メディア掲載  外交・安全保障  2020.10.01

韓国の安全保障・外交戦略――隣国は「レッドチーム(中国・北朝鮮・ロシア)」入りを目指しているのか?

SYNODOS (2020年9月30日)に掲載

国際政治・外交 朝鮮半島

1.依然として破綻寸前の日韓関係

2019年7月、日本政府は韓国に対して、半導体などの材料となる化学製品3品目の輸出規制を課した。以来、1年以上の月日が経過した。日本側が指摘した韓国の安全保障貿易体制の不備に対して、この間、韓国政府はその不備を強化したとアピールしている。

具体的には、以下の3つの対応が取られた。第一に、輸出規制措置以来、課長級会議・局長級政策対話を重ね、それ以前は3年半の間行われていなかった日韓関係省庁間の政策対話を促した。第二に、通常兵器に転用される可能性がある物資の輸出を管理するために、「対外貿易法」を改正し、規制の法的根拠を明確にした。第三に、産業資源部内に、「貿易安保政策官」(貿易安保政策課、貿易安保審査課、技術安保課)をトップとする新組織を作り、担当人員を従来よりも多く配置した。これは「輸出管理部門の人員が足りない」という日本側の指摘に対応するためである。(注1)


韓国政府の立場は、「日本側の指摘に応じて我々は改善したのだから、日本側の対韓輸出規制を2019年7月1日以前の状態に戻すべきだ」というものだ。そして、「あくまでボールは日本側にある」との姿勢を示した。(注2) その後、韓国側が一方的に2020年5月末までを期限として、こうした措置に対する回答を日本側に求めた。しかし、期限内に日本側からの回答がないことを理由に、一度取り下げていたWTO提訴の手続きを再開し、同年7月29日にWTOは紛争処理小委員会(パネル)を設置した。


日本側としては、韓国側のこうした安全保障貿易管理の制度改善を評価しつつも、「改正された法律と新設された組織が、実際にどのように運用されるのか一定期間見極める必要がある」という立場だ。韓国側の一方的なWTOパネル設置の動きに対して、梶山経済産業大臣は「今後の政策対話の開催は難しくなる」との認識を示し、再び両国の安全保障貿易管理当局間の関係が悪化しているというのが現状だ。(注3)


周知のとおり、この問題の背景には徴用工問題がある。この問題が韓国国内において適切に解決されていないことが、現在の日韓関係不和の元凶となっている。2018年10月30日に韓国の大法院(最高裁)で賠償命令判決が出た後、被告側日本企業の韓国内の資産が差し押さえられた。その後、当該資産が現金化されると再三言われながらも、執行されないまま約1年半の年月が経過した。この問題は韓国国内で解決すべきだとする日本側の主張に対して、韓国政府は「司法の問題」だとして取り合おうとしない。仮に現金化が実現すれば、現在の日韓関係を形作る根幹となってきた日韓基本条約は有名無実化し、さらなる報復の応酬によって両国関係は崩壊する可能性が極めて高い。


2.安全保障分野にまで及んだ日韓関係悪化

当初、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は就任以前からの方針通り、対日外交を歴史問題と安保・経済問題とに分ける「ツー・トラック外交」を基本方針としてきた。歴史問題の解決までには時間がかかることを前提としながら、同時並行的に、両国の利益となる安保・経済分野においては未来志向の協力関係を発展させるという意思を明確にしてきた。


しかしながら、2020年9月の今から振り返ってみれば、こうした日韓関係の泥沼化の流れは、2018年9月以降韓国国内で問題化した「旭日旗問題」に始まり、同年12月に発生した「火器管制レーダー照射事件」によって、すでに両国間の緊張状態は最高潮に達していた。いずれも海上自衛隊と韓国海軍との間で起きた問題であった。それまで安全保障の領域は、歴史問題にあまり影響を受けずに実務的に執行されて、相互の信頼関係が構築されてきた。だが、文政権の表向きの外交方針に反して、安全保障協力の領域までもが関係悪化の波に侵食されてしまったのである。

