コラム  財政・社会保障制度  2021.01.29

保健師はどこにいるのか ~ 産業保健師の一時派遣という選択肢~

医療政策 新型コロナウイルス

新型コロナウイルス第3波になってから感染者が増加しており、再び緊急事態宣言が出された。毎日のように、自宅療養中の感染者が死亡したという報道がなされ、自宅療養中の感染者の経過観察は、ますます重要となってきているが、保健所は多忙を極めており、保健師不足が続いている。

新型コロナウイルスの発生以来、保健師の確保が重要課題となり、厚生労働省は、退職した元自治体保健師や在宅保健師、保健師資格があり現在学校養成所等で教育活動に携わっている教員、保健師資格はあるものの就業していない保健師などを確保するべく、公益社団法人日本看護協会、公益社団法人国民健康保険中央会、一般社団法人全国保健師教育機関協議会に対して協力依頼を行ってきた。

早くから感染者が発生した自治体に対しては、まだ感染者が出ていない自治体から保健師が一時的に派遣された。支援が第一目的であるが、派遣した自治体にとっても、いずれ感染者が出た際に備える目的もあり、双方にメリットがあった。しかし、現在では、日本中で感染が広がり、どの地域でも臨戦態勢になってきた。

いまだ終息が見えない中、これから先の緊急事態に備える保健師の確保策として、企業で活躍する産業保健師の一時派遣も検討してもよいのではないか。

公益社団法人日本看護協会は、保健師の実態調査を行っている。公益社団法人日本看護協会(2019)『平成30年度 厚生労働省先駆的保健活動交流推進事業保健師の活動基盤に関する基礎調査報告書』が最新である。調査は、201895日から1030日にホームページ上で行われたWeb調査で、保健師として活動している全国の保健師(全数調査) 約51,000人を対象とし、有効回答件数は、18,755件(回答率 36.6%)であった。回答者18,755人のうち、行政領域は15,222人(81.2%)、産業領域は1,194人(6.4)、医療領域は787人(4.2)、福祉領域は694人(3.7%)、教育領域は357人(1.9)であった。所属先でみると、752人(4.0%)が企業・事業所に勤務していた。従業員1,000人以上の組織に属する者が524人(69.7%)、50人以上1,000人未満が210人(27.9%)、50人未満が18人(2.4%)であった。また、複数配置(配属部署に自分以外に保健師がいる)が525人(69.8%)、一人配置が141人(18.8%)、所属組織には自分以外に保健師がいないが86人(11.4%)であった。

公益社団法人日本看護協会(2019)によると、全国の就業保健師は51,280人なので、概算ではあるが、回答結果から割り返してみると、全国に産業保健師が3,282人、企業・事業所勤務は、2,050人はいると推定できる。同様に、複数配置も1,430人いると推定できる。

企業も通常の保健師業務やコロナ対応で忙しいと思われるので、複数配置されている産業保健師ならば、企業から保健師自身の勤務地がある保健所に一時的に派遣することは可能ではないか。産業保健師が引っ越しや移動する必要はない。兼務にすれば、産業保健師の業務と両立できるのではないか。

保健師は国家資格であり、看護師資格も同時に必要なので、ただちに大量の増員は望めない。すぐに対応が必要な場合は、現在の限られた人員で適正な配置が重要となってくる。

すでに自治体では、自治体間で協力し合い、求人募集も行っている。国や自治体はあらゆる要請を行っている。日本看護協会、国民健康保険中央会、全国保健師教育機関協議会もそれに応えているのだろう。残りの可能な確保策として、産業保健師の一時派遣を大いに検討するべきである。保健師を複数配置している大企業や経団連、経済同友会、連合などに相談してみてはどうだろうか。また、大企業や経団連などからも所在する都道府県、政令市、中核市、保健所設置市の保健衛生部局に声をかけてみられてはどうだろうか。新たな連携により、解決策が生まれるかもしれない。緊急時の一時派遣という形であれば実現可能ではないだろうか。


(参考文献)

公益社団法人日本看護協会(2019)『平成30年度 厚生労働省先駆的保健活動交流推進事業 保健師の活動基盤に関する基礎調査報告書』