有本 『「脱炭素」は噓だらけ』(産経新聞出版)を拝読しました。いま日本の国策の柱に挙げられている「グリーン成長戦略」なるものの欺瞞(ぎ まん)が非常によく理解できました。
杉山 ありがとうございます。有本さんは幼少期、西伊豆で過ごされたとか。静岡県熱海市で大規模土石流が発生、多数の犠牲者が出ましたけど、他人事ではないでしょう。
有本 ええ。伊豆半島では、雨の多いこの時季に土砂崩れが多発しますが、今回の熱海・伊豆山ほどの大きな被害を私は知りません。
杉山 ここまで被害が甚大化した原因は調査中なので、断定的なことは言えません。現段階で、最大の元凶とみられているのが、逢初(あい ぞめ)川の上流にあった造成地、いわゆる「盛(も)り土(ど)崩壊」です。この盛り土はある業者が不法投棄していたものだと判明した。
有本 土木の専門家である静岡県の難波喬司(なん ば たか し)副知事は、土石流の原因と特定は避けつつも「(発災地付近に)不適切かつ違法、違反の盛り土が存在していた」と断定しています。しかし土地の来歴や古い議会の議事録等を見ると、単に工法や業者のモラルという以外のややこしい背景も見え隠れしますので、私も取材を続けていくつもりです。
杉山 その造成地には、太陽光発電施設が建設されていました。太陽光発電施設から雨水が大量に流れ出し、土石流が悪化したと見る専門家もいます。
有本 十分な調査が待たれます。
杉山 日本の各地で太陽光発電施設が各地の山の斜面を切り開き、設置されています。それによって、土砂崩れが発生しているのは事実です。静岡県民の誰もが、太陽光発電開発の推進によって県内の環境が破壊されていることを知っている。
有本 今回、被災した熱海市に隣接する伊東市や函南(かん なみ)町では住民らによる反対運動が起きています。
杉山 難波副知事は「山林開発の影響はあると思う」と、人災であることを示唆しました。ところが、川勝平太知事は土石流の起点近くの太陽光発電施設について「直接の因果関係はみられない」と説明している。川勝知事は太陽光発電推進派です。その一方で、リニアのトンネル工事によって大井川が減水するという理由で準備工事の着工を認めず、浜岡原発の再稼働も反対している。まるで環境活動家のようです。
それほど環境が大事と言いながら、太陽光発電施設がどれほど日本の環境を破壊しているのか、その点については目をつぶっている。矛盾もはなはだしい。今回の災害との因果関係が明らかになれば、太陽光発電推進派の川勝知事の退陣も避けられません。
有本 「地球に優しい」という名目で太陽光発電が、日本各地に設置されていますけど、実際どうなのか。
杉山 よくよく考えるべきですよ。森林や田畑をどんどん切り開くことになる。しかも広い面積を確保しなければ、経済活動を支える大量の電力を得られません。絶えず降り注ぐ太陽の光を集める必要がありますから、セメントやガラス、シリコンなど大量の材料が必要です。ということは、廃棄物も同時に大量に排出される。脱物質とはまるっきり正反対です。
有本 全然地球に優しくないわけですね。しかし、太陽光発電の事業は拡大傾向どころか、環境省は、2030年度の太陽光発電の導入目標に約2000万キロワット分を積み増すと決めたそうです。原子力発電所20基分に相当するとか。
これだけでも問題ですが、私が以前から警鐘を鳴らしてきたこととして、日本中にある太陽光発電施設に外資が無制限に入ってきているという問題もあります。
杉山 実に深刻な問題です。
有本 2014年、大阪市南港咲洲(なん こう さき しま)の市有地を中国国営企業、上海電力に太陽光発電事業用に貸与していたことが明らかになりました。当時の市長は橋下徹氏です。これを上海電力に取材しました。
このとき先方は、カメラオフを条件に「いずれ送電にも入ることができると見越して参入した太陽光発電事業は、そのきっかけに過ぎない」と真意を明かしました。日本のインフラ、言い換えれば私たちの生殺与奪を握ろうというのが彼らの本音でしょう。ところが、当時の大阪市も国も、虎視眈(こ し たん たん)々と電力事業を乗っ取ろうと狙う外資もあることに気づいていませんでした。
