メディア掲載  エネルギー・環境  2021.10.18

空虚な脱炭素より原発再稼働を

月刊WiLL 2021年11月号に掲載

エネルギー・環境

数字合わせに終始

菅政権は昨年末に2050CO2ゼロ(脱炭素)を目指すことを表明し、2030年に46%のCO2削減を達成するというエネルギー基本計画の案をまとめた(84日)。同案は再生可能エネルギーの大量導入や莫大な省エネルギーによって目標を達成するとしているが、これは経済成長と安全保障を阻害するもので、実施段階で確実に頓挫(とんざ)する。政府は「原子力による脱炭素(Atoms for Net Zero)」を基軸に据え直すことで、同計画を国益に即したものに軌道修正すべきだ。

菅政権は昨年末の「2050CO2ゼロ」宣言に続き、今年4月には2030年のCO2削減目標を深堀りし、2013年比で従前の26%から46%にまで一気に20%も引き上げた。いずれも官邸によるトップダウンであり、事前に審議会などで検討するプロセスが飛ばされるという異例の決定であった。

日本はエネルギー政策の方向性を定めるために、定期的にエネルギー基本計画を策定してきた。今般の改定においては、このCO2削減目標の深掘りが反映されることになった。

政府が84日に示した計画案では、どの部門でも大幅なCO2削減が見込まれている。30年の排出量の削減量は、13年比で、家庭部門が66%、業務部門が50%、産業部門が37%となっている。

また発電部門では、太陽光発電等の再生可能エネルギーについて「最優先の原則のもとで最大限の導入に取り組む」とされ、30年における発電電力量の割合を「3638%」とし、3年前に策定された第5次計画の「2224%」から大幅に引き上げた。

ただし同計画案では、これまでと異なり、業種や取り組みごとの詳細な削減目安は示されておらず、対策が列挙されるに留まっている。経済負担も示されていない。

つまり、46%という削減目標を具体策の裏付けなく振り分けただけで、数字の辻褄合わせに終始したものだ。この実現可能性については、異論が噴出している。


消費税倍増に匹敵する経済負担

いま日本のCO2削減量は2013年比で13%なので、46%というのは今からわずか9年で33%も削減することを意味する。2013年といえば原子力発電が全て止まっていた年である。これを全て再稼働させても26%までの削減がやっとであると見られていたところ、極端な目標の深掘りとなった。

計画案でこの達成手段として挙げられているのは、太陽光発電などの再生可能エネルギーの大量導入と大幅な省エネである。

案の検討中には、太陽光発電はいまや原子力発電よりも安くなったという試算も示されて報道されたが、これは太陽が照っていないときのバックアップのための火力発電のコストなどが入っていないという、極めてミスリーディングなものだった。

これまでの太陽光発電の実績はどうかといえば、日本のCO22.5%削減するために毎年2.5兆円の賦課金を国民が電気代への上乗せとして負担している。

つまりこのペースであれば、20%の深掘りには毎年20兆円が追加で掛かる。20兆円といえば、奇(く)しくも今の消費税の総額に等しい。ということは、46%の目標達成のための追加の国民負担は、2030年まで消費税率を20%に上げるのと同等になる。深刻な経済負担だ。

また省エネについても、過大な目標設定の下で経済負担が膨らむことが懸念される。省エネは経済的にメリットがある場合もある。だが、何十年経っても投資資金を光熱費の節約で回収できない筋の悪い省エネ投資はいくらでも存在する。

「これから太陽光発電は安くなる」という主張が声高に聞かれる。だが、大量導入にともない送電網の強化が必要になるし、景観や土砂災害等の立地の問題が顕在化しており、これはコスト増加の要因になる。

のみならず、太陽光発電パネルの世界市場の8割を占める中国製品は、ウイグルの強制労働との関係の疑いが濃厚で、米国は6月に中国製太陽光パネルの輸入を事実上禁止した。日本も同様な措置を採るべきだが、計画案ではこの重大な問題を無視し、逆に太陽光発電の大量導入を図るとしている。


計画の見直しは必須

海外では、無謀なCO2削減目標の経済負担が明確になるにつれ、国民の反乱がはじまった。

スイスでは、2030年までにCO2を半減するという「CO2法改正案」が検討された。だがガソリン代の上昇などが明らかになると、反対運動が起き、国民投票で同案は否決された。

英国政府は、家庭の暖房においてガスを禁止して電気式のみにする、といった施策を検討した。しかし、その費用が世帯当たりで数百万円に上るという試算が明るみに出ると、ジョンソン政権のお膝元の保守党議員、スティーブ・ベーカー元ブレグジット大臣らのグループが反旗を翻(ひるがえ)し、政府は再検討を余儀なくされた。

日本のエネルギー基本計画案にも、経済負担が明らかになるにつれ、多くの異論が出てくることが予想される。

太陽光発電や洋上風力発電等の再生可能エネルギーの一層の導入によって賦課金がますます膨らむことには、強い反対があるはずだ。

政府は省エネルギーの補助金を増やそうとするだろうが、その原資となっているエネルギーへの課税をさらに強化することには産業界から抵抗があるだろう。

政府は賦課金や税という目に見える経済負担を避けて、規制強化を図るかもしれない。だが、再生可能エネルギーの使用を義務付けたり、省エネルギーの規制を強化する場合でも、経済負担が発生することには変わりない。工場は省エネルギーを強制されれば競争力を失うから、必死で抵抗するだろう。

