メディア掲載  エネルギー・環境  2021.09.29

脱炭素・再エネに邁進する英国でエネルギー危機勃発!河野総裁なら日本もこの運命か

Daily WiLL Online HPに掲載(2021年9月22日)

脱炭素に邁進してきた英国で、天然ガス価格が暴騰している。すでに複数のエネルギー事業者が破綻し、肥料工場などが操業停止に追い込まれている。再エネを妄信しエネルギー安定供給をおろそかにしたツケが回ってきたのだ。「脱炭素・再エネ」に突き進む日本も同じ運命を歩むのか?

執筆現在(9/21日)、日本では『ニューズウィーク』しか報道していないが、英国を深刻なエネルギー危機が襲っている。

ニューズウィーク記事:英エネルギー危機の思わぬ波紋 天然ガス高騰で食肉やビール、発泡酒に打撃 やはりプーチン大統領は侮れず



英国の惨状は不運か必然か?

一体英国で何が起きているのか。

英国は脱炭素政策を強力に推進し、風力発電所を大量に建設してきた。その一方で、いまなお石炭を埋蔵しているにもかかわらず、石炭火力発電を大幅に縮小してきた。

そこに、いくつかの事件が重なった。

コロナ禍の回復により急速にエネルギー需要が高まったにもかかわらず、風が弱く、風力発電の発電量は低迷した。また、米国のペルシャ湾岸をハリケーンが襲い、液化天然ガス(LNG)の輸入が滞った。折あしく、フランスから英国への送電設備に火災が起きた(これは、単に運が悪いのか、それとも何らかの攻撃であったのか、実態は不明。最近、この手の事件が多すぎる。日本でも半導体供給がショートした瞬間に半導体工場火災が複数起きたのは記憶に新しい)。

英国およびEUはロシアからガス供給を受けているが、ロシアはこれ見よがしに、ガス供給を増やそうとしない。ロシアはいまドイツまでノルドストリーム2という海底ガスパイプラインの建設を完了し、間もなく操業開始であるが、これに対してドイツ以外のEU諸国と米国は、ロシアの地政学的な力を強めるものだとして猛反対してきた。ロシアは、このノルドストリーム2の円滑な操業を進めるために、EUと英国のエネルギー供給を質とした駆け引きをしていると言われている。

天然ガス価格が高騰したことで、電気料金は跳ね上がった。英国では、破綻するエネルギー企業が相次ぎ(執筆現在で5社、顧客は57万人)、また天然ガスを原料とする肥料工場2つが操業停止に追い込まれた。副生物の二酸化炭素を食品保存目的や添加物として利用する食品工場も操業が滞っている。



あらゆるメディアが「英国エネルギー危機」を報道

以下の主要メディアの記事見出しが、その惨状を伝えている。

 Europe's energy crisis goes from bad to worse as Russia keeps firm grip on supply(欧州のエネルギー危機は悪化の一途、ロシアは供給を完全に掌握)
 Bloomberg, 20 September 2021

 Skyrocketing energy prices threaten to cripple Europes economy(急騰するエネルギー価格が欧州経済を麻痺させる恐れ)
 OilPrice.com, 18 September 2021

 Energy crisis could last for months, Boris Johnson admits as companies warn of collapse(エネルギー危機は何カ月も続くかもしれないとボリス・ジョンソンが認める。企業は破産を警告)
 The Independent, 20 September 2021

 Taxpayers face multibillion-pound bill to bail out failing energy firms, soaring bills and empty supermarket shelves(納税者は、破綻したエネルギー企業を救済するための数十億ポンドの負担に直面。また、光熱費は高騰し、スーパーマーケットの棚は空になる)
 Daily Mail, 20 September 2021

 Energy companies request multibillion-pound emergency handouts to help them survive energy crisis(エネルギー企業が危機を乗り切るためとして数十億ポンドの緊急支援を要請)
 Financial Times, 19 September 2021

 Energy prices will push up inflation across Europe, economists warn(エネルギー価格が欧州全体にインフレをもたらすと経済学者が警告)
 Financial Times, 19 September 2021

 David Green: Suicidal energy policy is empowering Britain's enemies(自殺行為のようなエネルギー政策が英国の敵を強くしている)
 The Daily Telegraph, 19 September 2021

 Simon Heffer: Environmental hubris has left Britain vulnerable to Putin's gas blackmail(思いあがった環境政策が、プーチンのガス脅迫に対して英国を脆弱にしている)
 The Daily Telegraph. 18 September 2021

 Matt Ridley: How Britains shale revolution was killed by green lies and Russian propaganda(英国のシェール革命は、環境保護の嘘とロシアのプロパガンダによってどのように殺されたか)
 The Critic, December 2021



海外勢力につけ込まれる「再エネ」の危険性を直視せよ

英国は「脱炭素」「再エネ最優先」という思い込みの下、石炭利用を減らしてきた。原子力は規制コストの上昇に直面し、遅々として進まなかった。

シェールガス資源が地下に存在するという朗報があったが、この採掘は環境破壊であるとして、事実上禁止された。

英国のシェールガス採掘反対運動にはロシアが関与していた。ロシアの力の源であるガス輸出のライバルを減らすためだ。これは陰謀論などではない。

上記のリスト最後のリドレーの記事にあるように、NATOのラスムセン事務局長は、「欧州がロシア産ガスの輸入に依存するよう、ロシアはシェールガスに反対する環境保護団体に積極的に関与している」と述べた。シンクタンクCentre for European Studiesによると、ロシア政府はシェールガスに反対するキャンペーンを行っているNGO9,500万ドルを寄付しており、ロシアのテレビ番組「Russia Today」は、反シェールガスの記事を延々と流している。米国国家情報長官も、これを非難している。

さて、いま日本は総裁選・総選挙を迎えている。有力と言われている河野候補は、「脱炭素」「再エネ100%」「反原発」を標榜してきたことで知られている。総裁選ではそういった主張を「封印」はしているようだが、河野総裁が実現した場合に、いつまでも持論を「封印」しておくとは限らないであろう。もしこれまで主張してきたエネルギー施策を推進するのであれば、やがて日本も英国のようなエネルギー危機に襲われる可能性はかなり高い。さらには、日本から原子力や火力などの安定・安価なエネルギーを奪い弱体化させ、太陽光発電やバッテリー輸出の覇権をたくらむ敵対的な海外勢力が、虎視眈々と、日本の政治に関与してくるのではないか。

英国の惨状は決して対岸の火事ではない。総裁選挙の争点の一つとしてエネルギー施策も挙げられているが、現在の表面上の言葉に囚われず、候補の過去の言動や姿勢から総裁選びが行われることを期待する。