その後、日本政府による対韓輸出規制によって、経済分野にまで関係悪化の波が及んだ。それに伴い、韓国政府は、昨年8月22日に開かれた国家安全保障会議常任委員会において、日韓軍事情報保護協定(以下、「GSOMIA」: General Security of Military Information Agreement)を更新せずに終了させることを決定(GSOMIAは24日に自動延長の更新期限を迎えていた)、文大統領はそれを了承した。


日韓GSOMIAは、北朝鮮の弾道ミサイル発射への対処の際などに、日韓の間だけでなく、日米韓の間での迅速な情報交換を可能にする極めて重要な取り決めである。この決定によって、日韓防衛協力の基盤となるGSOMIAが事実上廃棄されるものと考えられた。GSOMIA廃棄決定は単に日本の安全保障に影響を及ぼすだけでなく、北東アジアの安定に寄与してきた日米韓の連携に深刻な亀裂をもたらす可能性がある選択であった。そのため、韓国にとって最も重要な同盟国である米国の意向にも反する決定を下したことから、日本では「いよいよ韓国がレッドチーム(中国・北朝鮮・ロシア)入りをするのではないか」、「(韓国が敵方になることで)対馬海峡が我が国の防衛最前線になることに備えなければならない」、といった主張が少なからず散見されたのである。


3.韓国が「レッドチーム」入り?

「レッドチーム」とは軍事作戦のための机上演習を行う際に、味方を表す「ブルーチーム」の対極、すなわち敵のことを意味する言葉である。それでは果たして、現在韓国は米国を中心とした自由・民主主義陣営に別れを告げて、中国、北朝鮮といった民主主義ではない独裁体制国家との連帯へ向かっているのだろうか。


これと併せて、日本では「韓国は中国の顔色ばかり窺っている」と語られることが多い。有史以来、中国と陸で接する朝鮮半島は、常に巨大な中国の影響下にあり、その圧倒的な力に向き合いながら自らの生存を図ってきた。現在の中国に対する韓国の振る舞いを、「事大主義によるもの」と一言で片づけ、「韓国は中国に傾斜している」と判断するのは正しいことなのだろうか。

まず一般論として、韓国が中国に対して、日本に対しては決して見せない「配慮」をすることは明白だ。最近の事例で言えば、新型コロナ・ウイルス感染拡大に伴う入国制限を巡って、今年2月末に中国各地で韓国人入国者を強制隔離する措置を取った。これに対して、韓国政府は冷静な対応に終始した。その一方で、今年3月初めの時点ですでに日本以外の約100の国々が同じような対韓入国制限をしているにも関わらず、日本政府が行った対韓入国制限に激しい反応を示したのである。(注4)


さらに、こうした韓国による中国への振る舞いが「配慮」を越えて、「擦り寄り」と言われるまでに露骨な行動をとることもこれまで見られてきた。例えば、2015年9月に、朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)が中国・北京での軍事パレードに参加した。欧米を中心とする自由・民主主義国の中から唯一参加したという事実は、結果的に日米両国に対して誤ったメッセージを与えた。2017年5月の政権交代後も、同様に中国に接近する外交姿勢を見せてきたことは事実である。


こうした朴槿恵政権以来の中国への接近の背景にあるのは、朴槿恵・文在寅両政権に共通した南北政策の原理原則である。つまり、「朝鮮半島の未来を決定する主人公は韓民族であり、南北間の信頼関係を構築して北の非核化を実現する。その上で朝鮮半島を中心とした経済協力システムを基盤に北東アジアと中央アジア、そして欧州を繋ぐ経済ネットワークを作って、韓国の繁栄につなげていく(注5)」という未来図を描いているのだ。


朴槿恵政権の「北東アジア平和協力構想(NAPCI)」、文在寅政権の「東北アジアプラス責任共同体」と、その看板の名は違っても、南北主導、ひいては韓国がその牽引役という立場を得て政策実現をする。そしてそのために、中国の協力を最も必要としてきたのである。


