メディア掲載 エネルギー・環境 2021.04.26
Daily WiLL Online HPに掲載(2021年4月21日)
米国バイデン政権やEUが強力に推進する「温暖化外交」。しかし、余りに独善的と思える西側諸国の要望に対して、インドが猛烈と反発、むしろインドを中国側と連帯させかねない事態となっている。世界の人権や自由を脅かす中国に対して包囲網を敷かねばならない中、このような外交はまさに愚劣と言えるであろう。日本こそ強く西側諸国の姿勢を諫めるべきだ―。
EUと米国の温暖化外交攻勢にインドが強く反発しており、方針を誤ればインドがむしろ中国と連帯しかねない事態であることをご存じだろうか。
温暖化対策に関して、インドは以下の様なことを言われている:
〇 2050年にCO2をゼロにせよ。
※参考記事(英文)
〇 ついてはコロナからの回復はCO2を減らす「グリーン回復」にせよ
〇 ついてはインドへの投融資はCO2の少ないものに限るという条件を付けたい
〇 CO2対策が不十分な国からの製品の輸入についてEUは「国境炭素関税」をかける
インドのもっともな言い分
これに対してインドは猛然と反発している。西側諸国の「要望」に対するインドの言い分はこうだ。
〇 欧米は2050年CO2ゼロなどと言っているが、みんな「絵にかいた餅(Pie in the sky 空に浮いたパイと英語で言う)」ではないか。格好良いことを言っているだけで、本当に実施する計画などどこにもない。
※参考記事(英文)
〇 インドには2050年CO2ゼロなどにする余裕はない。一人当たりでみれば所得も低いしCO2も少ない。これまでさんざんCO2を出して大気中に蓄積してきたのは欧米だ。2050年に世界でCO2をゼロにしたいなら、豊かな国々はCO2排出をマイナスにすべきだ。貧しい国には経済成長のために化石燃料が必要だ。
※参考記事(英文:有料記事)
〇 コロナからの経済回復をCO2削減と結びつけることには断固反対する。ただでさえコロナで経済が深く傷ついているのに、なぜ条件を付けて、回復を困難にするのか。
※参考記事(英文)
〇 どうしてもインドにCO2削減をしろというなら豊かな国がお金を出すべきだ。
いずれの言い分も、あまりにもごもっともだと、筆者は思う。
愚劣な外交は中国の思うつぼ
のみならず、「国境炭素税」の提案に対しては、新興国であるインド、中国、ブラジル、南アフリカ (BASIC)が閣僚会議において共同で声明を出し、「これは温暖化対策を装った保護貿易であり、差別的な貿易障壁であり、パリ協定の下での公平性の原則にも反する」との懸念を表明した。
国境炭素税については、EUは6月にも正式な提案をするとしている。米国のバイデン政権は選挙マニフェストでは同制度の検討を約束したが、さすがにいまはその時ではないと悟ったらしく、気候特使ジョン・ケリーは最近 、EUは「最後の手段」としてのみ炭素国境税を実施すべきであり、COP26気候交渉の前に実施すべきではない、と述べている(参考記事:英文・有料)。
国境炭素税が導入される場合、インドからの鉄鋼の輸出などがその標的になる可能性があるとされている(参考記事:英文)。なお国境炭素税についてさらに詳しくは東京大学有馬先生と筆者による解説動画をご覧いただきたい。
先に述べた通り、いまだ貧しい開発途上国であるインドにCO2削減で圧力をかけるというのは道徳的に無理筋である。
しかもいま、欧米と日本は人権などの普遍的価値を守るために、対中包囲網を作り上げなければならないときだ。それなのに、CO2削減を強いたり制裁的な措置を採ったりすることで、世界最大の民主主義国であるインドを弱体化させるのみならず、逆に中国と連帯させてしまうというのは、じつに愚かなことではないか。
以上の話はインドだけではなく、世界中の開発途上国にも当てはまる。
EUと米国の独善的な温暖化外交は、対中包囲網の足並みを乱し、中国の思うツボになる。愚かな外交だ。日本はこれを諫めて修正を図るべきであろう。