ワーキングペーパー  エネルギー・環境  2020.09.29

【研究ノート】CO2の削減によって、気温は何度下がり、豪雨は何ミリ減ったのか、簡単に概算する方法――再エネ大量導入の例

エネルギー・環境

概要

太陽光発電等の再生可能エネルギーの賦課金は年々増大しており、今や年間2.4兆円に上る。ではこれで、気温はどれだけ下がり、豪雨は何ミリ減ったのか? 「TCRE」と「クラウジウス・クラペイロン関係」を用いて簡単に概算する方法を紹介する。豪雨の雨量はせいぜい3ミクロン程度しか減っていないことが分かる。


1 TCREとは何か

気温上昇の概算の方法はシンプルなものである。炭素(C)が1兆トン、すなわちCO23.67兆トン排出されると、約1.6℃の気温上昇がある、という比例関係を使うだけである。この係数(=1.6/兆トン)TCREと呼ばれるもので、IPCCの報告書に基づく。

TCREとは累積炭素排出量に対する過渡的気候応答(transient climate response to cumulative carbon emissions)のことである。長期的な全球気温上昇が、累積のCO2排出量と概ね比例関係にあることから、このTCREという係数がIPCCの第五次評価報告書(2013)で提案された。TCREの値は0.8℃から2.5℃の間、とされている。以下では簡単な概算のため、この中間をとってTCRE1.6℃として試算を進める。

TCREが提案された動機は、特定の気温目標、たとえば産業革命前との比較で2℃ないし1.5℃といった目標を達成するために、あと何トンのCO2排出が許容されるか、という所謂カーボンバジェットについて論じることであった。ただし本稿のような目的にもこのTCREは流用できる。なおTCREについての解説は、例えば以下リンクがある。

電力中央研究所 HP

環境省 HP p11


2 TCREを用いた気温変化の概算

概算については下表にまとめた。以下、順に説明しよう。

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まず、日本のCO2排出量は年間約10億トンだから、これによる気温上昇は1.6℃の3670分の10.000436℃、即ち0.436ミリ℃になる。年々の排出で、地球の平均気温がこれだけ上昇していることになる。

このうち、発電によるものは約40%である(下図)。再生可能エネルギーが導入されることにより、このCO2の一部が削減されたことになる。

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電気事業連合会ホームページ

さて発電に占める太陽光発電等の再生可能エネルギーの割合は、大量導入が行われた2011年から2020年までの過去10年間程度で平均すると5%程度であったので(下図)、再生可能エネルギーによる気温の低下は0.000436℃×40%×5%×10年=0.000087℃、即ち87マイクロ℃となる。

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https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/2-1-4.html


3
 クラウジウス・クラペイロン関係を用いた降水量変化の概算

これによる降水量の減少はどれだけか。気温が上昇すると大気中の水蒸気量が増え、豪雨が強くなるというクラウジウス・クラペイロン関係を仮定しよう。

なおこの関係自体、じつは統計的に有意に観測されてはいないが、ここでは仮にこの関係が成り立つとする(従って、この方法は温暖化の降水量への影響を過大評価している可能性がある)。温暖化による豪雨の雨量変化について、詳しくは、文献を参照されたい。

 クラウジウス・クラペイロン関係が成立するならば、1℃の気温低下が6%の雨量減少となるから、仮に1日に500mmの豪雨であれば、上述の気温低下によって0.000087℃×0.06×500=0.002616mm、つまり3ミクロンの雨量が減少したことになる。

4 試算結果のまとめとその利用

以上をまとめると、過去10年にわたる太陽光発電等の再生可能エネルギーの大量導入による気温の低下は僅かに87マイクロ℃であり、一日に500mmの豪雨の降水量は3ミクロンしか減らなかった。つまり殆ど全く気温は下がらず、雨量も減らなかった。

このような試算が重要なのは、日本が今後どのようにお金を使うかを考えるためである。ダムや堤防といった治水事業などの防災に投資すべきだろうか? それとも太陽光発電等のCO2削減策に投資すべきだろうか? 豪雨災害から国民を守るためには、今後、この両者のバランスをどうすべきだろうか?

以下に、過去の実績を見てみよう。再生可能エネルギーの賦課金は増大し、年間2.4兆円を超えている。これに対して、治水事業費はピークより1兆円以上も減少している。昨年の台風19号等、近年の災害においては、ダムや堤防等の防災投資が遅延ないし不足していた地域が、より深刻な被害を受けたとの指摘がある。[1]

すると、国民の財産と安全を守るためには、治水事業への投資は重要そうだ。他方で、太陽光発電をいくら導入しても豪雨は事実上全く減らない。

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図 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入後の賦課金の推移

出典 資源エネルギー庁

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図 国内治水・総事業費の推移

出典: 藤井聡https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/697495460351400

本稿で紹介したTCREとクラウジウス・クラペイロン関係を用いた比例計算で、どのようなCO2削減策でも、それによる気温変化と、豪雨の降水量変化を計算できる。読者諸賢も、ぜひ試してほしい。

そのような試算に基づいて、更には、CO2削減投資の効果を、他の投資と比較できる。例えば農業部門であれば、CO2削減投資による農業への被害軽減額と、農業技術の導入によって生産性を高めるための投資の収益が比較できる。

ノーベル経済学賞を受賞したノードハウスが述べているように、一般的に言って、温暖化問題に合理的に対処するためには、2つのバランスを図ることが肝要である。第1は、CO2削減投資と防災投資のバランス(=緩和策と適応策のバランスとも言われる)である。第2は、CO2削減投資とその機会費用のバランス(=CO2削減投資と他の投資とのバランス)である。本稿がより本格的な検討の一助となれば幸いである。  


[1]藤井聡 台風19号被害は「人災」である