しかしながら、2017年4月に在韓米軍がTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense missile:終末高高度防衛ミサイル)を配備したとき、それに対する中国の経済報復によって、韓国は自国経済の過度な中国市場依存による脆弱性を痛感した。この時期、筆者が韓国を訪問して様々な分野の人と面会した際、公式の場では中国を一切批判しないものの、一対一で話すとあちこちから中国の経済報復に対する強い憤りの声が聞こえてきたものである。それでも、現政権は自らが南北平和体制構築のための牽引役となる「韓半島運転者論」を実現するために、中国の協力を得ることを優先したのだ。


中国への配慮として最も代表的な例は、2017年10月末に出された、いわゆる「3NO原則(以下、3NO)」である。米軍が配備したTHAADによる中国の安全保障上の懸念を払拭して、冷え込んでいた両国関係を改善するために、韓国政府が中国政府に対して、(1)韓国内にTHAADを追加配備しない。(2)米国のミサイル防衛網に加わらない。(3)日米との軍事同盟を構築しない、という三つの立場を表明した。(注6)


これにより、2015年12月の日韓合意以後、翌16年11月の日韓GSOMIA締結といった日米韓三カ国連携強化の流れに対して、韓国政府が冷や水を浴びせた形になった。2015年の日韓合意を実質的に無効化する動きに出るなど、両国関係が実質的にこじれ始めたのもこの頃からで、中国にとっては喜ばしい展開であったに違いない。


4.インド太平洋戦略と新南方政策

日米韓の三カ国連携にヒビが生じた時期を前後して、日本は米国を中心とするインド太平洋地域における多国間の枠組み作りを具体化してきた。それは、2016年8月のTICAD(Tokyo International Conference on African Development) VI(第6回アフリカ開発会議)開会セッション で、安倍総理が基調演説で提唱した「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」を契機としていた。


特に安全保障面では、従来から関係を密にしてきた豪州との改定ACSA締結(2017年1月)など、関係強化の取り組みが続いている。インドとの関係においても、2017年6月に日本が初参加して日米印共同海上演習となった「マラバール2017」を行うなど、日米豪印のいわゆる「クアッド」を構成する国との関係強化を図り、中国に対する牽制を行ってきた。


これに対して、日本と対照的な動きを見せたのが韓国である。日本と同じ資源輸入国の韓国にとっても、南シナ海や東シナ海は国益上重要なシーレーンの一部であるはずだ。ところが、韓国は同海域における中国の海洋進出に対して、その立場を曖昧にしてきた。その一方で、韓国もまたASEANやインドとの関係を強めている。それが、この間に文在寅政権が強力に推進してきた「新南方政策」である。


この政策は、「ASEANとインドなどの国々と政治・経済・社会・文化など幅広い分野で、周辺4強(米国・中国・日本・ロシア)と類似の水準に関係を強化し、朝鮮半島を越えて東アジア、全世界共同繁栄と平和を実現する(注7)」とうたっている。しかし、端的に言えば、その内実は、中国依存による経済リスクを回避するため、中国以外の国々との経済関係発展を目的とした外交政策である。


新南方政策を推進するために、文大統領のASEAN諸国訪問など、積極的な外交日程が組まれた。文大統領は2017年11月のインドネシア訪問から、2019年9月のラオスに至るまで、対象国11ヵ国の訪問を完了した。(注8)このような韓国の対ASEAN・インド外交は日本ではほとんど紹介されない。むしろ、日本で頻繁に登場するのは、日韓関係という極めて限定的なフレームワークから捉えられた韓国の姿ばかりである。

