メディア掲載  国際交流  2021.08.02

日本の現役大学生が取り組むメディアを超える日中関係  ~日本の次代を担う若者たちの熱く冷静な中国観~

JBpressに掲載(2021年7月19日付)

1.大学生が自ら取り組む日中交流活動

先日、日中間の学生相互交流活動に取り組んでいる日本の大学生の議論に参加する機会に恵まれた。

その時の議論のテーマは、「メディア報道では中国に関して正しい事実が報じられることが少ない現状において、日本と中国の相互理解を深めるために、現在大学生である自分ができること、また、将来の目標としてやってみたいことは何か?」だった。

参加した大学生は十数人。複数のグループに分かれて、少人数でこのテーマについて議論し、各グループの代表がその議論の中身を発表し合うという形で進められた。

参加した大学生は親中派というわけではないが、日中関係のあるべき姿について真剣に考え、自分なりに実行すべきことを考える姿勢を共有している。

そうした冷静な視点と積極的な問題意識や志が思考の土台となっているため、一つひとつの意見がよく考えられており、どれも傾聴に値する内容だった。

以下では筆者が注目した発言内容を紹介したい。



2
.ネガティブな中国観が形成される原因

1のテーマは、一般的な日本人の中国観はネガティブな傾向が強いが、そうした中国観が形成される原因とそれに対する対応策についてだった。学生たちの意見の主なポイントは以下のとおりである。

  • 日本のニュース等で報じられている中国関連の情報は交通事故や民事事件のようないわゆる「衝撃映像」が中心であるため、それが中国の印象を悪くしていると感じる。
  • 日本での一般的な中国イメージは、「汚い」「反日感情が強い」「中国は怖い国」といったところだと思う。

これは中国のことをよく知らない人たちのイメージである。

若い世代の間ではアイドル、化粧品など日常的な文化交流を通じて日中間の相互理解がある程度進んでいる。こうした身近な生活文化の共有を通じて中国理解を深めていく方法がある。

  • 小学校から中学校時代の数年間、上海に住んだことがあった。上海に住む前までは日本の報道などを見て中国に対する悪い印象を持っていた。

しかし、実際に上海に住んでみると上海の人たちは優しかった。当時、街中では一部の中国人が反日運動を行っていたが、私の周辺の中国人は不安な気持ちになっていた私を優しく励ましてくれた。

実際に中国に住んでみてそうした経験を通じて中国に対する印象が変わった。

しかし、そうした中国人の優しく温かい姿勢などプラス面の事実が日本ではほとんど伝えられておらず、今も中国を誤解している人たちが多い。

自分は自分の立場でできることを通じて情報発信して中国に対する偏見を解消するよう努力したい。

  • 自分は中国に行ったことがないので、日本の報道しか情報源がなく、正直言って今も中国に対して良いイメージがない。

それでも日本にとって中国との関係は重要だと認識している。

だからこそ自分の眼で見て耳で聞いて本当のことを確かめてみたいと考え、日中学生交流の団体で活動することにした。

  • 中国のことを理解するには、中国現地に行って直接中国人と接触するのがベストであるが、今はコロナの影響でそれが難しい。

セカンドベストの方法として大学生自身がSNSを通じて中国の文化面の情報を発信するアカウントを作って情報共有を促進するのが一つのアイデアだと思う。

  • SNSは日中で使用アプリのベースが異なるため、共有できる情報が異なっており、それが認識ギャップを生む原因となっている。これを乗り越える努力が必要である。



3
.メディアがネガティブ面を強調する理由

2のテーマは、日本のメディアが中国に関してネガティブな報道ばかり伝えるのはなぜかという点についてだった。ここでも学生の意見を紹介する。

  • 中国についてネガティブな面を強調する報道が多いのは、その方が視聴率が高まるからだと聞いた。

それは、視聴者の一般的傾向として中国のネガティブな報道を面白がる人が多いことが影響している。

  • 日本人は中国に負けたくないと考える人が多い。

このため、中国のネガティブな面を伝える報道を見ると、日本の方が住みやすい、平和だ、良い社会だと感じることができるので、そのような報道が好まれる。

こうした感情は中国に対してだけではなく、韓国に対しても同じであると思う。

  • 以前アイゼンハワー政権で国務長官を務めたジョン・フォスター・ダレス氏が、「日本は欧米人に対して、日本人を白人のエリートとして扱ってほしいと願っている。その一方、アジアの中で最も優れた民族であると扱われたいという願望を抱いている」という趣旨のことを語った。