杉山 安全保障にかかわる問題です。電力をターゲットにしたテロが海外では横行しています。太陽光発電の施設でも、送電線に向かって変な電気を流して、発電所や送電網を破壊、大停電を誘発することは十分可能です。しかも上海電力のような中国企業であれば、党組織の設置が法律上求められている。中国当局から指示があれば、すぐに実行に移せるよう、指揮系統ができあがっています。発電所につながっている数が多ければ多いほど、テロに対して脆弱(ぜい じやく)にならざるを得ません。
有本 私たちのライフラインを、日本に敵対的な外国に握られてしまうというのは実に恐ろしい話です。これを何の警戒感もなく行政が許す感覚が信じられません。
杉山 英国でも、送電事業に中国企業がかなり食い込んでいます。中国は戦時も平時も関係がない超限戦を仕掛けています。電力もその対象ですよ。
有本 私もメディアで訴えるだけではなく、国会議員にも大阪の件など話したこともありますが、なぜか日本では規制が難しいようなのです。
杉山 日本は性善説で、事業者の善意を頼りにしすぎています。しかも、省庁ごとの縦割りで、協力体制が整っていません。電力事業を所管している経産省のみならず、テロの場合は防衛省の力も必要です。
有本 安全保障として対策することが急務ですね。
杉山 太陽光発電事業で深刻な点はウイグルとの関係です。世界の太陽光パネル開発の8割は中国企業によるものですが、さらにそのうちの6割がウイグルでつくられています。
有本 米国当局(米国税関国境保護局=CBP)は6月下旬、新疆(しん きよう)ウイグル自治区で太陽光パネルの原料などを製造する合盛硅業(Hoshine Silicon Industry)からの輸入を一部差し止める違反商品保留命令(WRO)を出しました。同社の製品(ポリシリコンなど)の生産工程で強制労働があったことが理由です。同日、米国商務省・産業安全保障局(BIS)は、合盛硅業を含む新疆ウイグル自治区の5つの企業・団体を、エンティティ・リスト(国家安全保障や外交政策上の懸念がある企業)に追加しました。理由はやはりウイグル人らへの拘束や強制労働、高度技術による監視などの人権侵害です。
日本とも長年にわたって関連のある団体が含まれていますが、そもそも太陽光パネルの技術開発は、日本が先行してそれが中国に提供されたのではありませんか。
杉山 日本をはじめ、米国、ドイツは研究開発の段階で大規模な投資をしていました。けれどハッキリ言えば、半導体製品の中で太陽光発電は、それほどのハイテク技術ではありません。ただ、中国はいま圧倒的に安価に生産しており、価格競争に勝ったわけです。
ところが、この安い理由とは何か。中国はウイグル人を強制労働させることで、人件費を低く抑えることができる。また自国でシリコンを採掘・精錬しますが、石炭火力を用いて安価な電力を大量に使っている上に、排水などの環境規制が甘い。だから、安価な太陽光パネルを世界中に輸出することができる。米国は特に強制労働への関与を重大な問題だと判断して、中国企業からの輸入を事実上全面的に禁止する措置をとっています。では、日本はどうなのか。
有本 政府の感度はまったく低いと言わざるを得ません。
杉山 非難決議すら採択できなかったですね。
有本 安倍政権のときは、後半は中国との融和にかなり傾きましたが、それでも西側諸国とくに米国と深く連携して対中態勢づくりに努めていました。ところが、菅政権になると、そのリーダーシップが弱まった。その機に乗じて復権してきたのが、与党内の親中派です。最近では、親中派の象徴のような河野洋平氏を自民党本部に招聘(しよう へい)し、講演会を開いたりして、それを歴代の閣僚経験者がありがたがって聴くという有様。
その場で岩屋毅(たけし)元防衛大臣が「多様性を包含(ほう がん)できるリベラル勢力が自民になければならない」と言い、それに河野氏は「今のような意見が聞けたことは涙が出るほどうれしい。自民党は死んでいないとつくづく思った」と答えたとか。呆れて言葉もありません。
杉山 彼らが言う「リベラル」とは、要するに「親中」ということでしょう。
有本 そうです。そして、現在の親中派のカナメが二階俊博幹事長です。
