自然災害は経済に大きなマイナスの影響を与えることがあり、その場合、特に平常時から金融制約に直面している中小企業への影響は深刻となる。この論文は1923年の関東大震災時における横浜市のデータを用い、震災が中小規模の企業、およびそれらと取引関係がある地方銀行にどのような影響を与えたか、そして日本銀行が「震災手形」の再割引を通じて行った資金供給が震災の影響を緩和するうえでどのように機能したかを分析した。分析結果によると、比較的規模の大きい地方銀行と取引関係を持っていた企業は震災を乗り越えて存続し、成長する傾向があった。また、日銀による資金供給は企業の存続確率を高める傾向があったが、こうした政策効果と企業ないしその取引銀行の震災被害の程度との間の関係は認められなかった。このことは、震災手形による資金供給が震災とは無関係に財務状態が不健全な企業の存続に利用されたとする見方と整合的である。