レポート エネルギー・環境 2020.12.23
日本の地球温暖化対策の見直すために設立された経済産業省・環境省の審議会の合同会合(第2回)が12月16日にウェブ開催されました。委員であるキヤノングローバル戦略研究所 杉山研究主幹は書面および口頭で意見を述べました。
1.ワーキンググループの概要および資料:
中央環境審議会地球環境部会 中長期の気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会産業技術環境分科会 地球環境小委員会地球温暖化対策検討ワーキンググループ合同会合(第2回)
令和2年12月16日
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_wg/002.html
出典:経済産業省ウェブサイト
2.杉山研究主幹口頭意見
参考資料4として、事前に提出した書面意見がありますので、その要旨に沿って意見申し上げます。
1.カーボンニュートラルを目指すに当たっては、その経済と科学についてのデータを精査すべきです。国民は誤った情報の氾濫に惑わされています。事務局は何よりもまず、データを精査し、国民に示すべきです。その上で、国民的な議論を仰ぐべきです。
小生の整理したデータは参考資料に「地球温暖化ファクトシート」として添付しましたのでご活用願えれば幸いです。
2.さてRITEの2016年の試算に基づけば、カーボンニュートラルの年間費用は国家予算約100兆円に匹敵することが示唆されています。しかも試算の中身は未だ実用化されていない技術ばかりです。つまり国内だけで2050年にカーボンニュートラルにすることは事実上不可能ということです。
3.では科学的知見は、これほど極端な対策を支持するのでしょうか。
政策決定にあたっては統計データこそを重視すべきです。災害が「激甚化」「頻発化」したといったレトリックや、ある台風で災害があったといったエピソードでは駄目です。
統計データでは、「温暖化による被害」は殆ど確認されていません。台風は増えておらず、強くもなっていません。豪雨や猛暑への地球温暖化の寄与は、あったとしてもごく僅かです。海氷が無くなり絶滅すると言われたシロクマはむしろ増えています。海面上昇で沈没すると言われたサンゴ礁の島々はむしろ拡大しています。
大きな被害が出るというシミュレーションはあります。しかしこれには往々にして問題があります。第1に前提となるCO2排出が多すぎます。第2に、モデルは気温上昇の結果を見ながらパラメーターをいじっています。第3に、モデルは気温上昇を過大評価しています。第4に被害の計算は不確かで、悪影響を誇張しています。政策決定にあたっては、シミュレーションは、一つ一つその妥当性を検証すべきで、計算結果を鵜呑みにするのは大変危険です。
以上から、国民に莫大な費用を強いる政策を支持する程の強固な科学的知見は存在しない、というのが私の見解です。
4. ただし日本政府はCO2を「実質」でゼロにするとしており、またそれは成長戦略の一環である、ともしています。
これを実現するには、日本国内よりも、むしろ日本の技術によって海外で削減されるCO2こそが重要です。
日本には発達した製造業があります。経済成長を図りつつ、温暖化対策に限らずあらゆる科学・技術全般の振興を図るべきです。安くて性能の良い温暖化対策技術は、イノベーティブな製造業という健全な母体からこそ生まれます。これを私は「上げ潮」シナリオと呼びます。
日本はLED、バッテリー、太陽電池、ハイブリッド車等の技術で世界に貢献してきました。
アフォーダブルな技術さえ出来れば、世界中でCO2は減ります。日本のCO2排出は世界の3%に過ぎません。その程度を日本発の技術で減らすことは可能と思います。
政府の役割は基礎研究への投資など多々あります。ただし、日本を高コスト体質にしては逆効果です。製造業が衰退してしまい、イノベーションが起きないからです。電気料金は低く抑えねばなりません。このためには原子力も石炭火力も重要です。
5.ファイナンスについて、現行のESG投資は大きくバランスを欠いており、是正が必要です。
欧州では再エネだけが良いという意見が強く、合理的ではありません。他方で米国では原子力やCCSも推進するという「テクノロジーインクルーシブ」なアプローチが主流です。日本も米国と連携してそうすべきです。
またESGの「S」は社会の意味です。人権、経済開発、安全保障といった、普遍的な価値こそを重視すべきです。端的に言って、いまのESG投資は、中国から太陽電池を買うことを促進しているが、人権問題にはお構いなしです。他方で、アジアの自由諸国の経済開発に必要な化石燃料の利用を妨害しています。
6.温暖化対策によってハイテクやレアメタルなどの中国依存が高まらないようにすべきです。分散型の電力設備へのサイバー攻撃への対策も必要です。これは既に米国が先行して対応しており、日本もそうすべきです。
7.今回事務局が準備した参考資料1を見たが、台風や豪雨等の温暖化の影響に関係する統計データが一切無い。あるのはもっぱらシミュレーションである。事務局はなぜ統計データを出さないのか? 統計データを示すべきということは前回もはっきり申し上げて両議長も賛同頂いている。国民に大きな負担がかかりうる政策を検討するのだから、まず国民によく事実を知って頂くべきだ。これは民主主義の基本であり、それをないがしろにしてはならないと思う。
事務局は、私が委員意見として書面で提出した統計データをよく確認して、次回の資料に必ず反映してほしい。