レポート  エネルギー・環境  2021.04.20

温暖化対策のありかたについて- 経産省・環境省合同会合(第3回)におけるキヤノングローバル戦略研究所 杉山研究主幹委員意見

日本の地球温暖化対策の見直すために設立された経済産業省・環境省の審議会の合同会合(第3回)が2月26日にウェブ開催されました。委員であるキヤノングローバル戦略研究所 杉山研究主幹は書面および口頭で意見を述べました。

エネルギー・環境

1. ワーキンググループの概要および資料

中央環境審議会地球環境部会 中長期の気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会産業技術環境分科会 地球環境小委員会地球温暖化対策検討ワーキンググループ合同会合(第3回)
令和3226

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_wg/003.html

出典:経済産業省ウェブサイト

2.杉山研究主幹口頭意見

1. グリーンブーム
グリーンブームはバイデン政権誕生直後の今がピークで、動向を冷静に見極める必要があります。

米国では温暖化は党派問題で、共和党は対策を支持しません。

加えて、議会ではエネルギー産出州の民主党議員が造反し、共和党員に同調してシェール採掘への新規規制反対が可決されました。

議会が拮抗しているため、バイデン政権の温暖化対策は限定的になります。いまグリーンブームは絶頂にありますが、バイデン政権は議会の反対に遭い、ブームは潰えると見られます。
(更に詳しくは 添付資料1 「民主党員の造反でバイデン大統領は CO2 を減らせない」 及び 添付資料2 「温暖化対策: 米党派間で深まる隔絶」


2. 「政策のカーボンプライシング」提案

日本ではいま、規制、補助金、税が乱立し、温暖化対策全体として効率が悪くなっています。

これを全て廃して環境税や排出量取引を導入することで一本化する、というなら悪くないが、現実には、むしろ屋上屋になって、更なる非効率になりそうです。

そこで米国にならい、一定の「社会的費用」を設定し、それに基づいて政策の費用対効果を分析して、政策を合理化する指針にする、という提案をします。

2017 年の地球温暖化対策プラットフォーム報告書では、日本の温暖化対策費用は、すでに1トンあたり 4000 円を超えています。

そこで提案として、

  • 社会的費用を1トンあたり 4000 円と設定する。
  • 政策は全てこの社会的費用を用いて費用便益分析を行い、それを参考として、安全保障なども考慮しつつ、政策実施の可否を決める。

としてはどうでしょうか。

これで効率的にCO2削減が進む様になります。

(更に詳しくは 添付資料3 「成長戦略に資するカーボンプライシングとは)


3. 日本の数値目標

2050年CO2実質ゼロの目標については、「日本発の技術によって世界全体でCO2を削減することで達成する」とすべきです。それに向けてCCS・直接空気回収(DAC)などの技術開発を進めれば、これは実現可能です。

2030年のエネルギーミックスについては、パリ協定に提出した数値を安易に変えてはなりません。経済と安全保障のために、原子力・石炭火力を堅持し、LNG・再エネ頼みにしないことが重要です。

欧米が日本に数値目標を深堀りせよと圧力をかけてきたならば、「なぜ中国に最も間近で対峙する同盟国を、わざわざ経済・安全保障の両面で脆弱にするのか」と反論すべきです。

(更に詳しくは  添付資料4 「中国の台頭に抗する日本のエネルギーミックスとは」 添付資料5 「直接空気回収技術(DAC)は地球温暖化問題を一発で解決するか」


4. サプライチェーン

日本が数値目標を深堀しないと企業がサプライチェーンに残れないというのは誤りです。

本当にサプライチェーンに残りたいなら、コストこそが重要です。高コストではそもそもサプライチェーンに残れません。

どうしても企業にとって必要ならば、海外でCO2排出権や再エネ証書を買って、国内と通算して帳尻を合わせれば済むことです。
(更に詳しくは 添付資料6 「温暖化パニックに陥らずサプライチェーンに生き残る方法」 )


5. 電気事業への中国の浸透に注意

英国の電気事業には中国企業が深く浸透してしまいました。彼らは中国共産党と表裏一体です。中国は、いつでも大停電を起こし、ロンドンの政治中枢、シティーの金融、英国中の病院など、主要な社会維持機能を麻痺させることが出来るようになってしまいました。

今後、太陽光発電事業などの形で中国から日本への参入が増えると、英国と同様の危険な状態になります。注意深いエネルギー政策が必要です。

(更に詳しくは 添付資料7 「日本に迫る「中国エネルギー戦略」の魔の手~英国の
危機に学べ~
」)


6. ウイグルの強制労働による太陽光発電

いま太陽光発電用の多結晶シリコンの生産の半分はウイグル自治区で行われています。これが強制労働によっている可能性が報道されています。海外企業はすでにサプライチェーンの見直しを始めています。日本も企業・政府ともに温暖化対策のサプライチェーンの検討が必要です。

(更に詳しくは 添付資料8 「太陽光発電」推進はウイグル人権侵害への加担か


7. 経済コストと災害の統計

第2回に提出した意見の繰り返しですが、

  • カーボンニュートラルを目指すにあたっての経済的なコストをまとめて示すべきです。
  • 台風・豪雨等の災害の激甚化など起きていないことは統計で明らかなので情報を提示すべきです。

(参考:拙著「地球温暖化のファクトフルネス」 電子版(99 円)/ 印刷版(2,228 円)

8. 資料の準備について

本稿執筆時点(24 5PM)に於いて、まだ事務局から最終版の資料が提出されていません。
会議に十分先立って提出すべきです。直前に資料を出されてもコメントしかねますので、後から追加意見を提出します。
(参考:第2回提出資料

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1本稿は個人の見解です。
筆者ホームページ キヤノングローバル戦略研究所
https://cigs.canon/fellows/taishi_sugiyama.html

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杉山研究主幹 書面意見