コラム  外交・安全保障  2021.06.02

【コラムシリーズ「海外有識者はインド太平洋をどう見ているのか」】:インド、日本、フランスという3カ国の強み

安全保障 欧州
ジャガナート・パンダ博士

このたび外交・安全保障グループでは「対外発信と国際ネットワーキング」の一環として、当研究所と関係の深い海外有識者が執筆するコラムを掲載することになりました。

初回は当研究所のInternational Research Fellowで、フランスの有力シンクタンクIFRI(Institut Français des Relations Internationales)Celine Pajonさんに、フランスのインド太平洋地域への関与に関するコラムを寄稿していただきました。

インド太平洋地域におけるフランスの動きに注目が集まっています。今月5日にはインド・ベンガル湾沖で仏海軍主催の5カ国(日仏米豪印)共同訓練が実施され、海上自衛隊の護衛艦が参加。来月中旬には宮崎県の霧島演習場などで陸自・米海兵隊・仏陸軍による初の3カ国共同訓練が実施される予定です。こうしたフランスの積極姿勢の背景について書かれた興味深い論考となっています。

また同様に、インド国防省傘下のシンクタンクであるIDSAManohar Parrikar Institute for Defence Studies and Analyses)に所属するJagannath Pandaさんに、インドの視点から見たフランスのインド太平洋地域への関与について分析した論考を寄稿していただきました。Pandaさんは201812月から191月まで客員研究員として当研究所での在外研究経験があり、当時から継続してインド太平洋地域の国際関係について研究しています。

PajonさんもPandaさんもそれぞれ海外の学術誌や論壇で積極的に発言しています。こうした議論は英語で行われており、日本ではなかなか目にすることはできません。米中対立が深まる中、関係国は他国との連携を模索しつつも、自国の国益追求を目指す基本戦略を前提にインド太平洋地域への関与を図っています。今後もこのような形で海外有識者の視点を紹介することで、我が国の外交・安全保障政策を考える上での材料となれば幸いです。


2021年1月、インド、日本、フランスという地域中堅国3カ国がオンライン上で開催された「インド太平洋に関するワークショップ」に参加し、3カ国間の協力の機会について協議した。国際的地政学において焦点となってきたインド太平洋における外交は、「志を同じくする」国家のミニラテラルな集団によって形成されている。日米印、豪日印、印仏豪などの3カ国の集団に加えて、印日豪米といった4カ国から構成される集団は、インド太平洋地域の平和、安定、安全を形作る重要な要因となってきた。民主主義、法の支配、多国間で構成される自由主義の秩序という共通の価値観を推進する中堅国として、インド、日本、フランスはインド太平洋の未来を形成する3カ国関係を成している。

欧州における伝統的大国であるフランスは、 「環インド洋地域協力連合」に参加しており、インド太平洋での有効なアクターである。93%の排他的経済水域をインド洋および太平洋に持ち、インド太平洋地域に160万人の仏国民が存在することから、この地域はフランスにとって「安定した多極的秩序を目指すビジョンの中心地」なのである。フランスがインド太平洋において永続的に軍を駐留させていることは、重要な点である。インド太平洋において中国の好戦性が強まっていることは、フランスにとって直接的な脅威である。フランス政府はインド太平洋においてさらに強力な存在となることを目指しているため、地域的アクターであるインドと日本(およびオーストラリア)とのパートナーシップの強化は極めて重要となっている。

長年、日本とインドはフランスにとって、アジアにおける主要なパートナーの2カ国であった。1998年以来、インド政府とフランス政府は「戦略的パートナーシップ」を締結している。「戦略的パートナーシップ」の特徴は、防衛と安全保障、民間核施設と空間領域といった印仏の協力において 主要な柱として認識される分野での広範囲な協力である。同時に両国は、エネルギー、気候変動(例えば、共同で発足した国際太陽光同盟のイニシアティブを通じて)、テロ対策といった部門でも協力してきた。しかし、これらの分野は主として、印仏間の防衛協力に対する付属的な存在であった。

パンデミック発生後の地政学的環境は、日本、インド、フランスに対し、インド太平洋へのさらなる関与を助長し、3カ国がより強固な繋がりを築くための新たな機会を提供してきた。衛生、インフラ、テクノロジーといった分野でのより緊密な協力やCOVID-19への対応は、日本とフランスの間でも論点とされてきた点である。同様に「自由で開かれたインド太平洋」への尽力が戦略的収束点として立ち現れてきたことは、菅義偉総理大臣とフランスのエマニュエル・マクロン大統領によるリーダーシップにおける見解でも分かることだ。2018年は、日仏友好160周年にあたるが、両国は安全保障、革新、文化の助長に焦点を当てた「特別なパートナーシップ」で結ばれている。

インド、日本、フランスは沿海の民主主義国家であり、UNCLOSと国際法に基づく秩序を順守し、共通の理想である法の支配、民主主義を助長している。国連安全保障理事会(UNSC)への インド日本の常任理事国としての加盟のフランスからの支持や、G7、G20といった多国間領域における協力により、絆はさらに強固になった。 さらに、インド、オーストラリアは海事経済のさらなる繁栄を一層重要視している「環インド洋地域協力連合」(IORA)の 加盟国-仏米日は対話パートナー国-である。フランス領の存在により、フランスは世界で2番目に広大な排他的経済水域を持っている。それゆえにブルーエコノミーの意義はフランス政府にとって極めて重要である(インドおよび日本にとっても同じく重要である)。

