メディア掲載  エネルギー・環境  2021.03.01

気候危機はリベラルのフェイク

産経新聞 2月22日付「正論」に掲載

エネルギー・環境

台風等の災害のたびに温暖化のせいで激甚化と騒ぐ記事が溢れるが、悉くフェイクである。温暖化云々以前に、そもそも激甚化自体がなかったことは公開の統計で確認できる。これは前回述べた。

ではなぜフェイクが蔓延したか。政府機関、国際機関、NGO、メディアが不都合なデータを無視し、プロパガンダを繰り返し、利権を伸長した結果だ。

CO2をゼロにするという急進的な環境運動は今や宗教となり、リベラルのアジェンダ(議題)に加わった。人種差別撤廃、貧困撲滅、LGBT・マイノリティーの擁護等に伍(ご)して、新たなポリティカル・コレクトネスになった。

CO2ゼロに少しでも疑義を挟むと、温暖化「否定論者」というレッテルを貼られ、激しく攻撃される。この否定論者(デナイアー)という単語は、ホロコースト否定論者を想起させるため、英語圏では極悪人の響きがある。

日本のNHK、英国のBBC、ドイツの公共放送、米国のCNN等の世界の主要メディア、そしてフェイスブック等の大手SNSもこの環境運動の手に落ちた。不都合な観測データを隠蔽し、不確かなシミュレーションを確実な将来であるごとく報道し、単なる自然災害を温暖化のせいだと意図的に誤解させてきた。

科学ではなく新興宗教

彼らの手段は宗教的な映像と物語だ。テレビではおどろおどろしい災害の映像が次々に流れる。「洪水も山火事も台風も温暖化のせいで激甚化した、地球環境はすでに壊れている、世紀末には大災厄が訪れる、気候危機だ」と恐怖を煽る。この物語に合わない災害の統計を無視する。最早科学とは関係のない宗教になっている。

温暖化物語はさらに続き、「規制や税でCO2を削減すべきで、大きな政府と国連への権力移譲が必要だ」とする。これもリベラルの世界観にぴったりだ。国際環境NGO等は資本主義を嫌い、自由諸国の企業や政府に強烈な圧力をかける。その一方で、国家権力による経済統制を好み、中国政府の温暖化対策を礼賛し、中国企業は攻撃の標的にしない。

もし本気でCO2を減らしたいならば、自由な経済活動によって科学技術全般のイノベーションを促すことが絶対不可欠だが、彼らはそれを否定し、生活を統制し耐乏生活を強いることを望む。

中世の宗教が近代になって滅び、代わって共産主義が台頭したが崩壊した。だが巨大な権威と一体化し、そこで権力を振るい社会を計画し管理したいとの願望は潰えず環境運動がその後を継いだ。

ネット空間も言論統制

インターネット空間でも環境運動が優勢である。米大統領選ではツイッター等の大手ソーシャルメディアの民主党寄りの党派性が剥き出しになったが、温暖化にも言論統制は及んでいる。手口は共和党を封じたのと同じ方法だ。

即ち急進的な環境運動に疑義を呈する記事があれば、彼らは主観的な判断によって「不適切」であるとして削除したり、拡散・共有を停止したり、アカウントを停止する。あるいは記事に「偽情報」のタグを付けて信憑性を貶め、検索に掛からないようにする。これらの手段で記事の閲覧数を減らすのみならず広告収入を断つ。

温暖化に関して確認すると、ユーチューブ、ツイッター、グーグル、リンクトイン、フェイスブックは程度の差はあれ、このようなことをしていた。

最近の不穏な動きとして「フェイスブックは温暖化に関する偽情報の拡散を止めるべきだ」というオープンレターが発表された。本当の意味で温暖化の偽情報というならリベラルなメディアと大手SNSこそ偽情報だらけだが、このレターは明らかに温暖化「否定論者」を標的にしている。レターの署名者にはクリントン政権で大統領首席補佐官を務めたジョン・ポデスタ氏もいる。バイデン政権下で何が起きるか危惧される。

保守の言論強化が必要

日本の知識人の多くは米国のリベラル系メディアの言うことを鵜呑みにする。特に温暖化については明らかにそうだ。ただし米国にはまだウォールストリート・ジャーナルやFOXニュース等があってオープンな議論を続けている。この御蔭(おかげ)で米国の共和党支持者はCO2ゼロなど支持していない。翻って日本では大新聞とテレビの大半は温暖化プロパガンダに丸め込まれてしまっている。

CO2は増えていて緩やかな温暖化は起きている。だが災害は増加しておらず破局に至る気配はない。他方でCO2ゼロという極端な目標は経済を破滅させる。目標の修正を急がないと、それまでに掛かる莫大な費用だけでも自由諸国は弱体化して、中国の台頭を容易ならしめる。

日米共通の課題として、保守の言論空間を活字とネットの両方で強化し、リベラルに負けないようにすべきである。温暖化問題はその一角において、ファクツ(事実)に基づいた適切な対応を論じたい。その上でリベラルにもアジェンダの修正を迫ろう。