コラム  国際交流  2021.01.19

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第141号 (2021年1月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

国際政治・外交 米国

謹賀新年。今年は世界の平和と繁栄と同時に、現在のパンデミックが一日も早く収束する事を願っている。

年末年始にかけて一日も途切れず、感染者のために懸命に働く医師・看護師の姿に、誰もが心を打たれるであろう。医療現場の緊迫した様子を見て「我々に出来る事は…」と自らに問いかけている。また今回の危機に直面して、10年前に出版された故加藤周一先生の本の中の文章を思い出している。

ちょうど、カミュの『ペスト』のようなものです。まず、ヨーロッパのある街で、どこか遠いところで、ペストが流行しているらしいという噂話がある。だが、皆、自分たちの街にペストが流行するとは考えていない。 最初は、茶飲み話の他人事なんです。誰かが、ペストが流行する可能性を指摘しても、誰も信じない。平穏な日常が続きますが、ある日、ペスト患者がその街にあらわれる…。注意深く観察していれば、いろんな兆候が看て取れたはずですが、ペストは「突然」身近に訪れ、人びとを混乱に陥れる。

(『ひとりでいいんです—加藤周一の遺した言葉』 2011年)

経済・精神面で苦しんでいる方々に対し、日本社会は如何なる形で暖かい手を差しのべられるのか。この問題を考える時、危機勃発以前に既に深刻な状況に陥っていた国家財政の事が気になって仕方がない。「打ち出の小槌はもう残っていない」、という筆者の考えが詰まらぬ杞憂である事を今は祈るばかりだ(p. 4の図を参照)。これに関して日本総研の経済専門家である河村小百合氏の著書の中の文章を思い出している(『中央銀行は持ちこたえられるか—忍び寄る「経済敗戦」の足音』 2016年)。

第10章 子どもたちの将来への責任

ご自分のお子さん、お孫さん、そして、この国の子どもたち全員に、これからこの国が財政と経済の営みをどうやって続けていくことができるのか、この国がどうやって生き延びていくことができるのか、堂々と胸を張って説明できますか。

米国の政権交代で、国際関係は如何なる変化が予想されるのか、内外の知人・友人と意見交換する毎日だ。ただZoom等を通じて行う討論では、情報が漏れる恐れがあるので微妙な話が出来ないのが残念だ。

米国海軍大学教授で現在ハーバード大学Fairbank Center for Chinese Studiesに滞在するアンドリュー・エリクソン教授が、11月30日、ロンドン大学中国研究院で講演を行った(小誌昨年12月号を参照)。教授は、2019年に著した著書(China's Maritime Gray Zone Operations)や昨年11月に発表した報告書(“Hold the Line through 2035”、次の2を参照)等、米中間の軍事的緊張に関して、緻密な分析を基に両国の冷静な対応を提言した。また上記報告書の表題は或る意味で“決まり文句(buzzword)”になっている—例えば小誌昨年8月号で触れたスポルディング氏の本(Stealth War)の中にも出ている。そして教授は、中国の国力が頂点に達すると予想される2035年頃まで、米国は友好国と共に中国の勢力を現状水準に押し止める策を練る事が枢要であると説いている。

エリクソン教授の提言に関し、今もonlineを通じ友人達と様々な文献資料を絡ませて意見交換を行っている—例えばジョージ・ワシントン大学における中国研究の権威であるディヴィッド・シャンボー教授の著書(Where Great Powers Meet: America & China in Southeast Asia)や戦略国際問題研究所(CSIS)のマレー・イーバート氏の著書(Under Beijing’s Shadow: Southeast Asia’s China Challenge)について議論した。

残念な事として、onlineで中国の友人達と本音(真心话)で語り合う議論が出来ない事だ。米欧の友人達との侃々諤々とした議論と同水準の話をしたいのだが、onlineでそれを行う事に戸惑いを感じている—例えば新型コロナウイルス危機の最中、中国の作家である方方氏の『武漢日記』に関して米欧に居る友人達とは遠慮無い議論が出来るが、中国の友人達とはそれが出来ないのだ。例えば2月3日の日記は、中国戦国時代の政治家で詩人の屈原による「離騒」の「長太息して以て涕(なみだ)を掩(おお)ひ、民生の多難なるを哀しむ」を想起させる格調高い文章から始まっており感動的だ。こうした話題すら中国の友人達と現在話出来ない事が残念で仕方がない。

先月2日、ロシア連邦文化科学協力庁のご厚意で、サンクトペテルブルク市の観光案内をonlineで楽しむ事が出来た。筆者はエルミタージュ美術館やマリンスキー劇場に想いを馳せていたが…。

通訳の方による分かり易い説明のお陰で、死ぬまでには必ず訪れたいと思っている都市の魅力を知る事が出来た。しかしながら、その直前、ロシア政府の発表を知っていたので、筆者の心境は複雑であった—「東部軍管区がミサイルシステムS-300V4を千島列島に配備(«ЗРС С-300В4 Восточного военного округа заступила на боевое дежурство на Курильских островах)」(次の2を参照)。

まさしくこの世は「戦争と平和(война и мир)」が混じり合って動くものだと、嘆息している。

今年こそ、日本の将来に関し重要と思う海外情報を微力ではあるが昨年以上に充実した形で読者諸兄姉に届けられる事を2021年の初めに願っている次第だ。

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『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第141号 (2021年1月)