その精神構造が今も変わってないということではないか。



4
.日中相互理解のために大学生ができること

3のテーマは、以上の論点を踏まえて、大学生として何ができるのか、何をすべきかという点についてだった。これに関する意見は以下のとおり。

  • 感情と理性は分けて考えるべきである。最近は人権問題等を巡り中国政府関係者等の発言に対して反発を感じて中国を批判する日本人が多い。

その時に中国政府の見解と中国人個人の考え方は一致しているわけではないという視点を忘れないことが大切である。

外から見ると国は一つのように見えがちだが、実際にはいろんな人たちが多様な見方をしているという事実を理解したうえで日中間の問題と向き合うべきである。

  • 日本と中国の学生同士が11で交流することが相互理解の上で重要である。

学生の立場であれば、最初はお互いのことが十分理解できていないために多少誤解があっても、フランクな対話を通じてお互いの考え方を許容できるようになることも多い。そういう学生ならではの立場も活用したいと思う。

  • 大学生としてできることとして、中国に関する知識を増やすことと同時に中国語を学ぶことがある。

言語の習得は相手の国のことを理解しようとする姿勢の現われである。相互理解を促進するには互いに相手の国のことを理解して話す姿勢が大切である。



5
.次代を担う人材への期待

以上が当日の議論の中で筆者の心に深く残った論点である。これらを踏まえて筆者が考えたことは以下のとおりである。

1に、この議論に参加した学生たちの当事者意識の高さに心を打たれた。学生各人の中国とのかかわりは、中国在住経験者から中国人との直接交流経験のない者まで様々である。

しかし、それぞれの立場において、最近日中両国間で起きていることについて疑問を抱き、その問題の背景を理解する努力を重ね、一人ひとりが自ら行動して問題点の改善に貢献しようとしている。

この真摯な当事者意識と責任感を共有していることが全員の共通点である。

自分自身の周辺で起きていることに対して、見て見ぬふりをするのではなく、自分自身の問題としてとらえ、私心を抱くことなくその問題解決に積極的に取り組む姿勢は、あらゆる社会貢献活動の原点である。

これは中国古典の「大学」でも、「格物」という表現で示されており、組織や社会のために貢献するリーダーの心構えの根本がそこにあると説いている。

しかし、残念ながら、実社会においてそれを実践できている人は少ない。

今回、リーダーが備えるべき当事者意識をしっかりと心の軸としている学生と出会い、こういう人物に日本の将来を託したいと感じたというのが率直な感想である。

2に、日中学生交流活動に参加する大学生は中国に対する関心が高く、中国語の能力も磨きながら、直接中国の大学生らと交流し、中国に関する情報を収集することができる。

このため、一般にメディアやネット上にあふれるネガティブなバイアスのかかった中国関連情報に惑わされずに、客観的・中立的な視点から事実に基づいて中国を理解している。

特に彼らの世代は日本でも中国でも幼少時からSNSに慣れ親しんでおり、国境を超えるコミュニケーションに抵抗なく入っていく。

その彼らが日中間で共同の情報共有プラットフォームを形成し、日常的にコンタクトを持つようになれば、その情報発信力はさらに高まることが期待できる。そうしたアイデアをぜひ実現してほしい。

3に、中国に関するメディア報道がネガティブな面を強調している問題点については、メディアのビジネスとして収益確保を無視できない以上、その姿勢を抜本的に修正させることは難しい。

そこで、受け手の側がその問題点を理解したうえでメディア情報を活用するという解決策が現実的である。

大学生の立場からでも、SNSなどを通じて長期継続的にその問題に関する注意喚起を行えば、日本のネガティブな中国観がある程度修正される可能性はある。

特に学生同士での議論において、同世代の学生による情報発信の努力が実を結ぶことは十分期待できると考えられる。

重要なことは短期的には成果が得られなくてもあきらめずに工夫を重ねて継続することである。

日中間の学生交流活動に取り組む学生の方々の今後の活躍を期待して、心からエールを送りたい。