肢が無く、有権者が意思を表明できないからだ。そこで国民投票の嘆願を出すことで、議会を動かしてゆこう、という作戦だ。

そもそも、現在の英国保守党政権が成立した原点は、移民の受け入れ等のEU的政策が観念的なエリートの押し付けであるとして、庶民と共に反発してブレクジットをおこしたことにある。

その保守党政権が、なぜまた国際エリートの押し付けであるネットゼロに邁進するのか。庶民の暮らしが犠牲になるという点では、彼らが危惧した過剰な移民の受け入れと同様ではないか。政治家は、経済的負担を説明し、民意を問う責任があるはず。以上が、国民投票の歎願の動機だ。

さて、日本も脱炭素政策には全政党が相乗りしている。先の総選挙でも、脱炭素に関しては選択肢が無く、国民は民意を問われることが無かった。だが、莫大な経済負担を伴う以上、真剣に説明し民意を問う政党が出てきて然るべきだ。

日本には英国と同じ国民投票制度は無いが、脱炭素への懸念に関して、国民の声が大きくなれば、政治も決して無視はできない。国会で脱炭素の経済負担の是非についての議論を起こすためにも、私たち一人一人が、脱炭素が引き起こす負の側面についての正しい情報を知るべきであろう。