メディア掲載  国際交流  2021.01.20

米国/新大統領の対日理解へ

電気新聞「グローバルアイ」2021年1月12日掲載

国際政治・外交 米国

今月の米国大統領就任式が平和裏に進む事を筆者は祈るように見守っている。

米国では深刻な経済格差を起因として社会の諸階層に不満が蓄積し、断絶と騒乱が出現している。またコロナ禍の中で煽動的な社会活動家が偽情報を流し、情勢が一段と複雑化している。この不透明な政治状況という病弊を患う米国は、無秩序で不安定な状態に世界を陥らせている。

外交的に強硬姿勢をとる中国に対して、新大統領はいかなる対応をとるのか。我々は注視すると同時に、大統領に対し積極的に情報を伝える必要がある。

前民主党系政権の指導者、バラク・オバマ大統領(当時)とスーザン・ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官(同)の回顧録によれば、彼らのアジアに対する関心は残念ながら希薄だ。大統領の回顧録に南シナ海はただ一カ所しか出てこず、補佐官の回顧録には全く出てこない。また補佐官の対日感情は好ましくないようにも映っている。

元々回顧録は執筆者の都合の悪い事が省略され、また意図せざる誤記もあるため、専門家の厳密な研究を基に判断する必要がある。もしそうだとしても、トランプ政権に比べると、リベラルな対中路線をとる事が予想される。

いずれにせよ米国の外交政策次第で通称「クアッド」、すなわち日米豪印の4カ国をはじめカナダや韓国、さらには東南アジア諸国や欧州諸国の対中戦略が大きく変わってくる。従って、日本は中国に対して、友好と警戒という硬軟あい交えた巧みな対話が必要であると同時に、米国を含め友好国との緊密な意見交換が求められているのだ。

歴史を顧みると米国大統領の対日理解が日本の外交を大きく左右してきた。例えば日露戦争時のセオドア・ルーズベルトや第二次大戦時のフランクリン・ルーズベルト大統領(FDR)の対日理解が我が国の外交を大きく左右した。

終戦直前の1945年1月20日に4度目の大統領就任式を終えたFDRは2月3日にヤルタに向かい、スターリンと戦後のアジアに関して議論した。米国務省のスタッフ(ジョージ・ブレイクスリー)が作成した事前資料には、樺太・千島交換条約や日露戦争後に南樺太が日本領となったことが記されていた。だがスターリンは「戦争で日本が樺太・千島をソ連から奪った」と巧みに語り、病気で国務省の事前資料を一顧だにしなかったFDRに北方領土を全て手にする事を認めさせたのだ。会談で通訳を務めた外交官、ジョージ・マーシャル国務長官によるハーバードでの有名な演説(マーシャル・プラン)の原稿を書いたチャールズ・ボーレンは、ヤルタで「米国がうたた寝していた間に武力ではなく条約を通じて日本が平和裏に領土を確定した千島列島をソ連が取ったのだ」と語っている。

筆者は想像力をたくましくして、もしも日本人が正確で詳しい情報をFDRに伝えていたら、千島列島は取られなかったかも、と考えている(例えば日露戦争の時、FDRは新婚旅行で渡欧したが、船上では同乗の日本の海軍将校との会話に夢中になっていた)。

我々は歴史の教訓を基に、米中をはじめ諸外国との対話に際し、正確で詳しい情報を常に伝える事に努めなくてはならない。