G7(主要7カ国)貿易相会合が10月22日に開かれて、「サプライチェーンから強制労働を排除する」という声明が発表された。名指しはしていないが、中国のウイグル新疆自治区における強制労働などを念頭に置いたものだとメディアは報じている。
ところで、経済産業省の報道発表でも国内の報道でもなぜか書いていないが、声明を読むと、下記のように太陽光発電は農産物、衣料品と並んで、名指しになっている。
おおむね世界の太陽光発電の8割は中国製であり、半分は新疆ウイグル自治区で生産されていて、強制労働に関与しているとされる(図1)。残念ながら、太陽光発電の現状は、屋根の上のジェノサイドと呼ぶべきおぞましい状況にある。
図1 結晶シリコンの世界市場シェア(ヘレナ・ケネディーセンター報告による)
G7声明を受け、新疆ウイグル自治区からの巨大な太陽光パネルの供給が消滅するのだろうか?だとすると、価格は暴騰して、かつての石油ショックならぬ、太陽光ショックが起きるのだろうか。
さて、日本では、菅政権時に検討されたエネルギー基本計画が岸田政権によって閣議決定され、再生可能エネルギーは最優先で大量導入されることになった。でも、いったいどうやって、それを強制労働排除と両立するのか。エネルギー基本計画では、まともな議論は全くなされていない。
そして、問題は太陽光パネルに止まらない。風力発電、EV、AI・IoTによる省エネなどの「グリーン」テクノロジーは、中国産の鉱物資源に大きく依存しているのが現状だ。特にモーター用の磁石に使われるネオジムなどのレアアースは、人権侵害が問題視されている内モンゴル自治区が主要な生産地になっている。
だが、この内モンゴル自治区では、モンゴル人に対する人権侵害が問題となっている。モンゴル語での教育禁止、それに反対する人々への弾圧などである。犠牲者も複数出ている。海外ではこれは文化的ジェノサイドと呼ばれ非難されている。
日本でも、高市早苗衆院議員を会長とした南モンゴル議連が今年4月に発足している。設立総会では、文化的ジェノサイドに加え、日本国内に在住する南モンゴル出身の留学生や家族が中国政府からどう喝を受けている、といった問題が指摘された。同議連では外交および国内法整備で対処するとしている。
米国ではかつて銅の副産物として安価にレアアースが生産されていた。だが、環境規制が厳しくなり、1980年代からレアアース生産は経済性を失った。今ではレアアース生産は大幅に縮小している。
米国に代わって世界市場を席捲したのは中国だ。中国が世界に占めるレアアースの生産シェアは、2019年時点で7割強となっている。そして、これは急激には変えようがない。鉱山の開発には5年から10年はかかるからだ。
そして、生産工程よりも中国に一極集中しているのは、環境負荷が高い選鉱工程である。これは中国が世界の9割近くを占めている(図2)。
図2 レアアースの選鉱工程のシェア(データはIEAより)
現時点でグリーンエネルギー技術を大量導入するならば、そこで使われるレアアースの供給はかなりの程度、中国、それも人権問題を抱える内モンゴル自治区からの供給に頼る可能性が高い。
これは日本の国策として適切なのだろうか。企業はそのようなサプライチェーンをどう考えるべきか。G7も、いずれ中国産のレアアースの排除に動くかもしれない。詳細な情報収集に基づいた、熟慮による判断が必要だ。
「グリーン技術」の性急な大量導入は避け、中国に一極集中してしまったレアアースのサプライチェーンを再構築することから手掛けるほうが賢明なのではないか。