バイデン氏は温暖化対策に熱心で2050年にCO2ゼロを目指すとしている。だが議会では早くもエネルギー産出州の民主党議員が造反した。排出量取引や環境税のような法律を通すことは極めて難しく、バイデン大統領が米国内で出来ることは限定的になりそうだ。
バイデン氏は就任早々の大統領令で、連邦政府の管理地の石油・ガス開発のための新規の貸し出しを停止し、現行の貸し出しの許認可の在り方についても徹底検証することを命じた。
ところが、米国は石油大国でありガス大国である。米国はシェールガス・シェールオイル採掘技術を開発し、大きな商業的成功を収めてきた。技術水準は世界で断トツの独走状態にある。シェールガスによってガス価格は低く安定するようになった。シェールオイルの飛躍的増産によって米国は世界最大の産油国になった。これによって経済が潤っている州は多い。
さっそく、複数の民主党員が造反し、共和党と共に石油・ガス産業を擁護する投票を行った。これはフィナンシャルタイムズ、ブルームバーグなどでも報道されている:
ニューメキシコ州は現在日量100万バレル近い産油量を誇るというから、もはやちょっとした産油国並みだ。そのうち半分以上は連邦政府の管理地での生産であるため、これが制約を受けることに懸念が強いという。石油・ガス生産からの収入はニューメキシコ州の予算の3分の1にあたる28億ドルに達している。
民主党は上下両院を制したといっても、上院は50対50、下院は222対211と何れも僅差である。このため、造反議員が少しでも出ると、たちまち過半数割れを起こしてしまい、何も議会を通せなくなってしまう。
石油・ガス産出州では既に2020年の選挙でも民主党議員は苦戦し、落選も多く出た。下院では2022年秋にははやくも中間選挙も控えており、議員も地元の票を確保すべく動いている模様だ。
米国上院では議事妨害(フィリバスター)制度があるため、もともと60名の議員が確保できないと排出量取引や環境税などの法律を通すことは困難と見られていたが、民主党から造反議員が出るとなると、上下両院とも過半数を確保することすらできなくなる。
そうするとバイデン大統領が出来ることは、大統領令で出来る範囲に限られる。例えば連邦政府の官公庁で再生可能エネルギーや電気自動車を導入するといったことである。あとはカリフォルニアなどが州のレベルで積極的に温暖化対策をすることを頼るほかないが、これはもちろん全米には広がらない。新規の立法をせず、既存の法律を拡大解釈して規制を進める方法はあるが、これにはトランプ氏の置き土産である共和党寄りになった最高裁判所が立ちはだかると見られる。
米国は4月22日に「気候サミット」を主催する予定で、そこではパリ協定に新たに提出する数値目標(NDC)を示す意向である。現行のパリ協定では米国は2005年を基準として2025年には26%~28%の温室効果ガス削減という数値になっていて、環境派はこの深堀りを求めてくるだろう。だが最新(2018年)の温室効果ガス排出量は2005年に比べて10%減に過ぎない。パリ協定より後退した目標を掲げればサンダースやオカシオコルテス等の急進的左派から非難轟々であろうし、深堀りした目標を掲げれば民主党のエネルギー産出州は黙っていないだろう。
菅首相のCO2ゼロ宣言とバイデン政権の誕生で、いまグリーンブームは絶頂に達している。だがバイデン政権が米国の現実に直面し、困難が次々に露わになるにつれて、このブームは早々に潰えるかもしれない。