菅義偉政権は、2030年度に二酸化炭素(CO2)を13年度比46%削減、50年にはCO2の排出実質ゼロ(カーボンニュートラル=炭素中立)という目標を掲げている。いずれも審議会などで議論することなく、官邸によりトップダウンで決定された。残念なのは、これがもたらす莫大(ばくだい)なコストへの思慮がなかったことだ。
政府は「環境と経済の好循環」により「グリーン成長」を達成して目標を達成するとしている。だが脱炭素はそんなきれいごとでは済まない。今の経済は石油、天然ガス、石炭などの化石燃料の利用によって成り立っている。脱炭素とはそれらを禁止することであり、経済への悪影響は極めて大きくなりかねない。果たしてCO2削減にいくらかかるのか。
「固定価格買い取り制度」(FIT)による再生可能エネルギー導入で今、国民は電気料金への賦課金として年間2.4兆円を負担している。これによるCO2の削減は、電力部門の8%で、日本のCO2排出の2.4%程度である。つまり、概算すると1兆円の負担でようやく1%の削減ができるわけだ。CO2削減の数値目標は、これまでは13年度比26%削減だったので、46%削減は追加で20%分を削減しなければならない。
つまり、当初の目標に比べて、年間20兆円が追加でかかる計算になる。太陽光発電などの技術が進歩してコストが下がる、という意見があるが、実際には導入が進むほど立地や送電の制約は増えていく。運転時にCO2を排出しない原発の再稼働や、電力消費の少ないLED(発光ダイオード)の普及など、比較的容易な対策は26%の達成までに使い果たし、46%に向けては相当に無理を重ねることになる。
(続きは週刊エコノミスト2021年7月13号、週刊エコノミストオンライン2021年7月5日版に掲載)