2018年秋に興味深い出来事があった。同年10月28日に日本を公式訪問したインドのモディ首相は、首脳会談前日に、山梨県内にある安倍首相の別荘に招かれた。日本のメディアは安倍首相が初めて外国要人を自らの別荘に招いたことを、「異例の厚遇」として大々的に報じた。しかし、モディ首相が日本から帰国した翌週に、文大統領夫人をインドに公式招請して厚遇した事実をどれだけの日本人が知っていただろうか。11月4日に金正淑(キム・ジョンスク)氏が、韓国大統領夫人として16年ぶりの単独外国訪問として訪印し、国賓に準ずる待遇で歓待された。韓国もまた、モディ首相との個人的な関係を発展させることに成功したのである。

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出典:http://www.korea.kr/special/policyCurationView.do?newsId=148853887


5.新南方政策の外縁拡大と防衛産業協力

2018年後半から文在寅政権は、新南方政策の射程をオセアニア地域まで拡大した。同年12月に、文大統領は韓国大統領として9年ぶりにニュージーランドを国賓訪問した。首脳会談の中で文大統領は、「ニュージーランドは韓国政府が推進している新南方政策の重要な協力パートナー」だと述べた。(注10)両国は防衛産業協力を活性化することで合意したのである。(注11)

こうした韓国のニュージーランドへのアプローチに刺激を受けたのが豪州である。豪韓関係は伝統的に良好な関係を維持してきたが、近年関係が停滞していたとされる。(注12)だが、昨年9月の豪韓首脳会談で、両首脳はこれまで両国関係を発展させてきた教育や投資、資源インフラ分野に加え、防衛産業協力を拡大することを強調した。(注13)その後同年12月に、豪州・キャンベラで開催された第4回2プラス2会合(注14)では、豪州の朝鮮半島における安保面での貢献(注15)について言及され、外交・安保・経済・開発などの分野で、韓国の新南方政策と豪州のインド太平洋戦略との接点を模索することなどが合意された。(注16)

また、本会合に先立ち、同年10月29日から31日まで、韓国・浦項市沖の海上において両国海軍による共同訓練が実施された。6回目となる同訓練に初めて豪州海軍のイージス艦「ホバート」が参加して、韓国海軍の駆逐艦などと合同訓練を行った。(注17)2018年9月19日に締結された南北軍事分野合意書締結以来、韓国は北朝鮮に配慮して、米韓合同軍事演習などの大規模演習を縮小しようとしてきたが、そうした姿勢とは対照的な出来事であった。

現在、両国の国防協力の中で最も注目されているのが、韓国から豪州への防衛装備品売却である。最近では、9月4日に豪州陸軍の自走砲導入事業において、韓国製のK-9が単独優先交渉先に選ばれた。このまま契約となれば、1兆ウォン(約895億円)規模の事業になると言われている。(注18)また、同じく豪州陸軍の次期装軌式装甲車選定に、韓国製「AS21レッドバック」とドイツ製「KF41リンクス」が最終候補に残り、受注獲得へ向けた競争の最中である。豪州の新しい装備調達計画は、今後10年間で約20兆円規模と言われているが、そこに韓国の防衛産業が積極的に展開している。

こうした国防協力をする上で基盤になっているのが、朝鮮戦争を契機に国連安保理決議によって作られた朝鮮国連軍の枠組みを通じたネットワークである。豪州とニュージーランドは70年前に朝鮮半島に参戦した戦闘支援国である。(注19)さらに、最近の特徴として、防衛産業協力という手段を使って、インド太平洋地域各国との二国間防衛協力を強固なものにして実利を得ているのである。


6.「米国」か「中国」かという選択に迫られる韓国

こうした韓国のしたたかな外交戦略は、文在寅政権が発足した2017年から翌年までは、極めて順調に進めることができたと考えられる。しかし、2019年の春ごろから韓国を取り巻く風向きが変わったようだ。

2019年5月に韓国外交部の組織改編によって、アジア太平洋局が新設され、既存の東北アジア局から移った日本に加え、豪州とインドが同じ管轄となった。日本が抜けた東北アジア局が事実上の「中国局」になったことに注目が集まったが、日本がアジア太平洋局に入り、クアッド構成国の豪州・インドと同じ管轄になったことは何を意味するのだろうか。

