自民党総裁選では河野太郎氏が敗北し、高市早苗氏が善戦した。要因の一つは菅義偉政権下で進められた「再エネ最優先」を掲げるエネルギー政策が問題視されたことだ。現在のエネルギー基本計画案は閣議決定せず、大きく見直すべきだ。ポイントを述べよう。
性急な脱炭素政策が破綻した。欧州では電気・ガス価格が高騰、史上最高値を更新している。
欧州は風力発電を大量導入してきた一方で、石炭火力発電を減らしてきた。また英国とドイツでは、シェールガスが発見されたにもかかわらず、この採掘は環境破壊であるとして事実上禁止された。結果として、輸入する天然ガスに依存する体質になった。
だが今年の夏は風が弱く、風力発電量は低迷した。穴埋めとして天然ガスが発電に使われ、在庫は大幅に減少。折悪(あ)しく米国のメキシコ湾岸をハリケーンが襲い、ガス輸入が滞った。この結果、ガス価格は高騰、電気料金も跳ね上がった。英国では破綻するエネルギー会社が8、9月だけで10社となり多くの顧客が新たな供給者を求めることになった。また天然ガスを原料とする肥料工場2つが採算割れで操業停止に追い込まれた。
いま欧州の一般家庭は2割、4割といった光熱費の大幅な上昇に脅かされている。各国政府は一時的な免税や給付金などの救済措置に奔走している。再エネを無暗(むやみ)に優先し、安定供給をおろそかにしたツケが回ってきた結果だ。日本はこの轍(てつ)を踏んではならない。
現在のエネルギー基本計画案では、脱炭素のためとして電気自動車や再エネなどの「グリーン」技術の大量導入が謳(うた)われている。だが化石燃料を消費しない代わりに大量の鉱物資源を必要とする。そしてこれは中国依存を高める。
太陽光パネルについては、世界の製造の半分を占める新疆ウイグル自治区において、ジェノサイド(民族大量虐殺)との関係が問題視されるようになった。
では電気自動車や風力発電はどうか。レアアース(希土類)であるネオジムを用いた磁石が大量に使われる。だがレアアースは世界の大半が内モンゴル自治区(南モンゴル)で生産されている。そこではモンゴル系住民に対する人権抑圧が起きている。モンゴル語での教育禁止など文化的ジェノサイド、それに抗議する人々への弾圧などである。レアアース生産に伴う公害で健康被害も起きている。
日本でも、これに対処するため高市早苗氏を会長とした南モンゴル議連が今年4月に発足した。
今後数年の間に電気自動車や風力発電を大量導入するならば、そこで使われるレアアースはかなりの程度、中国、それも人権問題を抱える南モンゴルからの供給にならざるを得ない。
米国はすでにレアアースの中国依存が安全保障にもたらす影響の調査を始めた。
日本も、安全保障はもとより、人権の観点からも、サプライチェーン(供給網)の総点検が必要だ。電気自動車を買う人は、環境に良かれと思っているはずだ。それが南モンゴルの文化的ジェノサイドを助長していると知れば、心穏やかではいられないだろう。グリーン技術の性急な大量導入は避けるべきだ。まずは南モンゴルに一極集中してしまっているレアアース供給体制を再構築すべきだ。
米英仏露、中国などの主要国は、原子力発電を大いに利用している。脱原発に突き進んでいるのはドイツなどのごく少数の国だ。だが日本は、技術力は高いにもかかわらず、既存の原子力の再稼働すらろくにできていない。これは日本の統治能力の低さに他ならない。今こそ政治のリーダーシップが必要だ。原子力の推進を宣言し、覚悟をはっきり示すことだ。原子力こそ世界の潮流なのだ。再エネは世界の潮流などではない。
米国では共和党や石油・ガス産出州が反対するから大規模なCO2規制はできない。中国もインドも化石燃料の消費量を増やし続けている。欧州の脱炭素政策が破綻したことは述べた通りで、揺り戻しがくることは必定だ。
また「2050年CO2ゼロ」「2030年にCO2を半減」といった数値目標は、じつは科学的根拠は極めて乏しい。災害の激甚化など起きていないし、将来予測も不確かだ。何がファクト(事実)なのか冷静な分析が必要だ。
さて現在のエネルギー基本計画案は、無謀な数値目標を設定した一方で「環境と経済の好循環」でそれを達成するなどと、綺麗(きれい)ごとを言っている。原子力を活用する範囲ではそれは可能である。
だが再エネでCO2を大きく減らそうとすれば巨額の経済負担を余儀なくされる。その費用負担をどうするのか、これを書いていない。国民を欺く行為である。
近く行われる総選挙にあたり、政治家は「脱炭素政策によって新たな経済負担を国民に課さない」と公約すべきだ。エネルギー基本計画には、経済負担を抑制する仕組みを盛り込むべきである。