〇 バイデン政権の目標はコロナの終息と経済の回復という2つの重要課題において早期に一定の成果を上げ、22年秋の中間選挙で勝利することである。内政面では、国内の政治・経済・社会の様々な分裂状況を改善するとともに、対外的には米国の信頼を回復し、再び世界秩序形成のリーダーの役割を果たすことを目指している。
〇 バイデン政権は当面、重要法案成立のための議会対策として外交政策より国内政策を重視せざるを得ない状況。深刻な国家の分裂を食い止めるため、外交面でも中間層の利益を重視する「中間層のための外交政策」という方針を掲げている。
〇 中間選挙を左右するラストベルト地域の選挙民が自由貿易に強く反対しているため、当面自由貿易体制を推進することは極めて難しい状況が続く見通し。
〇 対中政策は選挙での争点としての順位はあまり高くないが、議会は与野党とも反中感情を抱く議員が大多数を占めるため対中強硬姿勢の修正を打ち出すことは難しい。 こうした事情から前トランプ政権の対中強硬姿勢を概ね継承する形となっている。
〇 新疆ウイグル自治区、香港の人権問題に関しては欧州、豪州とともに、対中制裁を実施。台湾問題に関しては、日米首脳会談後の日米共同声明やG7の共同コミュニケでも言及するなど、中国包囲網の強化とともに中国に対する圧力を強めている。
〇 バイデン政権の外交政策に対して、米国の専門家は、対中抑止と対中融和のバランス確保、あるいは長期的なグローバル戦略の視点をもつことの重要性を指摘する。
〇 米国議会は感情的な対中強硬論に基づき台湾を中国挑発の道具とし、国務省は台湾の政府関係者と同省のオフィスで面会して「一つの中国」原則を無視するなど、台湾問題のリスクを理解しない米国側の対応を米国の中国専門家は厳しく批判している。
〇 現在の台湾に関する米国の対中政策のリスクの大きさを米国政府に対して認識させ、一定の歯止めをかけさせることができる国は日本しかないと中国専門家が指摘。その背景は、現在の米国の対中政策は日本の協力がなければ、中国に対抗することが難しくなっているため、日本のレバレッジは以前に比べて非常に強いと説明。
〇 欧州の国際政治の専門家は、バイデン政権が欧州に対して政策協調重視姿勢を示すとともに多国間主義を重視していることは評価できるが、具体策はまだ不透明と指摘。
〇 欧州諸国は中国との経済関係を引き続き重視し、米国のデカップリング政策には反対している。バイデン政権が経済面で対中強硬路線を変更しなければ、同調は難しい。
〇 米国は中国の経済規模が米国を上回るのを強く懸念するが、EU諸国は気にしない。
国内政治に縛られたバイデン政権の対中強硬外交 ~台湾問題のリスク抑制のために日本の役割を期待する声も~<2021年5月26日~6月14日 米国欧州オンライン定期面談報告>