日本政府はCO2を2030年までに46%減、2050年までにゼロにするとしている。そして「経済と環境を両立」させて「グリーン成長」によってこれを達成するとしていて、「イノベーションを推進」している。
けれども、カーボンニュートラルというのは、本当に実施しようとすれば、そんなきれいごとでは到底済まない。
県によって温度差 地域経済が崩壊するのはどこ?
カーボンニュートラルを目指すというとき、特に脆弱なのはどの県か。指標を見てみよう。
(出典:総合地球環境学研究所)
リンク:https://local-sdgs.info/fukusu_content/731-941/
図は、縦軸が県民総生産当たりのCO2排出量、横軸が県民総生産当たりのエネルギー消費量である。県民総生産とは、県の経済規模を表す指標である。
まず第一に分かることは、ほぼ一直線上にデータが並んでいること。すなわち、CO2排出量とは、エネルギー消費量とほぼ同義であることを意味している。
つまりCO2を減らすとなると、エネルギー消費を減らさねばならない。既存の工場ではその技術的手段は限られるから、大幅にCO2を減らしたければ、最後は生産活動を止めるしかない。
そして第二に分かることは、県によって、大きな違いがあることだ。
縦軸の「県民総生産あたりのCO2排出量」は、カーボンニュートラルに対する脆弱性の指標である。図を読むと以下のようになっている(単位はtCO2/百万円)
1位 大分 6.7
2位 岡山 6.0
3位 山口 6.0
・・・
最下位 東京 0.7
トップの大分では6.7であるのに対して、最下位の東京は0.7なので、10倍も開きがある。
大分で「県民総生産あたりのCO2排出量」が大きい理由は、製造業が発展しており、それに頼った経済になっているからだ。CO2を急激に減らすとなると、大分、岡山、山口では、工場は閉鎖され、経済は大きな打撃を受けることになるだろう。
4位以下もリストにしておこう。
4位 和歌山
5位 広島
6位 愛媛
7位 千葉
8位 茨城
・・・
以上の県の人々は、これから自らの経済がどうなってしまうのか、よく考えるべきだ。そして、菅政権の下で進む無謀なカーボンニュートラル政策に対して、自治体、政治家、企業、労働者、一般市民が一体となって、異議を唱えるべきだ。
議論進む炭素税 寒冷地・農村部の負担重く
炭素税の導入の是非が政府審議会で議論されている。この夏には中間報告が出る予定だ。
もしも導入されるとなると、産業部門は国際競争にさらされているから、家庭部門の負担が大きくならざるを得ないだろう。実際に欧州諸国ではそのようになっている。
ではどの地域の負担が大きくなるだろうか。これも、炭素税に対する家計の脆弱性の指標を見てみよう。
(出典:国立環境研究所)
リンク:https://www.nies.go.jp/kanko/news/39/39-1/39-1-03.html
市町村単位での世帯当たりCO2排出量の推計値(図)を見ると、以下の特徴が分かる
この結果、東京・大阪などの都市部に比べて、北海道・東北などの農村部では、世帯あたりのCO2排出量が倍になっている。
図中赤く塗られているところが世帯あたり5t以上のCO2を出しているところだ。5tのCO2を出している世帯は、仮に1tCO2あたり1万円の炭素税になるとして、負担は年間5万円になる。
炭素税が導入されるとなると、過疎化や高齢化が進む北海道や東北などの地域にとって、特に重い負担になりそうだ。寒冷地の方は要注意である。
英国にはエネルギー貧困ないしは燃料貧困という言葉がある(energy poverty, fuel poverty)。多くの貧しい人々が、光熱費が高いので、暖房をつけず、部屋の中でマフラーや帽子をして、布団に入って暮らしているのだ。映画「チャーリーとチョコレート工場」の主人公チャーリーの家がそうだ。
日本でもこんな生活が待っているのだろうか?