メディア掲載 エネルギー・環境 2020.11.16
Daily WiLL Online HPに掲載(2020年11月15日)
前回、太陽光発電・風力発電・バッテリーなどの「グリーン投資」の拡大が、レアアースなどの重要鉱物を筆頭に、日本経済の中国依存を深刻化させることを述べた。今回はその続きで、最後に処方箋を述べる。
1 重要鉱物の敵国依存に関する大統領令
米国ではサイバー攻撃の防御を理由として、ファーウェイなどの先端技術企業を排除する動きが広がっていることは、周知のとおりである。
一方で、あまり知られていないが、今年5月1日に重要鉱物の「敵対的な」国からの輸入を見直すことを命じる大統領令が署名された。ここで「敵対的な」国というのは中国を念頭に置いていることは間違いない。
ここで「重要鉱物」とは何か。鉄や銅などの大量に使われる金属が「ベースメタル」と呼ばれている一方で、希少な金属を「レアメタル」、さらにその一部が「レアアース」と呼ばれている。これらは先端技術には不可欠な素材となっている。
現在、米国はあらゆる鉱物資源を海外から輸入している。特に中国はその中でも最大の供給国である。
その中国が昨年、米国との貿易交渉において、レアアースの輸出規制をちらつかせた、と報じられている。
レアアースは、米国を含め、世界中に存在する。しかし、先進国では環境規制が厳しく採算が合わないため、採掘されていない。
代わりに起きていることは、中国による独占的な供給状態である。いま、世界全体のレアアースの70%以上が中国国内で、ないしは中国企業によって採掘されているという。
そしてこれは深刻な環境汚染を起こしている、としばしば報道されている。
2 軍事技術のサプライチェーン
トランプ政権は、鉱物資源を国産化すべく、国内の環境規制の緩和を図ってきた。
米国が「重要鉱物の敵国依存」の低下に真剣になるのは、経済的な理由だけではない。軍事的な影響も大きいからだ。
暗視スコープやGPS搭載通信機等、あらゆる現代の軍事装備はハイテクであって、重要鉱物を多く使用している。
米国地質調査所は(USGS)は、鉱物やそれを利用した部品の貿易が遮断されることで、米国の安全保障が脅かされる、と警鐘を鳴らしている(図)。
図 現代の米海軍特殊部隊の装備は中国等からの海外鉱物に依存している。米国地質調査所(USGS)資料。
via pubs.usgs.gov
3 軍事技術と民生技術の区別は消失した
いわゆる「グリーン投資」としてもてはやされるのは、太陽光発電、風力発電、電気自動車に留まらない。
今後の省エネルギーの有力な手段と目されているのはデジタル化である。冷暖房のAI制御、自動運転技術などである。これらもグリーン投資の対象となる。
厄介なのは、この全てがいわゆるハイテクであり、中国が高い製造能力を有しているのみならず、その産業が育つことは、やがて中国の軍事力強化にも直結することだ。
今日のハイテクは、軍事技術なのか民生技術なのかは紙一重である。例えば、中国深圳はスマホ生産の一大拠点となった。だがその後すぐにドローン生産の一大拠点ともなった。ドローンの部品は、スマホの部品と共通点が多いからだ。周知の様に、ドローンは現代の戦争において重要な武器である。
スマホの生産を中国に委ねたことで、世界は最大のドローン産業を育ててしまった。今後中国でグリーン産業が隆盛するならば、必ずやそれは軍事転用され、更に強力なハイテク軍事技術産業が中国に誕生するだろう。
4 日本もサプライチェーンの脱中国化は必至
米国がファーウェイ等のハイテク企業排除に続いて、レアアースをはじめとする鉱物資源や太陽光発電設備などの電力設備の調達の脱中国化を進める以上、同盟諸国にも歩調を揃えるよう求めることは間違いないだろう。日本も当然その対象となる。
それに日本にとっても決して他人事ではない。いま米中摩擦と呼ばれているものは、中国共産党と自由主義陣営の長い争いの一部であり、日本は自由主義陣営に伍して自由・民主といった普遍的価値を守っていかねばならないからだ。
無論、中国が強大になるとしたら、真っ先にその影響を受けるのは、日本であって、米国ではない。EUも重要鉱物の調達を脱中国化しようという動きが出てきた。だが今のところ、レアアースの98%を中国に依存していると報道されている。
いま中国は日本の輸出入総額20%を超える最大の貿易相手国であり、日本が全体としての依存度を減らすのは容易ではない。
だが安全保障に直結する電力機器、ハイテクおよび鉱物資源については、中国依存からの脱却を速やかに進めるべきではないか。
ESG投資はCO2偏重から「脱中国投資」に変わるべきだ
近年、ESG投資ということがよく言われている。環境(E)、社会(S)、企業統治(G)といった、社会的な要請に配慮した投資をすべき、という考え方である。
このコンセプト自体は悪くないのだが、実態としては、バランスを大きく欠いている。
というのは、ESG投資といっても、実態としては判断基準がCO2に偏重しており(政府資料p6)、しかも単なる石炭火力発電バッシングになってしまっているからだ。
だがこれには大いに問題がある。というのは、いまのESG投資では、
1) 自由主義陣営に属する東南アジアの開発途上国で石炭火力発電事業に投資することが事実上禁止されている。この一方で、
2) 中国製の太陽光発電設備や電気自動車用バッテリーの購入が奨励されている。
人権抑圧が事件になると、ごく限定的に、関係者との商取引が問題視されることは、これまでのESG投資の枠組みの中でもあった。
だが、そもそも人権抑圧をする国家と商取引をしてよいのか、ということについては、ESG投資はほぼお構いなしだった。
だから、電力設備、先端技術、重要鉱物についても、ESG投資は、中国依存を強める原動力として作用してきた。
さほどのリスクでもないCO2をゼロにしようとして、自由、民主といった基本的人権を犠牲にするのでは、本末転である。
残念ながら、今のESG投資の殆どは、石炭を憎む一方で、独裁国家を支援している。
けれども、そもそもESGのSとは、よき社会(Society)の意味である。
今後、政府と金融機関は、ESG投資の内容を見直し、CO2偏重を止め、脱中国依存を新たな潮流にすべきである。