英国政府の「2050年CO2ゼロ」計画の費用は、世帯当たりで累計1000万円を大きく超える、とする報告(Montford, 2020)を紹介する。コストが膨らむ重要な要因の1つは不安定な再生可能エネルギーである。
同報告では、CO2をゼロにするための手段の一部として、1) 電力供給のためのCO2をゼロにすること、および2 )省エネ改築の費用、を見積もっている。
下表は、2050年までの30年間の累積費用についての試算結果である。電力のCO2をゼロにする費用は国合計で189兆円、世帯当たりで675万円となった。省エネ改築の費用は国合計で122兆円、世帯当たりで432万円となった。両者の合計では、国合計で311兆円、世帯当たりで1107万円となった。
表 2050年迄の30年間の累積費用
出典: Montford報告より。1ポンド=135円で換算した。
何とこの2項目だけで、世帯当たりで累計1000万円を超える!
しかもこれはCO2ゼロのためのコストの一部に過ぎない。産業部門と運輸部門は上記の表には入っていない。
この試算に当たったのは筋金入りのプロ達である。
電力供給の費用の試算は英国ナショナル・グリッドの電力ネットワーク部長であったColin Gibsonが担当した。Gibsonは、太陽光発電や風力発電は出力が安定しないために、停電を頻発させず安定して電力を供給するためには、蓄電池の設置や送電線の増強などで莫大な費用がかかることを指摘している。試算では、CO2ゼロの為の電力供給システムコストは3倍になり、電力小売り価格は2倍になる。
省エネ改築の試算は英国自治省の首席科学アドバイザーだったMichael Kellyが担当した。彼は実際に断熱省エネ事業を手掛けて得たコストデータに基づいた試算をした。
日本でもCO2ゼロの費用の試算は多くあるが、技術的・経済的な検討が甘いものが多い。Gibsonが示したのは、不安定な再生可能エネルギーが大量に入っても停電が頻発しないようにするためには莫大な費用がかかる、ということだ。
Montford, Gibsonらは、再生可能エネルギーではなく原子力を活用することで、電力供給に関してはコストゼロでCO2低減が可能としている。
だがそれでも、表に含まれていない産業部門や運輸部門の費用があることを忘れてはならない。特に産業部門のCO2削減は更にハードルが高くなる。
「2050年CO2ゼロ」のコストは極めて高い。日本もこれをよく認識する必要がある。