46%への20%もの深掘りは、消費税倍増に匹敵する経済負担をもたらすものであり、税・補助金・規制などで実現しようとしても、各論の段階で猛烈な抵抗が起きて、政治的には実現不可能なのだ。

既にエネルギー業界では、エネルギー基本計画案が画餅(がべい)であることは広く認識されているが、やがてこれは国民全体の知るところとなる。そこで原子力を改めて位置づけなおす地合いができてくる。


原子力による脱炭素シナリオ

エネルギー基本計画案において、原子力については「必要な規模を持続的に活用していく」と記されている。典型的な〝霞が関文学〟であり、これは今後どうとでも解釈できるものになっている。

同案では2030年の発電電力量における原子力の割合は2022%となっている。これはおおむね既存の廃炉になっていない原子炉全ての再稼働を意味する。ただしリプレース・新設・増設の推進については明確な記述は見送られた。技術開発については実施することになっているが、特に目玉にはなっておらず、他の技術と同列の扱いに留まっている。

ただし解釈次第では、原子力に大きく舵を切ることは可能になっている。新増設をしないとは書いていない。技術開発も重点化してはいけないとも書いていない。要はこの秋に誕生する新しい政権が、パブリックコメント後に予定されているエネルギー基本計画の閣議決定にあたり、原子力を重点化するという政治的覚悟をはっきりと見せ、大号令を発して必要な政策措置をとればよい。

やるべきことははっきりしている。再稼働を可能な限り早期に進め、リプレース・新増設に着手すること、そして小型モジュール原子炉(SMR)などの更に安全・安価な原子炉技術開発を重点化することだ。これにより日本は脱炭素政策を、空想的かつ自滅的なものではなく、現実的で国益に沿ったものにできる。

原子力を基軸に据えることで、安定して安価な電力が供給できる。これは経済成長をもたらし、財政を健全化して、日本の国力を高める。太陽光発電などで中国依存を高める必要もなくなる。

安価な電力供給は脱炭素にとっても最重要な課題である。というのは、安価な電気があれば、電気自動車やヒートポンプなどによる電化を促進できるからだ。電力部門のCO2排出は全体の4割にすぎず、残りの6割はガソリン自動車や工場の石油ボイラーなどの化石燃料の直接燃焼に由来する。このCO2を減らしたければ、電化することがもっとも有力な方法である。つまり電化は、長期的に経済全体を脱炭素化するためには必須だ。

ところがいまの政府の計画では、再生可能エネルギーの大量導入などで電気料金が高くなってしまう。その一方で電気自動車に補助金をつけて導入しようとしているが、これではアクセルとブレーキを同時に踏むようなもので愚かしい。安定・安価な電力供給さえあれば、補助金などなくても自発的に進む電化の機会はいくらでもある。

安価な電力はイノベーションのカギにもなる。これからの経済の原動力の1つであるデジタル産業は、じつは電力多消費産業である。世界の電力消費の約1割はICT関連である。ブロックチェーンやデータセンターなど電力多消費の技術は多く存在する。原子力による電力供給でこれらの産業を日本に立地させることができる。


国益に資する脱炭素政策

先進諸国が反対運動で伸び悩んでいるのを尻目に、いま世界の原子力市場では中国とロシアが存在感を増している。中国は19の原子力発電所を建設中であり、SMRの建設も始めている。

日本でも技術開発には多くの事業者が取り組んでいる。SMRは東芝、三菱重工業、日揮ホールディングス、日立GEニュークリア・エナジーなどである。事業環境のよい米国・カナダを舞台に実証試験や実用化が進められている。日本政府はこれら日本企業による海外事業を強力に支援するとともに、国内でも研究を重点化すべきだ。

他にも、JAEAが進める原子力による水素製造、技術的には手に届く所に来た核融合など、世界規模でのCO2削減に貢献し、日本の国益にも大いに資する技術を日本は手掛けている。

日本が原子力産業を海外にも展開すれば、地球規模でのCO2削減への真の貢献となる。「国内で2050年にCO2ゼロ」は危険な夢物語に過ぎない。だが日本のCO2は世界全体の3%に過ぎない。日本の原子力産業を再興して世界に展開すれば、そのぐらいの削減はできる。

CO2の大幅な削減を本気で目指すなら、技術的・経済的な観点から原子力を中心に据えるほかない。再生可能エネルギーやCO2の回収貯留では限界がある。また原子力産業を日本の基幹産業として国力を高める方が、中国から大量に太陽光発電を輸入するよりもよい。

最後に、気候変動の科学的知見は確立していないことを付言したい。江戸時代末期に比べて大気中のCO2濃度が約1.5倍になったこと、その間に約1℃の気温上昇があったことは確かである。だが、台風や大雨等の災害の激甚化などはなかったか、あったとしてもごくわずかだったことは、あらゆる統計が示している。2050CO2ゼロなどという極端な目標を正当化するほどの科学的根拠はない。

原子力を中心に据えることの重要なメリットは、かりに気候危機説がすべて誤りだったと判明しても、その経済・安全保障の価値は依然としてまったく揺らがないことだ。