レポート  エネルギー・環境  2021.06.02

地球温暖化対策計画および長期戦略について- 経産省・環境省合同会合(第7回)におけるキヤノングローバル戦略研究所 杉山研究主幹委員意見

日本の地球温暖化対策の見直すために設立された経済産業省・環境省の審議会の合同会合(第7回)が5月19日にウェブ開催されました。委員であるキヤノングローバル戦略研究所 杉山研究主幹は書面および口頭で意見を述べました。

エネルギー・環境

1. ワーキンググループの概要および資料:


中央環境審議会地球環境部会 中長期の気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会産業技術環境分科会 地球環境小委員会地球温暖化対策検討ワーキンググループ合同会合(第7回)
令和3年5月14日


2
.杉山研究主幹口頭意見

1 資料3 地球温暖化対策計画の構成について

P1 科学的知見について

  • 日本国民が取り組む計画なので、まずは地球温暖化に関連する日本での災害等の統計を
    きちんとまとめるべき。台風は、激甚化も頻発化もしていない。豪雨、猛暑への地球温暖化
    の影響はあったとしても僅かである。国民に統計を正確に知らせるところから政策はスタ
    ートしなければならず、隠蔽してはならない。IPCC の紹介だけでは不足である。

P3 PDCA、P7 カーボンプライシング、P8 政府および自治体の取り組み、P10 進捗管
理について

  • PDCA の対象に含める内容としては、以下を含めるべき
    1)科学的知見の更新。特に台風、豪雨、猛暑などに関する統計データは毎年更新し、地球
    温暖化対策計画において毎年確認すべきである。
    2)政策の費用対効果。具体的な手段としては政策のカーボンプライシングを地球温暖化対
    策計画において制度化するべきである(添付1)。
    3)政策の費用対便益。日本人の視点からまとめておくべき。便益の一部は気温や降水量減
    少は TCRE 係数やクラウジウスクラペイロン関係を用いて概算できる。すると日本が 2050
    年に CO2 ゼロを達成した場合の気温低下は 0.0065℃程度。500mm の豪雨の降水量減少は
    0.2mm 以下(添付2)。

P5 地方自治体の役割について

  • 極端な温暖化対策は、地方経済に重い負担になることを明記すべきである。(添付3)
    - 大分県、岡山県、山口県等では、エネルギーを多く使用する製造業が経済の支柱となっ
    ており、これが失われることで地域経済が崩壊するリスクに直面している。
    - 北海道、東北の農村部では、暖房用エネルギーを多く使うため、環境税によって家計の
    負担が大きくなるリスクに直面している。

P9 海外貢献

  • 安価な低 CO2 技術の開発こそが最大の海外貢献であることを筆頭に明記すべき。すでに
    日本が貢献した例として LED 照明、ハイブリッド車、リチウムイオン電池等がある。
  • 新型原子力や CCS などの国際共同技術開発も明記すべき。

2 資料4 長期戦略について

P1 基本的考え方

  • 政府の成長戦略全体の中での整合性が必要なむねを明記すべき。
  • 政府は5月17日の成長戦略会議で「経済安全保障のための投資」を打ち出している。こ
    れはデータセンターや半導体生産の国内回帰などである。だが、温暖化対策が製造業を海
    外に追い出すならばこれは国内回帰の真逆である。
  • なぜ中国にデータセンターが多いか、大きな理由は日本の電気代が高いからである。半導
    体生産が台湾に出て行った理由の1つは電気代が安いことである(参照)。ICT などの今後
    のイノベーションの担い手の多くは電力多消費である(参照)。今後の日本の電気料金は安
    価でなければならない。
  • 成長戦略では「地方創生」も唄っている。だが温暖化対策は地方経済に重くのしかかり、
    地方創生に矛盾する(添付3)。

P9 グリーン成長について、以下の記述がある:

  • 温暖化対策にコストがかかることは厳然たる事実であり目をそらしてはならない。
  • 政府は太陽光発電の導入もグリーン成長戦略の一部だとして実施してきたが、現在、毎
    年3兆円近くの賦課金を国民は負担している。これは経済成長にはマイナスだった。
  • 過去にグリーン成長戦略として実施した政策をレビューして、それが成長に寄与してき
    たかどうかを定量的に確認すべきである。
  • エネルギー経済学の初歩として、温暖化対策はエネルギー投入Eに制約をかけるので、
    GDPは減少する。
    Y=f(K,L,E)
    Y: GDP、 K: 資本、E:エネルギー、f:生産関数
    つまり税や規制によって CO2 を削減することはコスト高要因であり経済成長を阻害するだ
    けで経済成長など望めない。
    グリーン成長が存在するとしたら、
    1) 化石燃料利用よりも安いエネルギー技術を普及させる
    2) 他国に温暖化対策技術を売って儲ける
    の2つの可能性しかない。このために技術開発を進め、輸出を目指すことは意義がある。だ
    がそのためには前提として安定して安価なエネルギーが必要である。

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本稿は個人の見解です。
筆者ホームページ キヤノングローバル戦略研究所

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杉山研究主幹 書面意見