メディア掲載  財政・社会保障制度  2021.01.15

新型コロナウイルス感染症の論点(Ⅱ) ―感染拡大を止める検査戦略の科学的根拠

医療政策 新型コロナウイルス

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは,WHOの宣言以来既に1年近くが経過しても終息の気配は見られない。11 6 日の時点での米国ジョンズ・ホプキンス大学の発表によれば、世界の患者数は約 4950 万人、そのうち死者は約 125 万人(2.5%)に達している。季節性インフルエンザと同時流行が懸念される時期をむかえ、むしろ世界の各地で感染の再拡大の傾向が認められる。

世界最多の感染者数約 970 万人(うち死者数約 23 5 千人)を出している米国は、11 6 日の 1 日で新規患者数 約 12 2 千人,死亡者数 1,210 人を記録、増加傾向にある。同日の欧州でも、フランスで新規患者数約 5 8 千人、イタリアで約 3 5 千人、ポーランドで約 2 7 千人、アジ アではインドで約 4 8 千人など,感染の脅威が増している。

わが国では、11 7 日時点での感染者数約 10 3,600 人(うち死者数 1,800 人)、新規感染者数 1,042 人、死亡者 数 9 人と報告されており、米国に比べ 2 桁も少ない罹患・ 死亡数である。しかし,GoToトラベル等の経済再開や人々 の「コロナ慣れ」も要因かもしれないが、10 月から全国的 に再び拡大傾向に転じている。したがって、欧米に比べ感染規模の桁が違うとは言え、 依然として「With コロナ時代」の感染予防・抑止の戦略は 不要どころか、さらなる強化が求められている。

そこで、この新型コロナウイルス感染症の論点シリーズでは、第 1 回として「検査戦略の科学的根拠とリスク・ベネフィット」1) を取り上げた。そこでは、多段階検査による「見逃しゼロ作戦」によって、単一の PCR 検査の精度の限界を乗り越え、さらに検査の正確度を向上させるべきことを論証した。しかし、8 24 日、東京都世田谷区は「検査を拡充する」として、4 検体の「プール方式」による PCR 検査の実施を発表した。その方式では、検査の正確度が下がることが予想され、検査能力を向上させるべき流れに逆行する 懸念がある。まだ、論理的な検証が欠けているように見える。

そこで本稿では、その世田谷区方式を科学的根拠の観点から批判的に吟味する。そして、現実的・科学的に、感染封じ込めの決め手となる検査戦略として、「感染者数減少作戦」をあらためて提案し、その科学的根拠を示す。

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新型コロナウイルス感染症の論点(Ⅱ) ―感染拡大を止める検査戦略の科学的根拠