おそらく、韓国は米国から、インド太平洋地域における姿勢を見せる必要性に迫られたのではないかと考えられる。その後、6月末に文在寅大統領が米韓首脳会談の中で、初めて新南方政策とインド太平洋戦略の連携を認める発言をした。


2020年に入って米中対立がさらに先鋭化するにつれて、韓国実務者レベルからも率直な発言が目立つようになった。例えば、5月27日に韓国のシンクタンクで行われた会議の席上で、外交部の高ユン周(コ・ユンジュ)北米局長は、「韓国は米国とは同盟関係にあり、中国とは強力な経済的関係にある」と発言して、米中どちらか一方には付きにくいとの苦しい立場を明らかにした。(注20)その一方で6月3日に李秀赫(イ・スヒョク)駐米韓国大使は、「これからは(米国か中国かという)選択を強要されるのではなく、今や韓国は選択することができる国だという自負心を持っている」と発言した。(注21)


米国側の姿勢としては、揺れる韓国を自陣に取り込もうとしていることは明らかだ。今年5月にトランプ政権が発表した議会報告書によれば、「日本のFOIPや(中略)韓国の新南方政策などの相互に整合されたビジョンとアプローチに協調する」と記述され、韓国が同じ価値観を共有する国の一つであることを明確にしている。(注22)


7.最後に 

以上のように、米中対立が深刻化しつつある昨今、韓国に対する米中両国からの引き抜き攻勢は熾烈だ。これまで韓国は、米中の狭間で「安保は米国、経済は中国」と、自らの立ち位置のベスト・バランスを常に模索してきた。つまり、韓国はレッドチームに入ることを目指しているのではなく、どちらか一方に過度に傾斜しないように踏み留まる力も働かせてきた。

また、韓国は常に自らの自尊心を守るために、同盟国の米国であろうと最大の利益を得るために、ギリギリの交渉を繰り返してきた国であることも看過できない。外交はテーブルの上では笑顔で握手をして、下では蹴り合う(逆も然り)と言われるが、韓国外交にも同じことが当てはまる。結局日韓GSOMIAについては、韓国側が「いつでも破棄できる」と言いながらも、2020年の協定更新日(8月24日)が静かに何事もなく過ぎた。

韓国は米中の間でバランスを取り続ける苦しみを味わいつつも、世界各国とネットワークを構築して多くの国々を味方につけて自らの生存に役立てている。上述した朝鮮国連軍の枠組み以外にも、例えば、韓国は現在も南スーダン国連PKOに約300名弱の兵士を派遣している。それ以外のPKOや国際協力活動なども含めると、約1,000名の将兵が国際貢献を行っている。

我々が思う以上に、国際社会における一定の存在感があることを忘れてはならない。「国家間の約束は守るべきだ」、「GSOMIAを破棄しようとする韓国はけしからん」と正論を展開したところで、国際社会が我々の期待するような反応を示すとは限らないのである。

我々が注視すべきは、「韓国がレッドチームに行くのか、ブルーチームに留まるのか」という二択ではない。韓国では、歴史上初めて、日米中露という周辺大国からの力による干渉からの自由を獲得するために、確固たる軍事力をつけるべきだという意見や動きが少しずつ表に出てきている。2017年から噂されていた原子力潜水艦の導入が現実になりつつあり、攻撃手段としてのSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)も完成間近であると見られる。(注23)つまり、「真の独立を果たす」との目標のために、「核武装を図る」という選択もあり得ることを想定しておくべきだろう。

韓国外交を光のプリズムで例えるならば、日韓、あるいは日米韓の三ヶ国の関係から見える政策は、光のスペクトル(様々な外交政策)を成す一色または二色に過ぎない。日本は隣国である韓国とは歴史問題を巡って感情的になりやすく、近視眼的な見方で考えがちだ。真の国益を守り隣国との安定した関係を構築するためには、不都合な真実であっても目を向けて、冷静かつ冷徹な見方を持つ必要があるだろう。

