主なポイント
・トランプ政権は本年6月以降、香港国家安全維持法制定・施行、新疆ウイグル自治区の人権侵害等への批判を強めている。加えて、台湾に米国政府高官を派遣したほか、武器輸出を計画するなど、中国に対して一段と強硬姿勢に転じている。
・中国への関心が高まり、全米各地で中国を批判する人が増加するとともに急速に対中感情が悪化。中国について「好ましくない」と回答した人の割合は73%に達した。
・本来であれば、民主党のバイデン候補はトランプ政権の一部の対中強硬政策について反対意見を述べてもおかしくない。しかし、多くの国民の反中感情を考慮し、民主党陣営も共和党の対中強硬論に劣らないような厳しい対中強硬論を唱えている。
・対中政策方針に関して両陣営の主張はほとんど違いがなく、大統領選挙の争点としての関心は低い。しかし、仮にバイデン候補が当選し、極端な対中強硬論を修正しようとしても、大多数の国民の反対により修正が難しくなるリスクが指摘されている。
・国内の感情的な対中強硬論を強く懸念する中国専門家グループが、トランプ政権の対中強硬政策を批判するオープンレター「China is not an enemy」を発表し、米国を代表する元政府高官、国際政治学者ら100名以上がこれに署名した。
・バイデン政権が発足しても、最初の1年間はコロナ対策を含む米国経済の立て直し、民主主義政治の基盤再整備、黒人差別問題への対応など、国内問題への対応に追われる。その後徐々に外交の立て直しに着手していくと予想されている。
・バイデン政権発足の場合、日本は従来のように無批判に米国に追随するのではなく、また中国に対してもある程度独立的な立場から穏健な姿勢を示し、より現実的な視点から米国と中国の間の融和を促す役割を担うことが期待されている。
・バイデン政権は中国に対する攻撃よりむしろ米国内の技術力を強化する産業政策の実施に力点を置く。鉄鋼、自動車、産業機械等伝統的製造業分野で日本企業が米国の国内産業の再建に貢献すれば、バイデン政権が高く評価すると予想される。
・米国側の対中政策の変化が米中関係の改善につながるかどうかは、習近平政権の対米融和姿勢に大きく依存する。習近平政権が柔軟に対応するかどうかは不透明である。
・中国のマスク外交、香港問題、ウイグルでの人権侵害等に対する反発を背景に、ドイツ、フランス両国では反中感情を抱く人の比率はいずれも6割前後に達している。ただし、欧州の反中感情は米国ほど極端ではなく、欧州諸国政府の対中外交姿勢も米国政府の強硬路線とは一線を画している。