メディア掲載  エネルギー・環境  2021.09.03

消費税倍増に匹敵する温暖化対策の9年後の負担

アゴラ(2021年9月3日)に掲載

以前書いたように、再生可能エネルギー賦課金の実績を見ると、1%CO2削減に1兆円かかっていた。

菅政権が26%から46%に数値目標を20%深堀りしたので、これは年間20兆円の追加負担を意味する。

20兆円の追加負担は現在の消費税20兆円の倍増に匹敵する。

これを全額家庭の電気料金から徴収するならば、3人世帯の電気料金は現在の5倍で年間60万円になる。

多くの人々は、電気代が5倍になったら、冷暖房を止めるだろう。日本でも昔は電気代が高くて冷暖房をしない人がいたが、またそのころに戻るということだ。

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20%の深堀りで電気代が年60万円になる。
写真出典:GWPF


以下、少し詳しく書こう。

菅政権はこれまで「2013年比で26%削減」だった目標を「46%削減」まで深堀りしてしまった。これはどれだけの国民負担になるか。

20%の深堀りだから、以前説明した1%イコール1兆円」を適用すると年間20兆円になる。

20兆円というのは現在の消費税の総額に奇しくも等しい1)。つまり20%の目標深堀りの国民負担は消費税の倍増に匹敵するのだ。

さて2030年の日本の人口は12千万人と予測されている。年間20兆円なら、一人あたりだと約16万円になる。世帯人数が3人なら、48万円だ。

普通の家庭の電気料金が毎月1万円、つまり年間12万円程度とすると、それに48万円が上乗せされて、電気代は5倍、合計約60万円になる。

もちろん実際には、これは家庭の電気料金だけでなく、企業の電気料金からも徴収されるだろう。しかし全ては結局は国民が負担する。それに、企業は国際競争に晒されているから、その負担は軽減される代わりに、家庭に重くのしかかることは十分に予想される。

政府としては、「太陽光発電はもう安くなったから、今後はコストはあまりかからない」、と言うかもしれない。

だが、どうだろうか。太陽光発電の置きやすい場所は減っていく一方であるし、晴れた時しか発電しないという不安定さがあるために、導入が進むほど送電線の増強やバッテリーの導入などの対策費用がかさむ。晴天時に一斉に発電する場合には余った電気は捨てなければならない。

それに「新築住宅への太陽光発電義務付け」「公用車の電気自動車化」など、政府はわざわざコストのかかる政策を選択して実行することが得意だ。「政府の失敗」に陥りやすいのは相変わらずだ。

そして、近年太陽光パネルが安くなった最大の理由は、中国の新疆ウイグル自治区で生産された製品を輸入してきたことだ。これには強制労働の関与が疑われている2)。米国シンクタンクCSISの報告では、不正な貿易慣行を理由に中国製太陽光パネルの輸入を止めた米国では太陽光パネルの値段は約2倍になった3)という。

そして何より、2030年といえば今からあと僅か9年しかない。2019年の温室効果ガス排出量は14.0%減だったから4)、そこから一気に32%も減らすことになる。短期間に無理をするので、相当に高くつく対策ばかりになるだろう。

多くの人々は、電気代が5倍になったら、冷暖房を止めるだろう。日本でも昔は電気代が高くて冷暖房をしない人がいたが、またそのころに戻るということだ。

英国ではenergy poverty (エネルギー貧困)という言葉がある。電気やガスの値段が高いので、暖房をつけず、マフラーや帽子をして布団にくるまって寒さをしのぐお年寄りがまだたくさんいる。(映画「チャーリーとチョコレート工場」に出てくる少年チャーリーの家もそうだ)。

「脱炭素」で電気代がどこまで上がるのか。いま政府では「46%」に辻褄を合わせるための具体的な政策の検討が進んでいる。国民は、ご無体な負担が降りかかってくることの無いよう、よく動向を注視し、声を上げねばならない。

さもなければ、9年後には寒さに凍えるか、あるいは反乱でも起こすしかなくなるかもしれない。







1)財務省、一般会計税収の推移


2)杉山大志「太陽光発電」推進はウイグル人権侵害への加担か、Daily WiLL Online(デイリー ウィルオンライン)

3A Dark Spot for the Solar Energy Industry: Forced Labor in XinjiangCenter for Strategic and International Studies

42019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について