メディア掲載  エネルギー・環境  2021.01.08

「地球温暖化」は理性的な対応を

産経新聞 12月25日付「正論」に掲載

エネルギー・環境

2050年にCO2排出をゼロにするという目標が流行っている。威勢はよいが、意味を解って言っているのだろうか。

経産省系の研究機関である地球環境産業技術研究機構の試算では日本全体での年間費用は一般会計約100兆円に匹敵すると示唆された。しかもこの中身はといえばCO2を発電所から回収し地中に貯留するCCSなど、未だ実用化されていない技術ばかりである。

つまりCO2ゼロは達成不可能な目標だ。それを目指すというだけで、莫大な国民負担が生じる。

では、このような極端な対策を支持するような科学的知見はあるのだろうか?


温暖化での災害は皆無

災害のたびに地球温暖化のせいだと騒ぐ記事があふれるが、悉くフェイクニュースである。これは公開されている統計で確認できる。台風は増えても強くなってもいない。台風の発生数は年間25個程度で一定している。「強い」に分類される台風の発生数も15個程度と横ばいで増加傾向はない。

猛暑は都市熱や自然変動によるもので、CO2による温暖化のせいではない。温暖化による地球の気温上昇は江戸時代と比べて0.8度にすぎない。過去30年間当たりならば0.2度と僅かで、感じることすら不可能だ。

豪雨は観測データでは増えていない。理論的には過去30年間に0.2度の気温上昇で雨量が増えた可能性はあるが、それでもせいぜい1%だ。よって豪雨も温暖化のせいではない。詳しくは筆者ホームページの「地球温暖化ファクトシート」をご覧頂きたい。データの出典も明記してある。観測データを見ると、地球温暖化による災害は皆無であったことが解る。


モデル予測に問題あり

温暖化によって大きな被害が出るという数値モデルによる予測はある。だがこれは往々にして問題がある。

第1に、被害予測の前提とするCO2排出量が非現実的なまでに多すぎる。第2に、モデルは気温予測の出力を見ながら任意にパラメーターをいじっている。この慣行はチューニングと呼ばれている。高い気温予測はこの産物である。第3に、被害の予測は不確かな上に悪影響を誇張している。

政策決定に当たっては、シミュレーションは一つ一つその妥当性を検証すべきである。計算結果を鵜呑みにするのは極めて殆い。

実際のところ、過去になされた不吉な予測は外れ続けてきた。温暖化で海氷が減って絶滅すると騒がれたシロクマはむしろ増えている。人が射殺せず保護するようになったからだ。温暖化による海面上昇で沈没して無くなるといわれたサンゴ礁の島々はむしろ拡大している。サンゴは生き物なので海面が上昇しても追随するのだ。

CO2の濃度は江戸時代に比べると既に1.5倍になった。その間、地球の気温は0.8度上がった。だが観測データで見れば何の災害も起きていない。むしろ、経済成長によって人は長く健康に生きるようになった。

今後も緩やかな温暖化は続くかもしれない。だが破局が訪れる気配はない。「気候危機」や「気候非常事態」と煽る向きがあるがそんなものはどこにも存在しない。

なぜフェイクが蔓延したか。政府機関と国際機関、御用学者等の連合体が、不都合なデータを無視し、異論を封殺し、プロパガンダを行い、利権を伸長した結果だ。


「上げ潮」で経済と両立

日本政府のCO2ゼロ宣言は、プロパガンダの発生源である西欧に同調したものにすぎない。だが一旦国の方針とした以上、後戻りは難しい。すると課題はこれをどう解釈し対処するか、である。菅義偉首相は正確には「実質」ゼロを目指すと言った。実質とは日本の技術によって海外で削減されるCO2も含める、という意味だ。これを弾力的に使うほかない。

製造業を強化し、経済成長を図ることで、あらゆる技術の進歩を促すべきだ。温暖化対策技術は、それを母体として生まれる。これを「上げ潮シナリオ」と呼ぼう。

世界でなかなかCO2が減らないのはコストが高いからだ。良い技術さえできれば問題は解決する。いまLED照明は実力で普及しており、既存の電灯を代替して大幅にCO2を減らしている。

今後も例えば全固体電池が期待される。電気自動車は補助金がなくとも実力で普及できるようになることを目指すべきだ。日本はかかる真っ当なイノベーションを担うべきだ。政府の役割は基礎研究への投資等多々ある。

だが一方で、日本を高コスト体質にしてはならない。かつて政府は太陽光発電を強引に普及させた。結果、電気料金は高騰した。いま流行りの洋上風力、水素発電等も政策を誤ればその二の舞いになる。日本の製造業がイノベーションの真の担い手になる為には、電気料金は低く抑えねばならない。原子力も石炭火力も重要だ。

良い技術さえ在れば世界中でCO2は減る。日本のCO2排出は世界の3%にすぎない。その程度を日本発の技術で減らすことはできる。