メディア掲載  エネルギー・環境  2020.11.05

防災白書が温暖化の悪影響を誇大に書いている

アゴラ(2020年11月1日)に掲載

エネルギー・環境

令和2年版の防災白書には「気候変動×防災」という特集が組まれており、それを見たメディアが「地球温暖化によって、過去30年に大雨の日数が1.7倍になり、水害が激甚化した」としばしば書いている。

だがこれはフェイクニュースである。

悪いのは防災白書だ。

まず記述を引用しよう。

「日降水量200mm以上の大雨の年間発生日数は増加しており、最近30年間(19902019年)と統計開始の30年間(19011930年)で比較すると約1.7倍となっているなど、大雨の頻度は強度と共に増加している」

そして以下の図が掲載してある。これは気象庁ホームページで見ることが出来る:

20201105_sugiyama_fig06.jpg

1 過去45年間の大雨の傾向 

これを見ると、確かに豪雨の日数が増える傾向があるように見え、今後も増大していきそうに見える。

しかし、じつはこの期間より前の1940年から1975年の間も、豪雨の日数の多い年は沢山あった。同じ気象庁ホームページのラジオボタンを操作すると、過去120年のデータをダウンロードできる:

20201105_sugiyama_fig07.jpg

2 過去120年間の大雨の傾向 

この図2でもまだ右肩上がりの回帰線が書いてあるが、図1よりもだいぶ緩やかである。それに、この図2の傾きは1940年以前のデータにだいぶ依存している。1940年以降を見れば、殆どフラットだ。

1940年以前に大雨が少なかった理由はよく分からないが、昔のことなので、誤差かもしれない。1940年頃に突然地球温暖化が起きたわけでもないから、1940年の前後の変化は自然変動であろう。

さて防災白書の「気候変動×防災」特集を読むと、図1だけを示して、如何にもこれが地球温暖化に起因するものであり、このせいで近年に水害が激甚化したかのように書いている。

だが、地球の気候を少しでも知っている人であれば、気候には数十年規模の振動が幾つもあるので、過去45年だけのデータから傾向を読み取ってはいけないことは解っているはずだ。

それを知らずに防災白書を書いたとしたらそれだけでも問題ありだが、おそらく知っていて書かなかったのであろう。というのは、図1の下には、もっと長い期間を見ないと、地球温暖化との関連は評価できない、とはっきり書いてあるからだ:

20201105_sugiyama_fig08.jpg

3 気象庁ホームページ(図1)の注釈。赤線は筆者による

3の気象庁ホームページ(図1)の注釈には、

「地球温暖化の影響の可能性はありますが、アメダスの観測期間は約40年と比較的短いことから、地球温暖化との関連性をより確実に評価するためには今後のさらなるデータの蓄積が必要です。」

と書いてある。

防災白書は、国民の命と財産を守るための重要な資料である。地球温暖化については、その影響を誇大に言ったり、誤解を招くデータを示したりするのではなく、正確を期するべきであろう。改善を要望する。

なお豪雨について筆者は何度かこのコラムで書いているので併せて参照されたい。