第三国協力は、日印仏3カ国間にとって、最も持続可能な最大の分野の一つとなると期待される。インド洋委員会(IOC)にインド政府がオブザーバーとして参加したことにより相乗効果の余地が大きくなる。アフリカにおける中国の存在感が着実に増していることを考慮すれば、3カ国にとって、アフリカとの連携はますます不可欠となる。そのため、IOCは、アフリカの国々でフランスが自身の位置を固めるためのプラットフォームを提供する。マクロン大統領は、アフリカにおけるフランスの元植民地とフランスとの間の困難な繋がりをリセットしようと試みている。例えば、2017年にはマクロン大統領は「フランサフリック」(フランスの元植民地に経済的、政治的、軍事的圧力を働かせるフランス政府の戦略)の終わりを宣言した。アフリカ大陸が依然として、フランスの石油と一次産品の輸入にとって重要であることが主な理由である。これは同様に、印日共同のインド太平洋での連携分野における重要な活動としての「アジア・アフリカにおける日印ビジネス協力のためのプラットフォーム(Platform for Japan-India Business Cooperation in Asia-Africa」 を支援する。フランスは既に、ケニアでの20億ユーロの運送契約など、インフラに焦点をおいた大きな契約を発表している。

第三国協力の他に、印日仏の3カ国は、主に海上警備を重視する可能性が高い。インド、日本、 フランスは、インド洋の交易路と、欧州、中東、アジアを繋ぐシーレーン(SLOCs)の安全性を確保することの重要性を認識している。しかし、インド太平洋の海上領域は、中国の拡張政策と好戦的な地域政策により、紛争が増加している。ごく最近の例には、外国船および外国の建造物に対抗する域外での権限を付与する新たな法律の下で、中国の沿岸警備隊が軍隊組織としての権限を持ったことがある。同時に中国は、東シナ海および南シナ海における侵入を増加し紛争を発生させ、インド洋における軍事力を増大させている。この地域における中国の戦力投射が増大する中で、志を同じくする国家が地域の安定を目指し協力することの重要性は高まってきた。

海上領域は、沿岸警備協力に加え定期的な2国間訓練である日印共同訓練(JIMEX)や、多国間の訓練(マラバール)を通じ、既に印日パートナーシップの重要な側面となっている。また、日本はインドと共に物品役務相互提供協定(ACSA)に署名し、フランスと類似の条約に従っている。インドとフランスは1983年以来共同で、環インド洋での海軍の軍事演習を実施しており、その呼称は2001年に「ヴァルナ」と改名された。実際には、フランスは長年、環インド洋での戦略的利益を保持し、「国際的なアウトリーチを持つ中堅国」になるとの野心を抱いていた。これは、3カ国にとって3方向の防衛協力を深める基礎固めとなった。さらに、3カ国は、フランス主導の合同軍事訓練「ラ・ペルーズ」(2021年4月5日-7日)にアメリカとオーストラリアと共に参加した。これは、やや、Quad(クアッド)にフランスが加わった形の軍事訓練となった。ラ・ペルーズはフランスとQuad間のより優れた相互運用構築をさらに拡大させ、印日仏という3カ国間協力の追加的側面を表している。

印日仏の3カ国間の責務は、中国への経済的依存を減らし、代替のグローバルサプライチェーン形成における3カ国の協力への可能性にある。フランス(および欧州全体)は、パンデミック勃発後の時代におけるリスクの多角化を目指しサプライチェーンを調整しているが、インドと日本がオーストラリアと共に率いる、新たなサプライチェーン・レジリエンス・イニシアチブ(SCRI)内で印日仏の協力の余地は大いにある。フランス政府は長らく、中国との経済協定において相互主義が無いことに失望していた。実際に、フランスは団結したEUに対し、中国政府の国際的野望と攻撃的戦術に立ち向かうよう呼びかけ、フランスは習近平国家主席の説得にもかかわらず、一帯一路(BRI)への参加を拒否した。

重要な点は、国内において持続可能な成長と社会的統合を目指すデジタル技術が注目される一方で、G20の3カ国として、印日仏は技術およびデジタル経済の国際的規範、基準の設定において貢献できるということだ。これは、新たな技術における協力まで拡大し得る。ここで、3カ国はインド太平洋沿岸の小国を導くことができる。また、3カ国は、発展途上国や低開発国における重要なデジタルインフラ構築や、革新的な先進技術プロジェクト発足の際の援助国として行動できる。特に、アメリカと中国の技術競争が熾烈になる一方で、印日仏の3カ国は、国際的なデジタル統治の未来を形成する中堅国として結集できる。しかし、非常に重要なことは、その実現のためにインド政府は、フランスと日本との共通の土台を見つけるためのプライバシーといった問題に対する姿勢を再評価する必要がある点だ。日本とフランスは既に、ブダペストにて採択したサイバー犯罪に関する条約の一部として多くの側面における強固な連携をしている。

地理的に異なった位置に存在するにも関わらず、インド、フランス、日本は、インド太平洋において複数の共通利益を共有している。これは、特に海上警備と連携における協力の必要性を際立たせる。印日、日仏、印仏の2か国間の相乗効果が成長するにつれ、3カ国が必要とするもの、および3カ国の利益にとってより有効な3カ国間のフレームワークへと、対話と協力を拡大させていくことは、さらに重要である。印日仏の3カ国の関係は、欧州とアジアの間のより強固な大陸間の繋がりを切り開く。それゆえに、大国の競争の中で地域を防衛し中堅国としての位置を強化することへの付加価値となる。