2019 年末に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はグローバルな人の移動を背景に全世界にその感染が拡大した。感染拡大防止のために各国で都市のロックダウンが行われ、日本でも接触8割削減を目標とした政策が採られた。ロックダウンや接触 8 割削減のような行動制限政策は、感染拡大防止の効果があることは明らかだが、一方でその経済的コストも非常に大きい。
本稿では、感染症の数理モデル(SIR モデル)と経済成長モデル(Solow モデル)を接合したモデルを用いて、行動制限政策と検査隔離政策が感染状況やマクロ経済にどのような影響を与えるかを分析した。本稿で用いるモデルでは、経済成長理論として標準的な Solow モデルを接続し、感染拡大だけでなく、経済活動も同時に記述できるようになっている。また、単純な SIR モデルを拡張して、潜伏期や無症状感染者なども考慮できるものになっている。加えて、検査に伴う費用、入院患者数が増加すると感染による死亡率が上昇する可能性(医療限界)についても、モデルの中で考慮している。
本稿の主要な結果は以下である。第一に、接触8割削減 30 日間、接触7割削減 60 日間、接触6割削減 360 日間の3種類の行動制限政策と政策期間によって感染状況がどのように変わるか比較した。いずれの場合も政策導入により、すみやかに感染拡大を抑えられるが、政策終了後一定の時間が空くと感染拡大は再開してしまう。感染開始 1000 日後まででみた総死亡者数を大きく減らすためには、1年間などかなり長期にわたる行動制限を続けなければならず、その間の経済損失は非常に大きいことがわかった。第二に、行動制限を短縮し、検査隔離を政策を導入することで感染拡大を抑えつつ、経済損失も抑えられることを示した。とくに、感染に伴う総死者数に上限を与えたうえでの検査費用を除いた経済ロスを最小化するための最適政策を導出したところ、ベースラインの分析では、行動制限は接触 8 割削減(外出を約 55 %削減することに相当)を 60 日程度継続し、検査隔離は検査強度を最大にして 1 年間継続することが望ましいことがわかった。
※2021年5月11日改定