メディア掲載 国際交流 2021.11.05
電気新聞「グローバルアイ」2021年11月2日掲載
◆多様な「本音」聞く機会/コロナ後に取り戻して
世界で感染症が依然として猛威を振るっている。日本は第5波が沈静化した一方、英国やシンガポールでは再びまん延し始め、年末に計画する現地出張は中止を余儀なくされそうだ。
昨年この欄で書いた通り、国際的会合では、コーヒーやワインを飲みつつ“本音”を聞く事こそが最大の醍醐味である。もちろん、親しい友人とはオンラインで十分だが、信頼関係を新たに築き上げてゆこうとするなら、やはり直接話し合う必要がある。
文豪ゲーテは「他人を知ろうと思えば先方に自分の方へ来てもらってはダメだ。どういう人かを知るには、自分の方から出かけて行かなければならない」と語った。特に若い人には、コロナ危機の収束後、ぜひとも積極的に海外に行き、新しい信頼関係をグローバルな形で築いてほしい。
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筆者がハーバード大学に滞在した時に学んだ重要な事は二点。“ブレイン・ピッキング”と“サイロ・ストラクチャー”だ。行政大学院では、個々の専門知識を組み合わせて“統合化”し、複雑に絡み合った社会の課題・難問に挑戦する事を最大の研究目的としている。
このために個別分野における一流の専門家から正確に知恵を借り(ブレイン・ピッキング)、それらを統合する技量・力量が求められる。
また個々の学問が孤立した状態を家畜の飼料や農産物を個別に貯蔵する巨大施設(サイロ)に例え、縦割り的なサイロ・ストラクチャーと呼ぶ。社会問題が複雑に絡み合うため、単一の専門分野では解決不可能な事は明瞭であり、多種多様な専門的見解を“本音”で聞く場や機会が大切なのだ。
ハーバード大学では一般学生と共に米軍の高級将校が学んでいる。安全保障に関し一般国民とは異なる視点を彼らから教えてもらった。「ジュン、一般学生は南米や中東の小国が米国と対立した時、ケシカランから“武力行使を”と安易に叫ぶから危険極まりない」と、命の危険と隣り合わせで働く心情を伝えてくれた。
また韓国政府のあるエリートは「パリのOECDでの会議で各国代表の顔を見ると、東洋人は韓国・日本出身者だけ。この時両国の友好関係が不可欠だと痛感した」と語ってくれた。
米国史に詳しい教授は、「靖国合祀(ごうし)が問題化しているね。ハーバードにも合祀問題があるのだ。大学のメモリアル・ホールには国のために戦死した卒業生が祀られている。南北戦争で戦死した南部軍卒業生の遺族が合祀を願ったが、大学は北部軍側だから合祀を拒否した」と語った。
もちろん、“心地よい”参考意見だけが直接聞ける訳ではない。英国でのある国際会議で、中国の研究者が筆者に中国語で話しかけてきた時の事だ。筆者が日本人であり、日中友好に努力したいと答えた途端、彼は興奮して次のように叫んだ。「そんなものが本当に必要か」と。
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以上のように様々な形で文字や映像では得られない知識と教訓が体感・吸収できるのがフェイスツーフェイスを通しての対話だ。
幕末の志士、吉田松陰は「伝聞の得たる所、文書の記す所」では不十分で、海外に行き情勢を直接見分する必要を感じ、黒船に乗り込もうとした。筆者は今この事を痛感している。