今後の地域情勢の地殻変動において、韓国の力を過大評価も過小評価もせず、ファクトとデータに基づいて、隣国との付き合い方について頭の体操をするべき時が来たのである。




(注1)「韓国政府が貿易安保の専門組織新設 日本の輸出規制強化受け」『聯合ニュース(日本語版)』2020年4月28日 

(注2)「韓国閣僚「日本が挙げた理由を全て解消」輸出規制強化の撤回促す」『聯合ニュース(日本語版)』2020年3月6日 

(注3)「梶山経産相「日韓の政策対話 開催困難に」WTOの小委員会設置で」NHK NEWSWEB、2020年7月31日

(注4)「韓国政府、「860人隔離」の中国には対応せず日本に激高する理由は?」『中央日報(日本語版)』2020年3月6日

(注5)こうした原理原則については「文在寅の韓半島政策 平和と繁栄の韓半島」統一部、pp.31-32、2017年に詳しく記述されている。

(注6)詳細については、伊藤弘太郎「中国との関係に苦慮する韓国 〜対中3NO原則の現在〜」『国際情報ネットワーク分析IINA』笹川平和財団、2019年5月30日を参照。

(注7)「新南方政策とは」『政策ウィキ』文化観光体育部  

(注8)同上

(注9)「金正淑女史、16年ぶりに大統領夫人単独海外訪問」『中央日報(韓国語版)』2018年11月5日

(注10)「文在寅大統領、ニュージーランド総理と首脳会談」駐ニュージーランド韓国大使館、2018年12月19日

(注11)「韓国・ニュージーランド首脳会談…防衛産業・南極研究などの協力を強化」『韓国経済』2018年12月4日

(注12)Tom Corben, ”Course Correction: Promising Signs for Australia-South Korea Relations”, The Diplomat, October 12, 2019

(注13)「韓・豪州首脳会談関連書面ブリーフィング」青瓦台、2019年9月24日  

(注14)韓国にとって豪州は、2013年以来、米国以外で唯一2プラス2外務防衛閣僚会合(隔年開催)の枠組みを有する国である。

(注15)2019年7月に韓国にある国連軍司令部の副司令官に豪州海軍中将が就任した。すでに日本の横田基地にある国連軍後方司令部司令官として豪州空軍大佐が務めていることもあり、豪州軍は米軍に次ぐ存在感を示している。

(注16)韓豪2プラス2会合の結果については、韓国側が 「第4回韓-豪州外交・国防(2+2)長官会議開催」韓国外交部、2019年12月10日、豪州側はDepartment of Foreign Affairs and Trade, “Joint Statement: Australia-Republic of Korea Foreign and Defence Ministers’ 2+2 Meeting 2019” をそれぞれ参照。

(注17)「豪州、韓国との訓練に初めてイージス駆逐艦派遣」『中央日報(韓国語版)』2019年10月19日

同記事によれば、2021年から韓国海兵隊が豪州での米軍との合同演習「タリスマン・セイバー」への参加を計画しているとされる。

(注18)「オーストラリア陸軍、韓国製K9自走砲を輸入…世界で1700台運用中」『中央日報(日本語版)』2020年9月3日

(注19)その他の新南方政策対象国では、フィリピンとタイが戦闘支援国、インドが医療支援国として韓国を支援した。

(注20)「韓国外交部「米国は同盟、中国は経済的つながり」…米中衝突で綱渡り外交に「苦心」」『中央日報(日本語版)』2020年5月27日

(注21)「駐米韓国大使「韓国、米中間の選択を強要ではなく選択できる国」『中央日報(日本語版)』2020年6月4日

(注22)“United States Strategic Approach to The People’s Republic of China,” May 20, 2020, p.2,

(注23)韓国の国防力増強の動きについては、伊藤弘太郎「韓国の国防費増額傾向をどう読むか」『国際情報ネットワーク分析IINA』笹川平和財団、2019年2月4日を参照。