ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2021.09.08

ワーキング・ペーパー(21-005E)Expectations-driven productivity in the layered markets

本稿はワーキングペーパーです

景気循環や経済成長の要因として生産性の変化は大きな役割を果たすが、一方で、景気循環のような短期間で生産性が増減することは、技術進歩では説明が難しい。短期間での生産性の増減はなぜ起きるのか?

本稿では、悲観的期待から楽観的期待へ、または、その逆の期待の変化によって、産業内または企業内での分業構造が深化する、または、劣化する、という変化が生まれるのではないか、と考えた。企業間のまたは(企業内の)個人間の分業の度合いが高まると、生産性の劇的な向上がもたらされることは、アダム・スミスが国富論で最初に指摘した経済学の基本原理である。市場についての楽観的な期待が高まると、企業間の取引ネットワークを深化させて、企業間の分業の度合いを高める(また、企業内の個人間の分業の度合いも高まるだろう)。その結果、経済全体の生産性が向上し、好況が訪れる。逆に市場についての悲観的な期待が高まると、取引ネットワークは収縮し、企業間の分業の度合いは低くなり、結果的に経済全体の生産性は悪化する。こうして悲観論が蔓延する結果、不況が訪れる。

このような「期待」が先行して生産性を変える可能性は、これまであまり理論モデルにはできていなかった。本稿の新しい点は、複数の市場(産業)が層構造(Layered structure)を作っているというよく観察される事実を理論モデルに取り入れたことである。このとき、各市場の分業の度合いが、お互いに相手の市場の分業の度合いを所与として決まるので、市場間で次のような調整の失敗が生じることを発見した。つまり、すべての市場で分業の度合いが高い均衡(高生産性の均衡)も、すべての市場で分業の度合いが低い均衡(低生産性の均衡)も、いずれも存在し、どちらの均衡になるかは市場の期待次第になる。

このモデルから、期待の変動によって、ファンダメンタルな分業構造が変化し、生産性が変化する、という景気循環の新しい説明が得られたのである。このメカニズムで景気が変動しているならば、市場における楽観的な期待を高めるような「期待にはたらきかける政策」は、実際に生産性を向上させる効果を持つ可能性がある。今後のマクロ経済政策のあり方について、本稿は一定の示唆を提示するものである。

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