メディア掲載  エネルギー・環境  2021.05.12

温暖化対策の暴走に抵抗せよ

産経新聞 2021年4月29日付「正論」に掲載

エネルギー・環境

米国が主催した気候変動サミットにおいて、菅義偉首相は「2030年にCO2等の温室効果ガスを2013年比で46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」とした。これは既存の目標である26%に20ポイント以上も上乗せするものだ。
 

破滅的な米国気候外交

日本が46%乃至(ないし)50%としたのは米国が50%乃至52%としたのに横並びにしただけだ。1997年に京都議定書に合意した時は米国の7%より1ポイントだけ少ない6%だった。2015年にパリ協定に合意した時は米国と同じ26%だった。何(いず)れも米国は一旦合意したがやがて反故にした。歩調を合わせた日本は梯子を外された。

今回も確実に同じ事になる。

なぜなら、議会のほぼ半分を占める共和党は「気候危機」なる説はフェイクだと知っている。のみならず米国は世界一の産油国・産ガス国であり、民主党議員であっても地元産業のためには造反し、共和党議員とともに温暖化対策に反対票を投じる。環境税や排出量取引などの規制は議会を通ることはない。米国はCO2を大きく減らすことなどできないのだ。

なぜ米国はできもしない目標にこだわったか。それは「地球の気候は危機に瀕し、気温上昇を1.5度に抑えねばならない、それには2030年に半減、2050年にゼロでなければならない」という「気候危機説」に基づく。
 

これは御用学者が唱え、西欧の指導層と米民主党では信奉されている。ただし台風やハリケーンなどの統計を見ると、災害の激甚化などは全く起きておらず、この気候危機説はフェイクにすぎない。にもかかわらず、CNNなどの御用メディアが、不都合な事実を無視し、反論を封殺してきた。

サミットでバイデン政権の最大の目的は、気候危機説を信奉する人々、特に民主党内で存在感を増すサンダース氏らの左派を満足させることだった。中国、インド、ロシアなどは目標の深掘りに応じず、結果としては日米欧が一方的に莫大な経済的負担を負うことになった。
 

尻目に中国は高笑い

サミットで中国の習近平国家主席は自信に満ちた演説をした。「中国は米国がパリ協定に復帰することを歓迎する」として、政権交代の度に方針が変わる米国の信頼性の無さを論(あげつら)った。また正式な交渉の場は国連であり、米国主導のサミットではないこともはっきりさせた。

国連は中国にとって都合の良い場である。G77と呼ばれる数多くの開発途上国とともに、中国は経済開発の権利を守り先進国の責任を問うリーダー格である。

中国はサミットへの参加をテコに有利な取引をした。すなわちサミットに先立つ米中の共同声明で「産業と電力を脱炭素化するための政策、措置、技術」を共に追求する、とした。この文言は、今後の貿易戦争に当たって、中国の利益を害するような米国の制裁を抑制するために利用されるだろう。

中国の現行の計画では今後5年で排出は1割増える。この増分だけで日本の年間排出量12億トンとほぼ同じだ。また日本の石炭火力発電は約5千万キロワットであるが、毎年、中国はこれに匹敵する量を建設している。

今回のサミットで先進国は自滅的に経済を痛めつける約束をした一方、中国は相変わらず全くCO2に束縛されないことになった。

それだけではない。太陽光発電や電気自動車は中国が大きな産業を有し、先進国が創る市場を制覇できる。途上国に対しても、中国はグリーンインフラ整備を名目に一帯一路構想をいっそう推進すると表明した。

先進国が石油消費を減らし、石油産業が大打撃を受ける一方で、中国は産油国からの調達が容易になる。先進国はCO2を理由に途上国の火力発電事業から撤退するが、おかげで中国はこの市場を独占できる。先進国に化石燃料を取り上げられた途上国はこぞって中国を頼るようになる。中国は高笑いだ。

日本はどうすべきか。今後、エネルギー政策を見直すプロセスが始まる。大事なのは具体的な政策だ。安全保障と経済を熟慮し、一つ一つ妥当性を吟味すべきである。
 

費用抑制を制度化せよ

太陽光発電の実態として、1%のCO2削減のために、毎年1兆円の費用が掛かった。26%から46%まで深掘りすると、単純に計算しても追加で毎年20兆円掛かる。まず総額がいくらか、政府は明確にすべきだ。

次いで、費用の高騰を防ぐ制度が必要だ。そこで「政策のカーボンプライシング」を提案する。一定の「炭素価格」として例えば1トン当たり4千円と設定し、政策は全てこの炭素価格を用いて費用対効果を分析し、安全保障なども勘案しつつ、政策実施の可否を決める。これで無駄遣いを阻める。

CO2ゼロなど不可能であり、気候危機はフェイクだという認識は、米共和党を中心に早晩世界に広がる。それまで粘り強く国益を守るしかない。