メディア掲載  エネルギー・環境  2021.03.22

日本をエネルギー強国にせよ

産経新聞 2021年3月12日付「正論」に掲載

エネルギー・環境

エネルギーは日本のアキレス腱であり、先の世界大戦でも苦い記憶がある。いま政府は今後30年にわたるエネルギー基本計画を検討しているが、どうすべきか。

菅義偉首相が「2050年CO2実質ゼロ」を宣言し、米国では温暖化対策に熱心なバイデン政権が誕生した。いまグリーンブームは絶頂にあるが、陥穽(かんせい)はないか。

太陽光発電も「強制労働」

グリーン投資では、今後2つの中国「排除」が重い課題となる。

第1はサプライチェーン(供給網)からの排除である。

太陽光発電の心臓部は多結晶シリコンであるが、世界生産の8割は中国であり、内6割をウイグル自治区が占める。生産が集中する理由は、安価な電力と低い環境基準だ。多結晶シリコンの生産には、大量の電力を要するため、安い価格が有利になる。また環境基準が厳しいとコスト要因になる。

問題はシリコンに限らない。化石燃料や原子力の利用をやめて、風力発電や電気自動車を用いることは、希少金属であるレアアースへの需要を高める。レアアースも環境規制の緩い中国および中国系企業が世界の7割を生産する。

これに加え太陽光発電が強制労働で生産されているとの衝撃的な報道があり、海外企業は既にサプライチェーンの見直しを始めた。いまの日本のグリーン投資は中国依存型であるが、脱却が必要だ。

第2の課題は重要インフラからの排除である。電力市場自由化で先行する英国には中国企業が深く浸透した。彼らは中国共産党と一体であり、北京からの指令によって大停電を起こせば、ロンドンの政治中枢、シティーの金融、英国中の病院などを麻痺させることができるという。今後、太陽光発電事業などの形で中国企業が日本へ浸透すると、同様の危険が生じる。警戒が必要だ。

グリーンバブルは崩壊

米国に目を転じる。バイデン大統領は就任早々、環境問題を理由に石油・ガス開発に制限をかけたが猛反発があった。米国はシェール採掘技術で独走状態にあり、世界一の産油国かつガス大国である。エネルギーで潤う州は多い。

議会では早くも複数の民主党議員が造反、共和党とともに石油・ガス開発規制に反対票を投じた。

温暖化は米国では党派問題で、国の半分を占める共和党は対策を支持しない。民主党は上下両院を制したといっても、僅差である。造反議員が少しでも出ると過半数割れで、法律は議会を通らない。

新規立法をせず、既存の法律を拡大解釈して規制を進める方法はあるが、これにはトランプ氏の置き土産である共和党寄りになった最高裁判所が立ちはだかる。

いまコロナ禍対策の金融緩和で世界の株価は高騰している。特にグリーン産業は投資を集め、実績のない会社が時価総額で既存の大企業に並ぶなど、バブル状態になっている。だがグリーン産業の技術は未熟で高価なものばかりで、高い株価は政府の環境規制強化への期待に強く依存している。

「バイデン大統領の誕生で米国が温暖化対策に本腰になる」という報道が日本国内には溢(あふ)れている。だが政権が米国の現実に直面し困難が次々に露わになると、グリーンバブルは崩壊すると見る。

多様性が安全保障の要

中国に屈さず、グリーンバブルに惑わされず、強靱な日本を造るためには、エネルギー政策はどうあるべきか。

第1に、安定・安価なエネルギーで経済力を高めねばならない。このために原子力、石炭火力は堅持すべきだ。第2に、前回述べたように「気候危機」はリベラルのフェイクにすぎないが、首相が言明した以上、2050年CO2実質ゼロという目標にも整合性ある絵を描かねばならない。だがそのために日本が高コスト体質になり衰退してはならない。解として「日本発の技術によって世界全体でCO2を削減することで達成する」としよう。それに向けCO2回収などの技術開発を進める。

第3に、有事に対するエネルギー安全保障は万全でなければならない。再生可能エネルギーとLNG(液化天然ガス)に頼った電源構成では脆弱なことは今年初めの電力危機で露呈した。再生可能エネルギーはいざというときに天候が悪ければ使い物にならない。LNGは貯蔵しにくい。対照的に、1度燃料を装荷すれば1年以上持つ原子力、石炭を貯蔵できる石炭火力の重要性が明らかになった。

石油については、イランとアラブ諸国の紛争などによって、中東からの供給がいつ止まるか分からない。その際には中国との石油の争奪競争も勃発することとなる。

エネルギー供給源を多様化すること、とりわけ友好国からの輸入は、これまで以上に重要になる。石油・ガスは北米等からの調達を増やし、石炭は豪州等からの調達を維持すべきだ。

ウィンストン・チャーチルは、英国海軍の燃料を本土の石炭から海外の石油に換えるに当たり、供給源の「多様性」こそが安全保障の要だとした。この箴言(しんげん)を噛みしめるときだ。