太平洋の島嶼国において、中国の政治・経済面での影響力が高まっている。港湾建設計画が持ち上がり、軍事基地化も懸念されるようになった。
これら島嶼国は、地球温暖化による海面上昇で水没の危機にあると言われてきたが、これはほぼ誤りだった。
「中国化」は太平洋のみならず、世界の至る所で起きている。日本にとっても、温暖化ではなく、中国化にどう対抗するかということが喫緊の課題である。
1. 中国の外交攻勢
ソロモン諸島とキリバスが、昨年相次いで台湾と断交し、中国と国交を樹立した。黒崎岳大先生がまとめているように、中国は近年、10年間で2000億円に上る潤沢な援助、インフラ整備、資源開発、農産物・海産物の輸入、中国人観光などの経済関係をテコに、太平洋島嶼国との関係を深め、政治力を高めてきた。
また防衛省の報告にあるように、中国は、フィジー、パプアニューギニアといった地域の大国と友好関係にあり、この両国は一帯一路構想に沿った経済協力を深めている。
出典:防衛省防衛研究所
さらに、最近になって、中国がキリバスにおいて国際貿易港を建設するという計画が持ち上がった。キリバスの首都タラワ島は海抜が僅か3mしかないが、そこに土地を造成して建設する模様だ。技術的には南沙諸島に人工島を造ったものと同じ技術で出来ると見られる。
港は民生用とされているが、やがて軍事用に転用される危険を孕む。現に、南沙諸島における人工島も、民生用と言い続けていたが、今では軍事用になっている。
キリバスは太平洋戦争における日米の激戦地であり、軍事上の要衝でもある。そこに中国海軍が現れる日が近いとなると、心穏やかになれない。
2. 温暖化「脅威論」は誤りだった
太平洋の島嶼国というと、地球温暖化によって海面が上昇することで「水没の危機」にさらされている、という報道が多かった。
だが最近では、これは殆ど聞かなくなった。何故かというと、間違いだったことが分かったからだ。こうなると、メディアは謝罪も訂正もせず、単にだんまりを決め込んで他の話題を流すのがお決まりのパターンである。
水没が懸念されていたのは海抜が数メートルしかないサンゴ礁の島々だった。だがサンゴは動物であり、海面が上昇するとその分速やかに成長するので、水没はしない。人工衛星で計測しても、島々の面積は減っていないことは10年も前に判明している。
水質汚染などでサンゴが死ぬと勿論成長はしなくなるが、その時は、土地を造成し堤防を造ればよい。それはキリバスでも何処でも日常的にやっていることの延長だ。地球温暖化で海面が上昇するといっても、100年かけて数十センチという話なので、時間はたっぷりある。南沙諸島では人工島が数年で出来たぐらいだから、もともと島があるところを維持するのは技術的には全く難しくない。
概して、地球温暖化の脅威論は誤りだったと筆者は見ている。サンゴ礁への影響を含めて、さらに詳しくは拙著「地球温暖化問題の探究」をご覧いただきたい。
3.温暖化ではなく中国化こそ喫緊の課題
ここに戦慄する1枚の地図がある。中国が制定した香港国家安全維持法を巡り、人権抑圧を懸念して中国を非難した国が赤で、内政問題であるとして中国を支持した国が緑で塗られている。見事に世界を2分しており、これから21世紀における長く深い対立を暗示するものだ。
中国政府が制定した香港国家安全維持法を非難した国と支持した国(Wikipedia)
太平洋島嶼国では、マーシャル諸島とパラオが中国を非難し、パプアニューギニアが中国を支持している(参照:newsbreak.com)、
今のところ、島嶼国では、親中国と反中国の国々が入り乱れている状態である。ツバルは中国企業の人工島建設計画を断った。また諸国内での世論も分かれている。ソロモン諸島では台湾との断交に住民が反発している。
だがもしも将来、太平洋が中国一色に染まるとすれば、日本の安全保障は大いに脅かされる危惧がある。
太平洋島嶼国は、経済的に自立することはまずあり得ない。歴史的な経緯によって、離島だけで国家になっている状態だからである。日本ですら離島の経済は単独ではやっていけない。増して、隣国まで千キロも離れている島嶼国家では難しい。
よって必ず外国からの援助が必要であり、また海外との経済関係と人的交流も必要である。自由陣営は中国に負けずに太平洋島嶼国との連携を深めねばならない。それが島嶼国の人々の為になり、自由陣営の為にもなる筈だ。
勿論、日本にとっても他人事では無い。寛大な援助、技術協力、人的交流など、あらゆる側面を強化すべきではないか。