ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2021.05.21

ワーキング・ペーパー(21-003E)A comparison of behavior-restriction and test-and-isolate policies using an epidemiological model

経済理論

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,いまだ感染状況が落ち着かず,多くの国が大きな経済的被害を受けている.各国で採用された都市のロックダウンや日本が採用した自粛要請のような行動制限政策が感染拡大防止の効果があることは明らかだが,一方でその経済的コストも非常に大きい.ワクチン接種がなかなか進まない現状で経済的被害を少しでも抑えるためには,行動制限政策だけではなく,検査隔離政策を行いつつ,経済活動を再開することも重要と考えられる.

本稿では,感染拡大と経済活動を同時に分析するために,感染症の数理モデル(SIR モデル)と経済成長モデル(Solow モデル)を接合したモデルを用いて,行動制限政策と検査隔離政策の効果を分析した.本稿のモデルでは,潜伏期や無症状感染者などの状態も考慮しつつ,検査に伴う費用や入院患者数が増加すると感染による死亡率が上昇する可能性(医療限界)についても考慮している.また,検査強度の上限がある場合や,検査費用が高額な場合,再感染の可能性がある場合,潜伏期であっても他者を感染させる可能性がある場合など,様々な場合についての検討も行った.

本稿の主要な結果は以下である.第一に,接触8割削減 30 日間,接触7割削減 60 日間,接触6割削減 360 日間の3種類の行動制限政策と政策期間によって感染状況がどのように変わるか比較した.いずれの場合も政策導入により,すみやかに感染拡大を抑えられるが,政策終了後一定の時間が空くと感染拡大は再開してしまう.感染開始 1000 日後まででみた総死亡者数を大きく減らすためには,1年間などかなり長期にわたる行動制限を続けなければならず,その間の経済損失は非常に大きいことがわかった.第二に,行動制限を短縮し,検査隔離政策を導入することで感染拡大を抑えつつ,経済損失も抑えられることを示した.とくに,感染に伴う総死者数に上限を与えたうえでの検査費用を除いた経済ロスを最小化するための最適政策を導出したところ,ベースラインの分析では,行動制限は接触 8 割削減(外出を約 55 %削減することに相当)を 60 日程度継続し,検査隔離は検査強度を最大にして 1 年間継続することが望ましいことがわかった.



※本論文は、下記ワーキングペーパーをベースに、新たな分析結果を加えて、英語論文化したものです。

ワーキング・ペーパー(20-005J)感染症拡大モデルにおける行動制限政策と検査隔離政策の比較

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ワーキング・ペーパー(21-003E)A comparison of behavior-restriction and test-and-isolate policies using an epidemiological model