日本人の対中感情は、ここ20年で著しく悪化しています。80%以上が「中国は信用できない国」と答えている調査もあります。それは当然の結果で、何も日本人が狭量になったわけではなく、いまや世界中が中国の暴挙に怒っています。ところが、日本政界だけがその中国への抗議一つまともにできない。政府も与党も官僚も財界も「親中派」と呼ばれる勢力に振り回されていて、民心は離れる一方です。こういう「中国の浸透」という一種のウミを出さなければ、先はありません。
杉山 太陽光パネルの現状は「屋根の上のジェノサイド」。強制労働への加担です。与党の議員は太陽光発電所を見たら、そのことをぜひ想起してほしい。
有本 杉山さんはご著書で、「気候変動」という虚構を国民に信じ込ませるプロパガンダの実態を指摘されています。そこで厄介なのがマスメディアですが、彼らはウソの情報を鵜呑みにしてセンセーショナルに報じ、後に間違いが判明しても、ろくに訂正もしないし、軌道修正もしない。
杉山 熱海の災害が起きた直後、これほど被害が甚大化したのは温暖化で豪雨が発生しやすくなったためだ、という意見もありました。ただ、もうさすがに、そんなことを言う連中はいなくなりましたけど(笑)。
さまざまなデータがありますが、豪雨は過去と比べて、別に強くなっていません。データによれば短時間の豪雨はやや強くなったように見えるものもありますが、せいぜいそれは江戸時代末期と比べて降水量が六%増えたというだけ。温暖化のせいで豪雨が激しくなったという説は、まったくのナンセンスです。乱開発によって被害が大きくなったということの方がはるかに重大です。
有本 政府の誤った国策にメディアが乗っかっていると見える一方、むしろメディアが偏った報道で、政府の政策を誤った方向に導いている気さえしてきます。「脱炭素」も同じで、「これが世界のトレンドなんだ」という考えなしの追随。杉山さんはその恐ろしさを喝破(かつ ぱ)されています。
杉山 菅政権は2020年9月の発足後、CO2などを2030年までに46%減らし、2050年までに0にする、と宣言しています。
有本 その数字の根拠について小泉進次郎環境大臣が、報道番組で「おぼろげながら浮かんできたんです。『46』という数字が。シルエットが浮かんできたんです」などと言い出したわけですね。有権者で納税者である我々としては「そこにおカネを投入するなら、おぼろげながらじゃなく、はっきりと根拠を示せ!」と言いたい(笑)。
杉山 当然の反応です。
有本 日本にはどんな国を目指すのか、どうあるべきかという国家ビジョンがありません。どの産業で成長していくのか、そのためにエネルギーはどうするのか、環境保全をどう考えるのか、どんな価値観を大切にするのか、その定見とバランス感覚を持たないまま、国際社会の空気を読んで転んでしまう。
杉山 菅政権以前のエネルギー政策は、経済・安全保障・環境のバランスを見ながら進めていました。審議会で専門家が意見を述べ、関係各所で協議しながら、適切な数字に合意してきたのです。ところが、菅政権になって、すべての順序が吹き飛ばされてしまった。米国に要請されたから、それまでの「26%」から「46%」という数字を無理やり発表した。
有本 主体性ゼロということでしょうか。
杉山 役人は首相の指示に従わざるを得ません。「46%」という数値目標を達成するため、具体的な対策をいま講じていますが、難航しています。
実は過去の太陽光発電の実績を見ると、設備投資にお金がかかる割には、CO2は減少していません。太陽光発電は日本の発電量の7%を占めています。つまり日本の発電部門からのCO2を7%下げることに貢献した。ただし、CO2のうち発電に由来するのは全体の4割であり、残り6割は工場のボイラーや自動車の排気などから出ているので、日本全体のCO2の削減という観点では7%×4割=2.8%しか貢献していません。
日本の家庭電気料金は「再生可能エネルギー賦課金」が上乗せされて徴収されています。政府によると、賦課金は2021年度には年間2.7兆円に達する。毎年3%のCO2を減らすために3兆円近くかかっています。ということは、1%のCO2を減らすのに1兆円かけている計算になる。
