コラム  国際交流  2021.05.13

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第145号(2021年5月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

依然としてコロナ危機が地球全体を覆い尽している中、経済活動に関して地域格差が顕著になっている。

先月6日、国際通貨基金(IMF)が世界経済予測(World Economic Outlook (WEO): Managing Divergent Recoveries)を発表した。成長率の予測値を見た或る海外の友人は、「日本は精彩を欠いている」と彼の感想をメールで送ってきた(p. 4の表参照)。確かにコロナ危機下にある日本は、台湾でのICT活用やイスラエルでの早期ワクチン接種に見られる先進的な対策を打つ事が出来ず、混乱が続いている。筆者は友人に対し、「日本の将来に期待して! 今は厳しいが、日本の若者達が雰囲気を一新すると確信している」と返事した次第だ。

今は何よりも若いアスリートが我々の心に希望の光をともしてくれる。水泳の池江璃花子さんやゴルファーの松山英樹氏の活躍は日本の未来が明るい事を示している。余談だが、マスターズ優勝の直後、米ESPNのテレビ番組を視聴していた筆者は、松山氏がバトラー・キャビンでインタビュアーのジム・ナンツ氏に語った言葉に感動した。彼は「自分の後に多数の日本人が続く道を開いた事が嬉しい」と語った。その言葉を通訳のボブ・ターナー氏が「後続の日本人が“堰を切ったように”流れ出てくる」という意味を込めて、“open the floodgates”という“小粋”で気の利いた表現を使った。流石は「一流のプレーヤーには一流の通訳がついている」と感心した次第だ。

ハイテク技術に関して米英そして香港主催のZoomによる会議で、内外の友人達との意見交換を行った。

エリック・シュミット氏(グーグルの元CEO)は米国ハイテク産業の競争力強化に向けて大活躍だ。小誌前号の冒頭で触れた通り、AIに関する国家安全保障委員会(NSCAI)の最終報告書を3月1日に発表したかと思うと、同氏はHarvard-MIT complexの研究拠点に生命科学のためのAI研究に1億5千万ドルの寄付を行ったと3月末のHarvard Crimson紙が伝えている。そして先月21日には米CBSのTV番組で中国に対抗して半導体投資を米国は真剣に検討すべきと語った(次の2参照)。このように米国側の対中警戒感は厳しいものがある。

先月8日、米国政府はsupercomputerに関し輸出規制のEntity Listに中国7組織—济南、深圳、无锡、郑州に在る4つの国家超级计算中心、そして上海集成电路技术与产业促进中心、信维微电子、天津飞腾信息技术—を加えた。確かに中国のsupercomputer技術は米国にとって脅威に映っている。他方、半導体に関する限り、中国は“自立”するには未だ“道半ば”の状態だ。昨年11月5日、深圳で開催された国際会議で、中国半導体産業協会(CSIA)の設計部門を担当する清華大学の魏少軍教授は、国産化の難しさをほのめかした。即ち習近平主席が昨年9月に語った言葉、即ち「枢要な核心技術は確実に手中にする(关键核心技术必须牢牢掌握在我们自己手中)」事を実現するには程遠いと言えよう。このため中国の政策的対応は、当分の間「異国の花(技術)を摘み取り中国で育てて蜜を作る(异国采花中华酿蜜)」という事になるであろう。

その一方で中国が米国にとって不可欠な資源—人材とレアアース—を握っている事を忘れてはならない。StanfordのAI研究で先導的な人材の中には北京出身の李飛飛氏とロンドン出身の呉恩達氏がいる。即ち優秀な中華系人材を欠けば米国の先端研究は弱体化する。また米国地質調査所(USGS)による資料を見ると、レアアースに関し米国は当分中国と“離れられない”状況である事は明らかだ(p. 4の図参照)。英The Economist誌は、3月28日に鄧小平の言葉「中東には石油、中国にはレアアースがある(中东有石油,中国有稀土)」に触れて、中国依存脱却に苦心する米国の姿を伝えた。この記事を読み、1936~1938年にドイツ軍部が中国との関係を強めた理由に、また1940年に蒋介石が米国に対日圧力を加えるよう要請した背景に、中国からのレアアース供給があった事を思い出している。

こうしたなか中国の山東省政府は、先月7日、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の積極的活用に向けた計画(«落实〈区域全面经济伙伴关系协定〉先期行动计划»)を発表して、日本や韓国との経済協力を求めている。中国市場に魅せられて、経済連携を重視する日本企業だが、上記のように複雑化した国際環境の微妙な動きの見極めを、今後は一層重視する必要に迫られるであろう。

日米中の3国は、相手国の情報に関する誤断を防ぎ、突発的な危機に備えるため、双方向で継続的な対話が様々なレベルで必要である。これに関して新潟大学の張雲准教授が1月に発表した著書(『日中相互不信の構造』 東京大学出版会)を読み、彼と久しぶりに意見交換した。彼は著書の中で、「中国における日本研究、および日本における中国研究の質が試される時がまさに今来ている」と述べた。そして過去の日中間の相互不信にも触れて、蒋夢麟北京大学学長が1931年の訪日時に語った言葉を引用している—「日本に対する中国人の知識と心理は、反日、師日、親日、憎日まで多岐にわたるが、知日は存在しない(中国人对日本人的认识和心理,是“抗日”,“师日”,“亲日”,“仇日”,但就是缺少“知日”)」、と。また米国の外交専門家で、Wall Street Journal紙に常に優れて示唆的な小論を発表するウォルター・ラッセル・ミード教授は、4月19日、日米同盟の重要性を認めつつ、その同盟が持つソフト・パワーの脆弱さを鋭く指摘している(次の2を参照)。

即ち我々は誤断を防ぎ、また危機に臨んでも右顧左眄せず、遅疑逡巡しないよう“知米”かつ“知中”になるべきなのだ。そのために我々は積極的に米中の友人達と質の高い意見交換をしなくてはならない。こうした理由から、4月27日、中国共産党の成立百周年を機に本(From Rebel to Ruler: One Hundred Years of the Chinese Communist Party, Harvard University Press, July)を書き上げた直後のアンソニー・セイチ教授がスーザン・シャーク教授と対話した機会や一帯一路(BRI)に関するディヴィッド・ランプトン教授の評価をZoomで聞いた次第だ。

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