よく誤解されているが、再生可能エネルギーや電気自動車の導入は「脱物質」などではなく、その逆である。重要鉱物への依存は高まる。現在、重要鉱物の供給の多くは中国に依存しており、これは近い将来に代わる見込みはない。
本稿では国際エネルギー機関の報告書(The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions、全文を以下で無料ダウンロード可能 https://www.iea.org/reports/the-role-of-critical-minerals-in-clean-energy-transitions)に基づいてデータを見てゆこう。
再生可能エネルギーおよび電気自動車は大量の鉱物投入を必要とする(図1)。なお図1の発電技術はMW当たりとなっているが、本来であればMWh当たりで比較すべきであり、そうすると設備利用率の低い太陽・風力発電は一層大量の鉱物を必要とすることが分かる。
図1 再生可能エネルギーおよび電気自動車は大量の鉱物投入を必要とする
エネルギー技術が、化石燃料依存から重要鉱物依存へと移行すると、地政学は大きく変わることになる。図2は鉱物および燃料の総生産量における上位3生産国のシェアである。ここで示した鉱物は少数の国に生産が集中しており上位3か国で8割以上のシェアを占めていることが分かる。とくにハイテクに欠かせないレアアースは中国が6割となっている。
図2 鉱物および燃料の総生産量における上位3生産国のシェア
サプライチェーン全体を見ても、再生可能エネルギーおよび電気自動車といったいわゆる「クリーンテクノロジー」への移行は、その地政学を大きく変える。図3はその主要国の顔ぶれである。特に選鉱工程で中国が圧倒的な存在感を示す。選鉱工程とは、採掘した鉱物を、破砕ないし溶解し、化学処理を施して、求める金属を抽出する工程である。エネルギーコストが大きく、環境負荷が高い。環境規制が厳しくコストが高い先進国は中国に対して圧倒的な不利にある。
特にハイテクに欠かせないレアアースについては中国の存在感は抜きんでている。中国の科技日報によると、中国内モンゴル自治区にある包頭市は、レアアース埋蔵量は4,350万トンで、中国のレアアース埋蔵量の83.7%、世界の埋蔵量の38.7%を占めているという。
https://spc.jst.go.jp/hottopics/1909/r1909_li.html
図3 石油・ガスとクリーンエネルギー技術のサプライチェーンにおける主要国
鉱物資源の生産には大きな投資を必要とするため、今後5年程度は国別の生産量のシェアは大きく変わらない。図4はプロジェクト・パイプラインつまり着手済みの事業計画に基づいた2025年の予測を2019年と比較したものである。レアアースの中国依存はほぼ変わらない。コバルトのコンゴ依存も大きく変わらないと見られている。コンゴのコバルト生産は児童労働が疑われている。またコンゴのコバルト採掘は中国系企業によるものが主である。
図4 鉱物の主要な生産国、2019年および2025年
前述したように特に環境負荷の高い選鉱工程では中国のシェアが圧倒的に高い。図5を見るととくにレアアースは9割近い。電気自動車などのバッテリーで多く使われるコバルトについても6割以上が中国になっている。
図5 鉱物の選鉱量の国別シェア(2019年)。(銅についてのみ精錬量)
以上