有本 そんな割に合わない話……。
杉山 菅政権はCO2削減目標を20%上乗せしましたが、1%に1兆円という先ほどの計算で考えると20兆円かかるわけです。この数字は、実は消費税収の額とほぼ同じ。要するに、「46%」目標は、2030年までに消費税率を20%まで引き上げると言っているに等しいのです。
有本 国民の負担が大きすぎます。
杉山 これほど重要な問題を政府内で軽々に決めてしまったのです。割高な太陽光発電などを買い取るための賦課金の金額は年々増え続け、ついに世帯あたりで今年年間1万円を超える見通しです。しかもこれは氷山の一角で、産業界では5万円も負担している。これも結局は物価上昇などの形で家計が負担していますから、すでに世帯あたりの賦課金は合計で年間6万円にもなっています。
電気料金はふつう世帯あたり毎月1万円、つまり年間12万円ですから、じつは電気料金は賦課金のせいで事実上5割増しになっているわけです。46%まで引き上げるために20兆円と申しましたが、これを産業界に負担をさせられないからと、家庭の電気代に上乗せするとしたら、今の料金から5倍に跳ね上がる。そうなると年間60万円も電気代で消えてしまいます。
有本 小泉環境大臣は「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきだ」と発言しましたけど、国民からしたら残酷物語。セクシーとは遠くかけ離れています(笑)。
杉山 今後、太陽光発電は安くなるという意見がありますが、それはジェノサイドにお構いなしに中国製品を輸入し、乱開発をするという恥ずべき理由によるものです。太陽の照るときしか発電しないので火力発電のバックアップが必要だという根本的な問題も解決していません。
有本 いまや「脱炭素」が人類を救うキーワードのようになっていますけど、炭素をなくすことが、人類にとっていいことなのかに対して、長らく疑問がありますが。
杉山 よくありません。我々は骨だけになってしまう(笑)。むしろ、今は地球の歴史から見るとCO2は欠乏状態にあります。恐竜がいたころは大気中のCO2は今の3~4倍もあった。その後大気中のCO2を植物が吸い取り、地中で石炭や石油などをつくってきた。ところが、あまりにCO2が減って、今度は植物が枯れてしまった。ぎりぎりまでCO2が減ったのは氷河期時代ですが、これが少し増えてきたのが、ここ数千年の話。
有本 脱炭素やCO2削減が、新しい利権を生む温床になっているのですね。日本政府は世界の思惑に振り回され、主体性なく対応しているだけ。審議会や有識者会議とやらで意見を聴取していますけど、あまり意味はないような。ああいう場に私も参加したことがありますが、ほとんどの場合が結論ありきでした。
杉山 私も経産省と環境省合同の審議会に参加したことがあります。「災害が激甚化したのであれば、それを示す統計データを見せてください」と伝えたのですが、事務局は頑として出さない。半年間に七つの会合で続けて言って、全てスルーされました。
有本 へえ、委員が求めるデータも見せない事務局なんて、職務怠慢じゃないですか。信じられません。
杉山 よほど都合が悪いのでしょう。気象庁にしっかりとデータがあるのに出さない。
有本 メディアも似た面があります。データを一部しか出さずに「怖い怖い」と煽る。結論ありき。熱海の災害でも、すぐ近くに太陽光発電の設備があったにもかかわらず、当初は不思議とその事実を報じるテレビ局はほとんどありませんでした。太陽光発電に少しでも類が及ぶことを避けたかった。そのために隠したかったようにも取れます。
杉山 政府やマスコミが太陽光発電の問題点について腰が重かったのは、本当のことを言ったところで選挙に影響を及ぼさないし、視聴率も取れないため。ですが、今回の熱海の災害では、多くの人が、盛り土があり、そのまわりに大規模な太陽光発電がつくられていることをインターネットなどの映像で目の当たりにした。災害が大規模化した因果関係はこれからの調査によりますが、環境の乱開発やウイグル人の強制労働にかかわっている太陽光発電が本当に必要なのか、それを問い直すいい機会でもある。今回の機を決して逃してはなりません。